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第8回AI研究報告会レポート「スーパーコンピュータ「富岳」とAI」 |
#いまマーケティングができること
第8回AI研究報告会（オンライン） > 研究会の詳細はこちら
テーマ：スーパーコンピュータ「富岳」とAI
報告者：松崎 健一 氏（株式会社理研数理 取締役）
日 程：2023年3月9日（木）19:00-20:30
場 所：Zoomによるオンライン開催
松崎 健一 氏
【報告会レポート】
本AI研究会は、AI（人工知能）技術の進展に伴うマーケティング研究の論点及び実践的示唆の導出を目的としています。
今回は、株式会社理研数理の松崎取締役より、スーパーコンピュータ「富岳」や創薬AIプラットフォーム等についてお話を伺いました。
2020年10月1日に、国立研究開発法人理化学研究所、株式会社理研鼎業、株式会社JSOLの共同出資により、株式会社理研数理が設立されました。同社は、国立研究開発法人として、初の出資企業であり、数理サイエンス等の学術研究の成果と市場ニーズをマッチングさせ、共同研究等を行いつつ、新規事業創出による社会実装を目指しています。例えば、AIによる企業の成長予測・劣化予測のサービス開発や、スーパーコンピュータ「富岳」上の創薬AIプラットフォームの構築を進めています。
代表的な社会実装例として、スーパーコンピュータ「富岳」の事例が挙げられます。近年のコロナ禍で、多くの方がネットやテレビ等で目にした富岳による飛沫シミュレーションは、1,500ケースを超える飛沫感染リスクの評価や対策について各所に提案がなされました。政策立案からビジネスや学校等の現場の具体的な対応策まで、多くの場面で参考とされた社会実装の例です。膨大な数値計算が必要な飛沫シミュレーションは、スーパーコンピュータ「富岳」ならではの貢献といえます。
本レポートでは、提供された多くの話題の中から、AIの活用において特に注目すべき「連合学習」（Federated Learning）について、創薬開発の実践を基に概説します。企業がAIを活用する際、学習用データのプライバシーおよび機密性の確保は常に運用上の課題となっています。連合学習は、これらの課題に対応する機械学習の一手法であり、データの機密性を保ちながらAIの学習効率を向上させることを目的としています。このアプローチでは、個々のデータソースごとに学習モデル（ローカルモデル）を構築し、中央集約型サーバー上のモデル（グローバルモデル）を更新します。
具体的な実践例（現在構築中）として、10社以上の製薬企業が共同で創薬開発を行うケースが紹介されました。創薬開発は、多額の研究資金と専門的なノウハウが必要であるため、各社で相互に共用可能な部分で研究開発を進める方法に合理性が見出されています。紹介された創薬開発のAIプラットフォームにおける連合学習では、創薬ビッグデータと呼ばれる公知のデータなどを共有しながら、各社で学習プログラムを実行し、新たな化合物の組み合わせに関する予測モデルのみを中央集約型サーバー上に送信します。各社の固有の創薬関連の重要な情報資源を社外に出す必要がない点が最大の利点です。こうして開発された各社のプログラムの結果を比較し、予測精度の高いモデルを中央のモデルとして置き換えることで、予測精度を向上させる仕組みです。この実践で興味深い点は、各社のデータを当初からまとめたビッグデータで学習した場合と比較して、予測精度に大きな差がない程度に学習が進んでいることです。
【研究会を終えて】
連合学習は、スマートフォンの文字入力予測モデルなど、B to Cの分野でも活用されており、個人のプライバシーを保護しながら、共通の予測モデルの精度向上を図る仕組みとして機能しています。
今後、ローカルとグローバル（または中央）のAI同士が協力して学習を行うニーズはさらに高まると予想されます。例えば、グローバルな大規模データによるAIモデルを活用しながら、企業独自の非公開データを用いて学習を行い、企業ごとに固有のAIモデルを駆使することが求められるような場合です。企業は、独自に開発・蓄積してきたマーケティングに関するデータを活用し、その企業らしい独自性あるAIによる価値を創出することができると期待されます。
（文責：依田 祐一）
