リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第7回ヘルスケアビジネス研究報告会レポート「ヘルスケアマーケティングのイノベーション」

#いまマーケティングができること

第7回ヘルスケアビジネス研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:ヘルスケアマーケティングのイノベーション
日 程:2022年8月20日(土)10:00-11:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
司 会:真野 俊樹 氏(中央大学ビジネススクール 大学院戦略経営研究科 教授)
講 演:Lee Aase 氏
    タッシル 恵子 氏(米国医療通訳&コーディネーター)
 
【報告会レポート】
 ヘルスケアビジネス研究会は、真野俊樹教授をリーダーに日本のヘルスケアビジネスを探求する研究会である。第7回となる今回の研究会では、「ヘルスケアマーケティングのイノベーション」というテーマで講演を実施した。オンラインでの開催で20名を超える参加者の下、貴重な情報共有の場となった。今回の研究会では、Mayo Clinicにてマーケティングを導入するなどヘルスケア領域でのソーシャルメディア活用の先駆者であるAase氏にご講演いただいた。ヘルスケア領域でのソーシャルメディアの歴史、マインドセットの転換、適切なアプローチ、ストーリーテリング、人間味を感じさせるテクノロジー活用などのベストプラクティスについての紹介と共に、Mayo Clinicのような大規模組織の他、HELPcareのような中小規模組織でも展開できるソーシャルメディア&イノベーション戦略について紹介いただいた。Lee Aase氏の講演に続き、参加者を交えた質疑応答とディスカッションを実施した。米国でのソーシャルメディアやイノベーションの事例は、私達が日本のヘルスケアビジネスが抱えている問題を解消するための羅針盤として多くの知見を得る良い機会となった。
 
講演:Lee Aase氏
「ヘルスケアマーケティングのイノベーション ― Mayo Clinicのソーシャルメディア・マーケティング ―」

 ご講演の冒頭では、Lee Aase氏からの自己紹介と共にミネソタ州ロチェスターのMayo ClinicとHELPcare Clinicの概要についてご紹介いただく。大規模組織であるMayo Clinicで経験したデジタル・イノベーションは、様々なデジタル・ツールを活用しMayo Clinicの専門性や口コミをテレビやラジオ、インターネットへなどを介して拡散することに寄与した。独自のSNSを構築する他、既存のSNSについて個々のメディア特性を考慮することで、プラットフォーム(myspace、Facebook、PODCAST、Instagram、Twitter、YouTubeなど)の強みを最大限に活かし、Mayo Clinicが有する専門知識を広く社会に広めることを可能とした。また、$150程度のFlipカメラを活用した事例紹介は、低価格でも効果の高いデジタルメディアの活用手法として参考になる。従来のFace to Faceの関係からデジタル・ストラテジーを活用することで、患者に対するパワフルなメッセージを共有し患者とのつながりを構築すると共に医師同士のつながりなど組織力向上も期待できる。Mayo Clinicでのソーシャルネットワークの活用は、中小規模組織であるHELPcare Clinicでも大きな成果を生んでいる。米国のヘルスケアが抱えている問題(Unaffordable Impersonal Ineffective)に対して、デジタル・イノベーションを活かすことで、低コストで信頼関係を向上させた医療提供が可能となる。また、米国で問題となっている肥満症や糖尿病の原因となるメタボリックシンドロームへの介入がプライマリケアとしてHELPcare Clinicの役割であるとして、患者のライフスタイルの改善やそのためのコミュニティ作りも積極的に行っている。デジタルを活用した患者とのダイレクトでパーソナルなプライマリケア、専用プラットフォーム「HELPcare.health」を活用した減量プログラム、最先端機器の導入などを通じてメタボ改善に効果を示している。デジタル・イノベーションによって手ごろな費用で高品質のストーリーテリングが可能となった。デジタルプラットフォームを介して、患者をターゲティングし効果的なストーリーを提供、成果をモニタリングすることが可能となる。最初からパーフェクトを目指さずに、小さなリスクを取って各自の権限の中でクリエイティブに改善を続けていくことが大切である。本日の講演会に最後にLee Aase氏から参加者に対して「・Use these ideas and examples to spur your own innovation、・Apply principles to your context、・Iterate to innovate、・Don’t let the perfect be the enemy of the good」という言葉で締めくくられた。
 
質疑応答とディスカッション
 Lee Aase氏のご講演に続き活発なディスカッションが交わされた。参加者からの多くの質問に先立ち、真野教授からMayo ClinicとHELPcare Clinicで行われているソーシャルメディア&イノベーション戦略の紹介は日本のヘルスケアビジネスにも学ぶべきことが多く大変興味深いテーマであったとの感謝の言葉が送られた。また、Mayo Clinicにおける広報組織や米国でも大きな問題となっているプライマリケアへの取組などについての質問を踏まえてディスカッションを行った。
 参加者からも、イノベーションやデジタルに関する具体的な質問(ゲノム情報への対応、Telemedicineで使用するアプリ、SNSを活用した人材採用、ソーシャルメディアによる患者の行動変容など)が多く寄せられ、Lee Aase氏から丁寧に回答いただいた。質疑応答の後半では、プライマリケア市場がレッドオーシャンになっていく中で、具体的な差別化についての質問があった。Lee Aase氏は、HELPcare Clinicで行っているデジタル・イノベーションを活用したパーソナルで低コストな診療は、レッドオーシャンの中でも、まだまだ市場が存在するとし、パーソナルなコミュニケーションを通じてコモディティとして商品化されない医療サービスが求められていることを提示いただいた。日本のヘルスケアビジネスにおいてもコストや効率性と共に個別具体的なヘルスケアサービスが求められており、本日ご紹介いただいた米国でのデジタル・イノベーション事例から新たなイノベーションを支援する知見が生まれることを期待したい。
 
 本研究会では、ヘルスケアビジネスについて新たな知見の共有や討議を通じて、日本のヘルスケアビジネス推進に寄与したいと考えております。ヘルスケアビジネスに興味を持つ多くの方々のご参加をお待ちしております。
 
(文責:佐藤 幸夫)

 
Join us

会員情報変更や、領収書発行などが可能。

若手応援割
U24会費無料 &
U29会費半額
member