リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第38回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「生活者による価値共創の原点~生協(CO・OP)の精神と活動」

#いまマーケティングができること

第38回価値共創型マーケティング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:生活者による価値共創の原点~生協(CO・OP)の精神と活動
日 程:2022年12月3日(土)13:00-15:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
1.「顧客の生活世界にある価値共創:企業と生活者との共創について」

藤岡 芳郎 氏(大阪産業大学 経営学部 教授)

 藤岡先生は最初に、伝統的マーケティングと、本研究会が示す価値共創マーケティングの内容を確認しました。伝統的マーケティングが市場での時空間を対象とし、主体間の関係は経済的なものであるのに対し、価値共創マーケティングは生活時空間を対象とし、企業は顧客の生活に入り込むことで成立します。つまり、価値共創マーケティングのフィールドは顧客の生活世界です。一見、経済的な関係へのフォーカスでないように感じられるかもしれませんが、Tofflerが示したプロシューマーという概念や、濱岡が示したアクティブコンシューマーの概念からは、生産と消費を分離した見方の限界が指摘されているかのようです。ほかにも、サービス・ドミナント・ロジックが示されたのちにArnoldらは、顧客は能動的なオペラント資源だと考えるようになり、生産と消費の共存や内容の多様性に関心が広がるにつれ、マーケティングはもはや、顧客の生活時空間までを関心の範囲とするようになっています。すると、顧客の価値創造とはどのようなもので、企業と顧客の価値共創からなる生活世界には、どのような行動原理がみられるのかに関心が向けられるようになり、それは市場における企業と顧客の行動原理とどのように違うのかを検討する必要が生じます。これこそ本研究会が大切にしているポイントです。藤岡先生は、こうした研究の整理に基づいて、市場経済から価値共創を捉える考え方と、本日の事例にある生活協同組合のような生活社会から価値共創を捉える考え方では、企業活動のどこにどのような違いがあるのかについて議論することの意義があると主張しました。
 
2. 「生活者による価値共創の原点:生協(CO・OPの精神と活動)」

本田 沙織 氏(久屋コンサルティング)

 最初に生活協同組合は、19世紀のイギリスで産業革命、資本主義の進展する工業社会の中で生活者が自立する活動としてスタートしました。日本でも、1921年に現在のコープこうべの前身となる神戸と灘の購買組合が設立し、現在では全国各地にさまざまな生活協同組合が存在し、我々の日常生活を支えています。
 本日ご講演いただく本田様は、2013年にコープこうべに入所され、最初はトラックを運転して個人宅に配達したり、シンガポール勤務となり店舗運営に携われたり、商品部で日用品担当バイヤーを担当するといったご経験をお持ちです。2022年にコープこうべを退所し中小企業診断士として独立・開業し、現在は中小企業のマーケティングや販促支援を中心に行っています。
 本田様がご勤務になった生活協同組合は、消費者が出資・利用・運営の全てに関与するというものです。自身の生活の課題や地域社会の課題に向き合い、行政や諸団体と協力しながら、よりよい暮らしを自らの手で実現することを理念としています。組織の意思決定も、組合員の中で選ばれた「総代」からなる総代会でなされ、理事や代表理事などが業務を執行します。一般的な企業との違いは「組合員による、組合員のための組織」であり、そうであるがゆえに、事業内容も食品や家庭用品などの供給(販売)、共済や医療、福祉事業まで幅広く、消費者問題やくらしの助け合い活動など、さまざまな社会貢献を対象にしています。自らの手で生活を豊かにすることがゴールであり、そのために購買・共済・福祉などの事業を行います。近年は自治体との見守り協定を締結して活動したり、ほかの協同組合や市民団体、社会福祉協議会や非営利組織などとも連携した活動も推進するなど、生活協同組合には「生活を豊かにする」さまざまな活動があります。
 これを象徴する事業が、宅配事業だといえます。商品カタログで注文された商品を、週に1回決まった曜日・時間にお届けします。配達先は個人宅が主ですが、近隣住民や職場で形成されたグループなどさまざまです。予約注文方式なので、食品の廃棄ロスが少ないという特徴もあります。配達担当者と利用者は毎週のように顔を合わせるので、利用する組合員との信頼関係が構築できます。新入職員は、宅配からキャリアをスタートさせる地域生協も多いようです。
 近年は、くらすにニーズや課題解決の手法が多様化し、兵庫県明石市では「おむつ定期便」業務委託を受け、おむつなどの赤ちゃん用品を無料宅配するサービスを、コープこうべは行っています。山間部の地域での移動店舗や(コープこうべ)、コロナでの自宅療養者への商品提供など(コープみやぎ)、さまざまな取り組みが推進されており、まさに組合員の生活に密着した活動が充実しています。
 しかしながら、問題点もあります。宅配事業で購入できる商品はカタログのみとなっており、アイテムは2,000品目に留まります。コンビニエンスストアの店頭で販売されている商品のアイテムが3,000品目であることを考えれば、それよりも提案の幅が狭いということがあるほか、amazonなどの参入があり、さまざまな商品が迅速に生活者のところに配達されるようになると、提案力に加え適時性にも弱さがあり、どのように利活用を拡大できるのか、改善の余地がありそうです。
 コロナ禍を経験した我々は、生活協同組合が再注目できる機会がありました。生協は生活必需品を届けるインフラとしての重要性が評価されたといえます。また、生活協同組合自体も理念型の運営によって、生活困窮者への物資提供や募金活動など助け合い活動も活発化しました。しかしながら、サービスとしては競合の宅配事業者等も急成長しており、危機感を抱いているのも実情です。最近は日本生協連が2020年3月に「DX-COOPプロジェクト」を始動し、全国の地域生協のDXを推進していますが、企業との過度な競争を回避しつつ、どのような成長が可能なのかが問われています。また、若い組合員を中心に生協とスーパーの違いが伝わっていないという課題も存在します。長年続いてきた組合員活動など生協らしい事業・活動の担い手は高齢化によって減少傾向にあり、育成が急務といえます。さいごは、生活協同組合の課題にも触れていただき、ディスカッションにつなげていただきました。
 
3.ディスカッション
 本日もディスカッションではさまざまな意見が飛び出し、オンラインでありながら活発に議論が行われました。最初の質問は、生協の理念に基づく組合員の行動はどれほど特徴的で、近年はSDGsが叫ばれほかの理念を後押しする社会的な機運もあるが、若者がそれに刺激されて組合員になるなどがみられないのかや、組合員の経験的な蓄積とはどのようなものであり、事業活動に活かすとはどういったものかについての質問がありました。
 これについて本田氏は、組合員の高齢化はどの生協でも問題になっているといい、理念の浸透はみられない。SDGsはさまざまな組織が取り組んでいて、必ずしも差別化できていないといいます。但し、組合員のコミュニティづくりには違いがあり、コープみらいやコープさっぽろには先進的な事例も見受けられるといいます。とはいえ、ほかの小売企業の台頭に加えオンライン販売も広がりを見せ、消費者にとって選択肢が多いことに違いはありません。
 次に、このことと関連して、生協利用者のロイヤルティについての質問もありました。本田氏は、高齢者や過疎地域のいわゆる買い物難民といった特殊な事情を除き、多くの組合員はほかの小売と併用していて、明確な違いを確認することは難しいとのことでした。
 また、どんどん便利な提案が増加し、あるいは世代によってオンラインを巧みに利用する時代にあって、いわゆる生協の価値提案の進化がみられるのかについて本田氏に尋ねたところ、宅配事業はカタログに掲載されているアイテム数の伸び悩みがあるほか、各店舗から商品をピッキングして配送することの手間が課題になるなど、幅広い提案を実現するに及んでいないことが指摘されました。
 では、生協の脅威ともなる、例えばamazonの宅配といった新興のビジネスモデルはなぜ成立するのでしょうか。これについては、実務に精通する方からの情報提供がありました。amazonの食品宅配は食品流通に長けた専門商社が関与しているほか、物流企業による世界的にも極端に安価な配送費用だからこそ実現するサービスだといえそうです。それでもなお、人口が集中しかつタイムロスの少ない地域でしか効果的な配送が実現していないといい、まだまだ普及拡大のために超えるべき課題は幾つもあることが指摘されました。つまり、生協を脅かす新たなビジネスは次々存在するのですが、決して一般化できるビジネスモデルが確立している訳ではなく、生協とamazonの直視する現実は異なるものの、どちらも限定的な顧客を対象とした取り組みであることが確認できました。
 このほか、商品開発などは未だ生協らしい特徴が幾つも見受けられます。研究会で議論になったのは、組合員が継続して商品を評価する点でした。あらゆる商品は代替できるものがある時代ですが、時間の経過とともに相対化した状態は異なります。自ずと顧客の感じ方も違っていきますし、同時に商品の特性を修正していくことも可能です。生協独自の商品開発には、こうした独特の議論が可能な場があるといえ、一般的な製造業の商品開発とは異なるゴールの設定が可能ではないかとの意見もありました。
 議論は尽きず、あっという間に所定の時間に達しました。食品小売は顧客の日常生活と密接に関係し、顧客の行動の中で機能します。小売の提案はどのような行動を誘発し、あるいはどのような行動の中で支持されているでしょう。サプライチェーンをはじめとするリソースが小売の店舗抜きによってしか成果が結実しないとすれば、顧客への柔軟な提案や顧客との関係を通じた持続可能な提案を考えたとき、影響は限定的かもしれません。消費者でありながら能動的に商品開発にも関与する組合員を擁した生協が、独自の強みを今後どのように開花させることができるのか。本研究会の視点から議論すると、さまざまな可能性に気づくことができると感じた時間でした。
 
(文責:今村 一真)

 
Join us

会員情報変更や、領収書発行などが可能。

若手応援割
U24会費無料 &
U29会費半額
member