第2回ファッション・マーケティング研究報告会レポート「米国ファッション・マーケティングの最前線」 |
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テーマ:米国ファッション・マーケティングの最前線
報告者:平山 幸江(Sachie Hirayama Retail Strategies 代表)
日 程:2025年2月15日(土)20:00-21:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
第2回研究報告会は、報告者平山氏がNY在住のため、ZOOMで現地と東京を結んでの初のオンライン開催となりました。
まず初めにグローバルファッション市場の概要説明がなされた後、「ビクトリアズシークレット」を事例として、米国のファッション業界で近年顕著なショッピングモールを主たるチャネルとして成長してきたファッションブランドのトランスフォーメーションについて詳細な解説がありました。
「ビクトリアズシークレット」は、1990年代~2015年くらいまでショッピングセンターをチャネルとして成長し、2016年には年商77.8億ドルにまで達したブランドですが、女性自身が快適でインクルーシヴなD2Cブランドの台頭や経営陣・筆頭株主等のスキャンダルにも見舞われて市場シェアが大幅に低下、現在経営再建中の企業です。そのトランスフォーメーションの内容は、ブランドのコアビジネスは強化・拡大しながらも成長に向けて、インクルーシヴD2Cブランドを買収したり、店舗戦略を「量より質」に転換したり、Z世代の顧客育成に取り組んだりというものです。また積極的にAIなどのテック活用にも取り組んでいます。さらに経営基盤の刷新もあり、2024年には面積あたり売上高、店舗あたり売上高ともに回復基調になっているとのことでした。
また、百貨店業態の「メイシーズ」は、2024年2月にトニー・スプリングCEOによって「ボールドニューチャプター戦略」が実行に移され、店舗数を大幅に削減するとともにラグジュアリー市場へのシフトを進め、かつDXの推進により労働生産性と顧客体験の向上を図って、それが今のところ成功しているとのことでした。
一方で2010年頃に誕生したD2Cブランドに関しては、逆に出店戦略に転換した「ワービーパーカー」を除き、ほとんどのブランドが創業から15年前後たっても赤字経営から脱却できていないとのことでした。画期的な製品を開発して市場に参入しても①すぐに大手メーカー等に模倣され、市場の中で埋没してしまうこと、②やはりブランドの世界観の伝達や顧客コミュケ―ションの面で「店舗」の持つ意味・価値は大きく、D2Cでは限界があること、③ブランドの露出・コストダウンの観点からも卸売販路を持つことは重要で、それを持たないD2Cビジネスには限界があることも示されました。
サステナビリティに関しては、多くのファッションブランドが自ら中古アパレルの再販を行っており、その理由として①顧客が再販商品を既に購入している、②顧客がブランドのサステナビリティ性を重視している、③顧客が再販商品の価格を重視しているといった点が挙げられました。また、レンタル市場に関しては、アーバンアウトフィッターズ社が2019年に立ち上げた「ヌーリィ」が着実に成長しており、まもなく黒字化を達成しそうな状況にあることが報告されました。
最後に、今年1月12~14日に開催されたNRF(全米小売業協会)のビッグショーに関しても報告されましたが、100本以上のセッションがほとんど生成AIに関するものであったとのことで、AIが今後ますますファッションビジネスの世界を変えていくことは明白なようです。
写真左より、現地NYからオンラインで報告中の平山幸江氏(2025年2月15日)、平山氏作成の発表資料(裏付けとなる数値データや取材に基づく画像資料など、充実したコンテンツでした)
【報告会を終えて】
世界最大のファッション市場であり、グローバルファッション市場の5分の1強を占める米国市場の動きを知っておくことは、今も昔も変わらず重要だということを改めて実感した研究報告会となりました。
特に、平山氏の報告で印象に残ったお話は、①あれほどファッション界・小売業界を席巻していた「サステナビリティによるイノベーション」が政権交代による環境変化も影響しているのか言われなくなり、各社ともより収益重視の現実的な内容に戦略転換が行われていること、②ファッション業界にとって、ブランドの価値伝達・顧客とのコミュニケーションの場でもある小売店舗の持つ意味は大きいこと、③効率のよいビジネスモデルと考えられていたD2Cビジネスが、実はインフルエンサーマーケティング等に多大な費用がかかり、成長のための資金の獲得も難しいという苦境に喘いでいること、④再販やレンタルの市場においても、小売(卸売)事業とのシナジーを追求できるブランドが成功していることでした。
また、メイシーズのスプリングCEOの「百貨店は(昔のワンストップではなく)より簡単に買い物できるように顧客のために編集した選択肢を提供する存在である。」といった発言に代表されるように、その業態・ブランドのDNA、存在価値に改めて立ち返ること、それを顧客にシンプルなメッセージで伝達できている企業が復活を遂げつつあるという事実が、何よりも現代のファッションビジネスにおいて意味のあることと感じました。
今回の平山氏のご報告内容から、早々にNYのファッション小売の最新事情を確認しに行かねばと考えた方は、多かったのではないかと思います。
最後に、今回ご報告頂いた平山氏、並びにご参加頂いた方々に厚く御礼を申し上げます。
(文責:内海 里香)