第26回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「関係人口とリジェネラティブ 〜私たちはローカルで幸せを見つける〜」 |
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テーマ:関係人口のフロンティア
講 演:関係人口とリジェネラティブ 〜私たちはローカルで幸せを見つける〜
講演者:指出 一正 氏(『ソトコト』編集長)
ファシリテーター:徳山 美津恵 氏(関西大学 総合情報学部 教授)
日 程:2024年7月26日(金)18:30-20:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
第26回プレイス・ブランディング研究会は『ソトコト』編集長の指出一正氏をゲストに迎え、全国各地で起きている関係人口の最新事例の報告とともに、関係人口が地方や関わる人に何をもたらすのかについて議論しました。指出氏は「関係人口」の提唱者の一人でもあり、現在も日本全国を飛び回り、国や自治体をはじめとする様々な関係人口プロジェクトに関わっています。
本報告会では今もなお関係人口を作り続ける指出氏から、地方の変化と関係人口の今についてご講演いただき、関係人口の取り組みを通して地方がどう変わっていくのかについて議論しました。
自身も東京と神戸の二拠点生活を実践し全国各地をとびまわる指出編集長。チェーン店でもその地でローカライズされたメニューが提供されることがあるように、外から訪れた人の固定観念に「ゆらぎ」をもたらすのがローカルの真骨頂だ、という話題からスタートしました。若い世代が「ローカルが面白い」という背景にはこの「ゆらぎ」があり、若い人が地域に関わりたいきっかけとなるのは、固定観念がゆらぐという体験にあるのではといいます。
関係人口とは、観光以上、移住未満の第3の人口といわれる概念です。関係人口とは?を考える契機として奈良県下北山村で、地域外の若い人に地域を知ってもらう活動が報告されました。若い人には地域のよさや魅力を事前に説明しすぎず「自分で発見してもらう」ように促し、町や村を“自分が見つけた”という感覚に立ってもらうことが関係人口を生み出すため大事だといいます。そうして自分が見つけた場所に若い人たちが何度も通い、何日も滞在するようになり、若者のためにゲストハウスを営む村民が現れ、若者と村の人の関わりが深まり、起業をする人も現れ…双方が幸せな場所と感じる村になっていくという、関係人口の循環が紹介されました。
ほかにも指出氏が関わってきた各地の関係人口プロジェクトや、全国各地で起きている関係人口のフロンティア事例が多数紹介されました。関係案内人「マチスタント」による前橋の商店街の活性化、富山大学生と富山市街地との接点をつくる学生シェアハウス「fil」、デジタルを活用した「山古志村デジタル村民」などです。コロナ禍を経て、アナログ/デジタルさまざまな形で地域とそこに魅力を感じて集う人の関係のあり方が示されました。事例を通じて、地域の人、地域外から現れた人の双方が「ウェルビーイング」を感じられる活動をともにすることで、関係が太く、さらに広がって行く様子が紹介されました。
また若い人たちの間に「みんなが喜んでもらうことに関わるのがかっこいい」という価値観が広まっている状況や、都市部の人には「拠りどころとなる場所」を探している人がいるといった現代の価値観についても関係人口につながる考え方が示されました。
後半は関係人口のためのアプローチとして「リジェネラティブ(再生)」というキーワードが示されました。リジェネラティブとは従来の場所や仕組みを改善して、人がより幸福になるよう取り組んでいく行為全般を指し、地域の再生と持続可能な発展を目指す概念としてここ数年では社会やまちづくりの分野でも広がってきています。
事例として、静岡県西伊豆町で始まっている「釣り×地域活性化」の取組みが紹介されました。漁業とマリンレジャーが盛んだった西伊豆町では漁業従事者の減少課題があり、一次産業として成立しなくなる可能性が指摘されていました。それに対し、外からレジャーで釣りにやってくる人が、自分が釣った魚をチェックを受けたうえで地域の市場に卸せる仕組みを作り、対価を地域内通貨として還元する取組みが始まりました。これによって遊びに来た人が楽しんで釣った魚が換金され、温泉に入ったりお土産を買う等で更なる地域体験を促し、地域にも還元される仕組みです。
このように地域の産業や資源を再生させる生業が、関係人口と地域の新しい接点になっていくことがリジェネラティブというキーワードで複数紹介されました。
最後に、関係人口を理解するリジェネラティブな視点として、4点が紹介されました。
「関わりしろ」は自分がその場所で何かをやってみたいと思える余白や要素、「ご機嫌な状態」は地域と関係人口の双方が身体的、社会的、精神的によい状態でいられる関係性のこと、「中長期的な幸せ」は3年で結果を求めるのではなく中長期のビジョンを共有できているかが岐路であること、「ここにいる安心感」は地域に関わることを認められた感覚があること。これらが関係人口にとってのモチベーションとなり、この4つがあることが関係人口が現れやすい場所の特性として紹介されました。
講演後のQ&Aでも活発な意見交換がされました。
関係人口の定義については「移住が最後のゴールではない」という意見や、関係人口の階段とよくいわれるが、階段をのぼること自体が負担にならないような考え方が大事だという指摘がありました。
まちの大きさと関係人口づくりの関連性についての議論では、まちが大きい(人口が多い)からたくさんの関係人口ができるわけではなく、むしろまちのどこに関係人口として関わるか?を考え、そこに最初の20人でも関係していくことからはじめ、根付く人を育てて行く視点が重要だという議論に至りました。