第18回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「プレイス・ブランディングにおけるふるさと納税の可能性を探る」 |
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第18回プレイス・ブランディング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:プレイス・ブランディングにおけるふるさと納税の可能性を探る
日 程:2022年11月25日(金)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
講 演:ふるさと納税で地域を応援できるのか?
講演者:水越 康介(東京都立大学 教授)
ファシリテーター:小林 哲(大阪公立大学 教授)
【報告会レポート】
今年度のプレイス・ブランディング研究会は学際性を意識しながら、改めて地域について考えていきます。今回のゲスト講演者である水越先生はマーケティング論、特にインターネットやソーシャルメディアを中心としたマーケティング研究の第一人者です。様々な著作を発表されてきた中、今回はプレイス・ブランディング研究会のテーマに合わせ、近刊である『応援消費』(岩波新書、2022年7月)を軸に、「ふるさと納税」をテーマにご講演をいただきました。
年の瀬も近づく頃にCM等で頻繁に目にするようになった「ふるさと納税」ですが、紆余曲折あって現在につながっている様子が水越先生から紹介されました。まず、今回のキーワードの一つである「応援消費」については、2022年時点では若い学生などでは圧倒的に「推し活」に見られる、「推し消費」のイメージが強いとされています。そもそも地域を応援するという意味では、東日本大震災における支援・応援の広まりからコロナ禍を経るなかで、ブランディングやマーケティングの色合いが濃くなったとされます。この流れのなかで、人々が何らかのモノを買う時にそれに留まらず、それを売る「企業」や「地域」を応援したい変化があったのではないかとの指摘がなされました。
それらの背景をふまえ、水越先生は「ふるさと納税」の制度的な経緯と広まりについてお話をされました。「ふるさと納税」は、都市と地方の税制格差の解消を目的として2008年に開始されました。導入された頃の議論として、当時はそれほどの効果が無いと見なされていたそうです。当初は、手続きの煩雑さなど様々な要因があるとされていました。その後、2012年頃から中間プラットフォームとなる各種のWebサイトが拡充し、多くの人が手軽にふるさと納税を行えるようになりました。この頃には各自治体も様々な返礼品を展開し、総務省との対立を抱えながら、大きな広がりへと繋がっていきました。その後、2017年以降は、制度としては企業版の「ふるさと納税」が国会で審議されることが多くなったそうです。
こうした経緯を経て、「ふるさと納税」は地方自治体におけるマーケティングの視点の導入の契機となり、各自治体のマインドの変化につながったケースが紹介されました。例として株主制度や、実際に町に来てもらうことにまでつながっている返礼品など、単なる物品の送付に留まらないユニークな仕組みが紹介されました。まとめとして、「ふるさと納税で地域を応援できるのか?」という論点が整理されました。そこには消費者や制度の在り方といった複数の視点があるそうです。それにより関係性マーケティングや、地域ブランディングがどのように進むか、現在進行形で様々な論点の広がりの可能性があるそうです。これ以外にも「ふるさと納税」は、マーケティング研究における多様なテーマと接点をもつ、ユニークな存在であるとされました。
その後のフロアでのディスカッションでは、参加された方々から多様なご意見・ご質問がなされ、盛況となりました。具体的には「ふるさと納税を支える中間プラットフォームが力を持ちすぎると、自治体のマーケティング力の格差が進むのでは?」といった既存プラットフォームの問題点に関する議論がありました。また継続性に関する議論、当該地域のファンになってもらうにはどうすれば良いかといった消費者サイドの議論、交換と贈与が混在する「ふるさと納税」は本当に「応援」なのか、といった議論がなされました。
最後にファシリテーターである大阪公立大・小林哲先生からは「ふるさと納税は多機能性を持つ。課題は多いが、地域の視点、応援の視点、関係性をつくる視点といった、複数の可能性を多くもつ場ではないか」とのご指摘で締めくくられました。
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