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研究報告会レポート

第13回アジア・マーケティング研究報告会レポート「コロナ後の観光振興と住民の地域アイデンティティ」

#いまマーケティングができること

第13回アジア・マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:コロナ後の観光振興と住民の地域アイデンティティ
日 程:2023年3月18日(土)14:45-16:15
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 本報告会では、「コロナ後の観光振興と住民の地域アイデンティティ」というテーマのもと、以下の2つの研究報告が行われた。
 
研究報告1. 「コロナ禍での住民態度の変化」
鎌田 裕美 氏(一橋大学大学院 経営管理研究科 准教授)

 観光客の満足度を高めるためには観光地の住民の協力が不可欠となるが、コロナ禍において、政府が行う水際対策や感染への不安などを理由に観光客の受け入れに対して消極的な住民も多い。そこで、観光地の住民態度の調査と、観光振興担当者との議論とグループディスカッションから、住民の観光振興に対する理解や促進し、住民の地域アイデンティティを高めるためのコミュニケーションや施策について考察した。
 住民の観光振興に対する理解や促進のためには、地域に対して「他にはない特徴がある」「(その地域に)住むという誇り」という地域アイデンティティを持つことやこれを高めることが重要である。これらが住民の観光振興へのサポートにつながり、結果的に経済ベネフィットに帰結するのではないか。さらに、観光振興がもたらすプラスの効果を住民が実感すること、住民ホスピタリティを強化することなども重要である。また、観光振興と直接関与していない住民へその成果を伝え、協力を促すことが重要であることも報告された。
 

 
研究報告2. 「住民の地域アイデンティティと文化変容〜ポップカルチャー・ツーリズムの視点から〜」
金 春姫 氏(成城大学 経済学部 教授)

 ポップカルチャーのような文化コンテンツが消費者文化変容に影響を与えることから、それが観光と(住民の)地域アイデンティティとどのような関係にあるのかを検討した。研究は、ポップカルチャー・ツーリズム研究のレビューとインタビュー調査によって行われた。
 さまざまなコンテンツとそれに関連するポップカルチャー・ツーリズムの研究レビューから、地域の象徴的意味住民の地域愛着とプライドなどの地域アイデンティティは観光に影響されることがわかった。しかし、地域住民の中では温度差があり、ポップカルチャー・ツーリズムに対してネガティブな反応を見せる住民も存在する。地域アイデンティティの視点からみたポップカルチャー・ツーリズムの問題点として、①不正確/ネガティブな描写、②ローカル不一致、③真正性がある。今後の課題として、これらの問題点を解消するための「地域住民間の観光に対する反応の違いの理解」や「観光の発展と地域アイデンティティの相互作用のプロセスの解明の必要性」が指摘された。
 

 
報告後の議論
 2つの研究報告の後、司会の上原渉氏による発表の要約と、参加者も交えた質疑応答が行われた。
 

 
研究報告1の議論
 地域住民は、観光産業の質や観光客の満足度に深く関わる存在であるにも関わらず、マネジメントが困難であることが指摘された。観光振興によって地域住民が享受できるメリットとは何か、そして住民のフリーライド問題などから、住民の持つ「地域アイデンティティ」が観光振興に積極的に関わるインセンティブとなるかどうかが議論された。
 

 
研究報告2の議論
 ポップカルチャー・ツーリズムに対する住民の温度差の原因として、住民自身が持つ地域への評価と、外部からの評価の不一致や方向性の相違が指摘された。しかし、この不一致が新しい地域アイデンティティへとつながり、観光地としての魅力を高めていくのではないかと考えられる。外部からの評価を適度に取り入れつつ、地域住民が新たな地域アイデンティティを確立していくべきではないかという議論が行われた。
 

 
(文責:鴇田 彩夏)

 
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