第26回地域活性化マーケティング研究報告会レポート「フードツーリズムにおける物語経験」 |
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テーマ:フードツーリズムにおける物語経験
報告者:青木 洋高 氏(文教大学 国際学部 国際観光学科 専任講師)
日 程:2024年6月22日(土)17:00-18:30
場 所:「青山ビジネススクール(ABS)」17808教室
【報告会レポート】
「フードツーリズム」とは、食が観光の目的になっていて、食を通して地域の個性(テロワール)が感じられる旅と定義される(青木,2023)。この研究発表では、「食」を消費の対象(この段階で登場する担い手=「生産アクター」)にとどまらせることなく、旅行者が地域の物語にアクセス可能になるための役割を担う「編集アクター」としての機能に着目した。そこでは、編集アクターから旅行者へのナラティブ(一方的な語り)の関係と、旅行者と編集アクターとの会話から双方向的な対話・共創に発展する関係があることが示された。
さらに後半では、三重県鳥羽市の海女小屋「はちまんかまど」、広島市「ビールスタンド重富」の事例で、生産アクターや編集アクターの機能と旅行者との関係、物語経験のタイプが明らかにされた。フードツーリズムにおいて、「食」がメディアになり、一方的な語りによるモノローグレベルの物語経験から、対話と共創によるダイアローグレベルの物語経験となることで、ナラティヴとしてストーリーが共創され、再構築されることが説明された。
【報告会を終えて】
コロナ禍収束を経て活性化するフードツーリズム分野に適用されてこなかった新しい手法(ナラティヴアプローチ)で分析されたことにより、新たな発見がなされた研究発表でした。
食材や調理方法、担い手などの情報からのストーリー化に留まらず、いかにナラティヴな物語体験として創造し(「編集アクター」が重要)、さらに海女さんやビール店主といった「生産アクター」が「上演アクター」に変容するなど、語り手と聞き手の相互行為により可変的なナラティヴになることが示され、興味深いものでした。
その新鮮さにフロアからも質問が数多くなされ、別の地域の地域ブランドや食についてどう適用できるかなど会員の方々が自ら関係する地域に引き寄せ議論が活発化しました。
フードツーリズムの活性化要因を物語体験の視点で丹念に分析され、そこで明らかになったアクターと旅行者の関係構造は、観光実務の現場に大いに参考になる研究発表でした。
(文責:宮副 謙司)