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研究報告会レポート

第8回ヘルスケアビジネス研究報告会レポート「海外からデジタル医療の変化を学びマーケティング視点で考える」

第8回ヘルスケアビジネス研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:海外からデジタル医療の変化を学びマーケティング視点で考える
日 程:2024年3月20日(水)10:00-12:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
司 会:真野 俊樹 氏(中央大学ビジネススクール 大学院戦略経営研究科 教授)
演 者:橋本 悟 氏(株式会社テクロス 代表取締役 / 中央大学ビジネススクール 後期博士課程)
    植村 佳代 氏(株式会社日本政策投資銀行 産業調査部産業調査ソリューション室 副調査役)
議 論:植村 佳代 氏(同上)
    タッシル 恵子 氏(米国医療通訳&コーディネーター)
    真野 俊樹 氏(同上)
 
【報告会レポート】
 ヘルスケアビジネス研究会は、真野俊樹教授をリーダーに日本のヘルスケアビジネスを探求する研究会である。第8回となる今回の研究会では、「海外からデジタル医療の変化を学びマーケティング視点で考える」というテーマで、日本の医療DXについて、講演と議論を実施した。オンラインでの開催で20名を超える参加者の下、有意義な情報共有の場となった。今回の研究会では、デジタルマーケティングの新規ビジネスモデルとして、株式会社テクロスが提供するWebサイトTCROSS NEWSとInsighTCROSSの紹介と、2024年2月末に行われたシンガポール視察およびHIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society)との会議などについて紹介頂いた。ヘルスケアにおけるデジタルマーケティングの実践事例やシンガポールの医療の最新動向を紹介すると共にマーケティングの視点から議論を行った。後半の議論では、シンガポールの医療の現状に留まらず、デジタル化の動向の他、日本の医療との違いなど幅広い議論を交わすことができた。
 
講演1「Digital Marketing Innovation ― 医薬品・医療機器の製品マーケティングの新規ビジネスモデル ―」
橋本 悟 氏

 橋本氏は、米国の大学卒業後に外資系コンサルティング会社に入社し、ヘルスケア領域のリサーチアナリストを経て、1997年にジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社にて循環器領域の製品マーケティングを担当。その後、同業界の外資系企業で営業・マーケティング・開発などに携わり、2005年9月に株式会社テクロスを創業する。株式会社テクロスでは、循環器領域国内最大のニュースサイト(TCROSS NEWS)の配信、および学術集会・ライブデモンストレーションコースの企画・運営に加え、医薬品・医療機器企業の製品マーケティングのコンサルティングを行っている。
 本日の講演では、昨今のデジタルマーケティング活動の変化に際して、医薬品・医療機器のマーケティング活動の効果判定、顧客から見た製品のセグメンテーションおよび競合のポジショニング、そして、そこから定量及び定性的な観点による打ち手を策定することを可能にしたデジタルマーケティングの新しいモデルについて講演頂いた。株式会社テクロスのサービス概要は、循環器内科領域Webサイト運営(会員20,000人、医師会員約8000人)の他、ライブ・学術集会の企画・運営、臨床研究サポート、コンサルティングなどで循環器内科に特化したビジネスを手掛けている。WebサイトのTCROSS NEWSが、他の同業他社のコンテンツと異なる点は、有料コンテンツが中核を占めており、医師が自分の時間とお金をかけて知識を得るためのサイトとして運営されていることである。また、TCROSS NEWSから得られた情報を基にデータサイエンスにより潜在意識を定量化し最適解を導出するInsighTCROSSを開発し、特許を取得している。InsighTCROSSは、定量的な分析手法であり学術的にも応用可能なモデルとして、マーケティングプロモーションの効果検証、医師の視点から真の競合を同定し、それら顧客の潜在意識を分析、結果的に競合ユーザーに対するマーケティング戦略の策定を行うことができる。本日は、具体的な事例報告として、心房細動に対する抗凝固薬のマーケティング戦略の策定について紹介頂いた。橋本氏は、InsighTCROSSを選択する理由として、経験と勘による定性的な観点からマーケティング戦略を策定する時代から、定量的な観点を加えることで再現性のあるマーケティング戦略を通じて意思決定することが重要であると述べた。最後に、今回のシンガポール視察を通じた私見として、日本のヘルスケアビジネスのプレゼンスの低下とシンガポールでのデジタル化が急伸する中で、アジア地域でも広がる少子高齢社会に対応するヘルスケアビジネスを共創していくことが重要であると語った。
 
講演2「シンガポールでの医療の変化とマーケティングへの示唆」
植村 佳代 氏

 植村氏は、日本開発銀行(現・株式会社日本政策投資銀行)入行後、産業調査部にてエネルギーやヘルスケア業界を担当。
 本日の講演会では、シンガポールでの医療の現状についてシンガポールの医療制度から現地医療機関の見学から得られた様々な情報について講演頂いた。アジアでも日本同様に、高齢化は進んでおりシンガポールでもその動向は顕著とのこと。シンガポールの医療提供体制は、公的機関が8割、民間機関が2割程度となっている。また、シンガポールの健康・医療・介護情報プラットフォームの紹介や、医療者側のプラットフォーム(PHR)の取組みとして、プライマリケア(Healthhier SG健康管理プログラム)などについても説明頂いた。ン・テンフォン総合病院の見学報告では、病院の人手不足をテクノロジーで解消するロボットの導入などを紹介頂く他、IHH Healthcare、パークウェイグループ、Raffles Medical Group(Raffles Hospital、ジャパニーズクリニック)などの概要も説明頂いた。
 植村氏の発表の後に、真野先生からの補足説明として、シンガポールでの病院事情や保険制度として利用されているCPF(個人口座)についての解説を頂いた。国民の医療費の支払いに際して、事業者と労働者がほぼ折半でCPFに振り込まれ管理されている。医療費が使用されなければ55歳以降に、老齢給付口座へ移行される。この様な仕組みは、国民医療費を削減するインセンティブとして機能している。尚、透析など高額な医療費が必要になる場合には、CPFとは別の公的保険制度の二階建て運用になっている。
 
議論「マーケティング視点でのDiscussion」
植村 佳代 氏、橋本 悟 氏、タッシル 恵子 氏、真野 俊樹 氏

 議論の冒頭で、タッシル氏によるシンガポール見学について報告頂いた。タッシル氏は、アメリカ在住であり、アメリカとシンガポールの対比について言及された。シンガポールも、アメリカ同様にデジタル化が進んでいることを実感できた。タッシル氏からは、更にHIMSSの紹介として、HIMSSの活動(HIMSS Ecosystem)について、紹介頂いた。デジタル化に際しては、Cybersecurity、AI、Patient Experienceなどと併せてHealthcare Dx(Technology、Process、People)が重要であること、テクノロジーによって医療の効率化だけでなく患者へのサービス、質の向上を目指していることを説明頂いた。また、IT導入に際しては、患者の参加による患者視点の医療を目指し、Human、High-touch、emotionalを重視しているとのこと。Ng Teng Fong General Hospital、Jurong Community Hospitalの見学を通じて、患者の利便性を高める医療提供としてアプリやテクノロジー、医療制度などの充実、高齢者の医療環境としてプロセス、人、技術について、学ぶべきことが多かったと述べられた。
 最後に、植村氏、橋本氏、タッシル氏、真野先生による議論が行われた。今回の見学を通じて、アジア地域ではテクノロジーの積極的な活用が日本以上に進んでいることが伺えた。改めて、日本がアジア地域に提供できるサービスについて考える機会となった。高齢化が進むシンガポールでは、医療機関も増やしている。コロナ禍を契機に医療機関や病床を増やすだけでなく、テクノロジーの活用も目覚ましい。真野先生からは、世界的な動向では、病床については増加させない動向であるが、今後の動向に注目したいとコメントを頂いた。シンガポールでは、ITなどインフラ投資については国が負担するが、建物などについては個人の寄付などもあり、この様な環境も増床の背景として考えられるとのこと。また、日本との違いについて、シンガポールではトップダウンで進んでいく、汚職が少ない、給与が高いことや、医療機関の経営について、臨床と経営が明確に分かれており、各々が責任を果たすということなども挙げられた。
 
 本日の研究会では、デジタルマーケティングの実践導入事例の紹介から、シンガポールの医療事情、更には日本との比較など、ヘルスケアビジネスについての多角的な議論を交わすことが出来た。本年度の活動は今回のみとなってしまったが、来年度については、より充実した内容でヘルスケアビジネスについての研究を探求していくことで議論を終えた。
 本研究会では、ヘルスケアビジネスについて新たな知見の共有や討議を通じて、日本のヘルスケアビジネス推進に寄与したいと考えております。ヘルスケアビジネスに興味を持つ多くの方々のご参加をお待ちしております。
 
(文責:佐藤 幸夫)

 
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