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研究報告会レポート

第14回アジア・マーケティング研究報告会レポート「芸術支援と企業イメージ」

第14回アジア・マーケティング研究報告会(東京) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:芸術支援と企業イメージ
日 程:2024年2月27日(火)18:00-20:00
場 所:一橋大学 千代田キャンパス 大講義室
 
【報告会レポート】
 川北先生は、芸術支援を含めた社会貢献は、経営理念を組織メンバーに浸透させるためのコミュニケーションツールであるという視点から、「企業らしさ」を表す用語についての概念整理を行ったレビュー研究についてご発表くださいました。広報研究の観点から文献レビューを行い、概念整理を行われました。また、薗部先生からは、芸術スポンサーシップをマーケティング・コミュニケーションとして利用できないか、という研究テーマで発表いただきました。
 
研究報告1. 「企業らしさ」とは何か:広報研究から見た経営理念と組織アイデンティティ
川北 眞紀子 氏(南山大学 経営学部 教授)

講演の様子 企業の内部に対する社会貢献活動の役割として、経営理念の浸透研究(e.g.組織文化研究)や、組織アイデンティティの形成(e.g.組織アイデンティティのダイナミクスに着目した研究、誰が組織と同一化するのかを明らかにする研究)があるそうです。他方、企業の外部に対する社会貢献活動の役割は、外部からみた企業イメージの形成につながり、ブランドイメージやレピュテーションに関する研究群が存在しています。組織内外、あるいは多様なステークホルダーといった、広い視点から社会貢献活動を捉えることで、組織論やマーケティングといった、幅広い研究に派生する可能性を持つのが、企業の社会貢献活動であるということを教えていただきました。
 
研究報告2. 芸術支援におけるブランドと空間メディアの相互波及効果:知覚プレステージの近接性による調整
薗部 靖史 氏(東洋大学 社会学部 教授)

講演の様子 美術館やコンサートホールなどの芸術支援は難しいという問題意識のもと、継続的な支援を実現させるためのアートスポンサーシップ研究について発表いただきました。スポンサーシップ研究の大半はスポーツであり、アートに関しては一部のヨーロッパの研究をのぞき、ほとんど見られないようです。美術館やコンサートホールを空間メディアの一つとして捉え、空間メディアとそれを支援する企業における、被験者の知覚上のプレステージから態度への影響を定量的に検証されました。空間メディアと企業のそれぞれの知覚プレステージに差があるほど、空間メディアへの態度がポジティブになることがわかったということです。これは、想定していた結果と異なり、空間メディアと企業の意外な組み合わせが、好感を醸成する可能性を示唆しているということです。
 
報告後のフロアディスカッション
講演の様子 支援する側と支援される側の適合について、双方のイメージが近い方が良いという研究発表でしたが、逆に遠い方が良い場合もあるのではないか、という質問が出ました。川北先生からは、適度な不一致にまでストレッチすると、思いもよらない視点が得られるという意味で、お互いを高め合うという可能性もありそうだというご指摘をいただきました。薗部先生からは、既存のブランド研究において、機能面で適合性が高い製品や企業同士の方が好感を生みやすいという結果は出ているけれども、情緒面でイメージが離れている組合せであるラグジュアリーとカジュアルの相互作用にも目を向ける必要があるという指摘をいただきました。
 また、空間メディアと一般的な広告である駅の壁面広告(e.g.渋谷のスクランブル交差点)とどのように区別されているのかという質問がありました。これについて、共にマスメディアやインターネットとは異なる点では同じですが、一般的にスタジアムや美術館をメディアとして捉えた広告研究は少なく、厳密には区分できていないのが現状だそうです。
 
 「企業らしさ」には、地域性もあるのかもしれないと思うが、何がそれを形成しているのかという質問もありました。マーケティングの観点から考えると、他社と比較したときの差別化のポイントを意識しますが、社会との関わりの中で形成される「〜らしさ」もあるのではないかというものです。それに対して川北先生は、組織アイデンティティの中に、業界アイデンティティが入れ子構造であり、そのような文化的な背景が「〜らしさ」を形成する一部になっている可能性について指摘されました。さらに、情報を受け取る側が、社会貢献活動を十分条件的な形で捉えているのか、それとも必要条件的な見方で捉えるのか、国によって異なる態度の形成をしている印象があるかもしれないという意見が出ました。
 
報告会を終えて
 社会貢献が企業らしさを醸成するという抽象度の高い研究報告と、芸術支援の一つとしての芸術スポンサーシップの影響という焦点を絞った研究報告の双方から、芸術支援という社会貢献の役割について、多角的な視点から理解を深めることができました。
 
(文責:松井 彩子)

 
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