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研究報告会レポート

第18回ソロモン流消費者行動分析研究報告会レポート「実証的消費者行動研究の最前線」

第18回ソロモン流消費者行動分析研究報告会(東京) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:実証的消費者行動研究の最前線

  1. 解題
    松井 剛 氏(一橋大学 経営管理研究科 教授)
  2. 「食と感覚に関する消費者行動研究」
    元木 康介 氏(東京大学 経済学研究科 講師)
  3. 「フィールド・データを用いた消費者行動研究」
    外川 拓 氏(上智大学 経済学部 准教授)
  4. 質疑応答

日 程:2024年3月4日(月)17:30-19:30
場 所:一橋大学 千代田キャンパス
 
【報告会レポート】
 消費者行動研究には、大きく分けて、主に定量データに基づく実証的研究と、定量データに加えて定性データも重視する解釈的研究がある。本プロジェクトは後者の有用性を積極的に評価するものであるが、今回の報告会では、前者の優れた論文を発表されている元木先生と外川先生をお迎えし、最近のご研究とその調査や分析の方法について紹介して頂く。それにより、異なる研究スタイル同士のいわば“対話”を図るのが今回の狙いだと、本プロジェクトのリーダーでもある松井先生より解題された。
 
元木先生による講演 元木先生の研究報告によると、元木先生は食関連の感覚として、①視覚、②聴覚、③味覚を取り上げ、消費者態度に対する影響の検証と、そのメカニズムの解明をされてきた。説明変数とした感覚的要素の具体例は、①カフェ店舗内装の色彩、②ブランドネームにおける声帯の振動の有無や周波数の高低、③食品の味、などである。また、従属変数である消費者態度の具体例は、店舗やブランドの利用意向や好意度、商品の性能や味に対する期待、などである(ほかに、媒介変数や調整変数もある)。
 実証においては、感覚の数値化や、消費者態度への影響メカニズムの解明方法において、次のような操作や分析上の工夫をされたという。①の研究では、カフェ店舗内装の写真をLab色空間上の画像統計量に変換した。②の研究では、システマティックレビューにより、ブランドネームによるイメージ喚起に関する先行研究を抽出し、それらの各種イメージをEPA(価値・力量性・活動性)次元に変換した上で、メタ分析を実施した。③の研究では、従属変数としてブランド好意度を測定したのみならず、実際のアイスクリームブランドの売上(金額・数量)が含まれるPOSデータでも影響を調べた。
 
外川先生による講演 次に、外川先生は、実証的研究の主な方法を、①オンライン実験/ラボ実験、②フィールド実験、③調査(サーベイ)、④観察データ分析に分類された。その上で、最近の消費者行動研究は①による実証が多いが、②と④には「当事者に参加意識がないリアルな行動を観測可能」という利点があるといい、外川先生が今までに参画した産学共同研究の内容をもとに、これらの実践例を紹介された。
 タイプ④の研究では、消費者が自身の氏名に含まれた文字を含む名称に好意的な態度を示すという「ネームレター効果」を実証された。具体的には、ID-POSデータを持つ企業の協力を得て、会員の名字と、その名字を含む商品の購入データから、ネームレター効果を確認したという。また、タイプ②の研究では、クーポンの媒体が紙か電子かによる開封率の違いと、それが実際の償還に帰結しそうかを実証した。こちらも企業の協力を得て実際にクーポンを発行したところ、紙は電子より有意に多く開封され、また、開封者においては、ブランドアタッチメントが低い場合に限り、ブランドへの認知的エンゲージメントを媒介してクーポン償還意向につながると解明されたという。
 最後に外川先生は、昨今の論文査読では、①のみではなく、②や④など行動実態データの裏付けのある研究が評価される傾向があると総括された。
 
 最後の質疑応答において、「1つの論文内での複数調査」における実際の手順や系統立てて進めるコツについての質問に対して、外川先生は予備的に①オンライン/ラボ実験をすることもあるが、後でやり直す場合もあるため、④フィールド実験で確認された現象について①でメカニズムなどを実証する方が現実的だと語られた。また元木先生は、まずはシンプルな①で主なメカニズムを確認しておくことが大事だが、媒介変数などを入れた代替的なモデルも最初から想定しておくというコツを披露された。他にも活発な議論がなされ、閉会となった。
 
多数の参加者と活発な議論が行われました
多数の参加者と活発な議論が行われました
 
(文責:北村 真琴)

 
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