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研究報告会レポート

第2回生活世界マーケティング研究報告会レポート「顧客理解を起点とした人材と組織の育成 ― パナソニックfoodableチームの実例を通して ―」

第2回生活世界マーケティング研究報告会(東京) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:顧客理解を起点とした人材と組織の育成 ― パナソニックfoodableチームの実例を通して ―
報告者:水野 暢太 氏・谷一 恵子 氏(パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 CX事業開発室)
    生活世界マーケティング研究会 企画運営メンバー
日 程:2025年2月19日(水)18:30-21:00
場 所:みらいスペース市ヶ谷(東京)
 
【報告会レポート】
 調理家電と食材をセットで提供する、パナソニックのサブスクリプションサービス「foodable」。本研究報告会では、このfoodableチームによる顧客理解の実践を題材に、質的調査を通じた顧客理解が、どのように人材やチームの成長に結びつくのかについて議論した。
 
生活世界から見える顧客の価値観
講演の様子 本研究会では、顧客の「生活世界」を深く理解する手法として、「TEA(複線径路等至性アプローチ)」に注目している。TEAは、実際の選択だけでなく「ありえた選択肢」にも着目し、顧客の選択の背景を可視化することができる。
 foodableチームとの共同プロジェクトでは、TEAを活用することで、ロイヤルユーザーの隠れた価値観を明らかにすることができた。たとえば、ある女性顧客は、「料理が好きではない」と話していた。しかし、インタビューを重ねると、その顧客の家族関係や料理への前向きな姿勢も明らかになり、foodableが顧客の日常生活においてどのような意味を持つのかが徐々に明らかになった。
 foodableチームの水野暢太氏と谷一恵子氏は、「当初はサービスと関係のない話だと思っていたが、その中で顧客がサービスを選ぶ根幹となる価値観が見えてきた」と振り返った。
 
対話がもたらす「視点の変容」
 吉澤飛鳥(企画運営メンバー、神戸学院大学)は、foodableチームが実践した調査プロセスを経験学習の観点から分析した。インタビュー、TEM図作成、チーム内対話を繰り返すことで、調査者自身の視点が変容し、より深い顧客理解が可能になることを示した。
 特に、顧客との対話とチーム内対話の「二重の対話」が鍵となる。初回インタビューでは「調査者の視点」だったものが、2回目以降のインタビューでは「顧客の視点」に立った対話が生まれ、より本質的な理解へとつながる。
 また、TEM図を介した対話は顧客自身の内省を促し、顧客が自らの言葉で「生活世界」を語り始めるプロセスを生み出していた。
 
AIと人間の協働
 上記のような調査は、AIの活用により、効率と精度が向上する可能性がある。
 中原孝信(企画運営メンバー、専修大学)は、最新の研究成果にもとづき、大規模言語モデル(LLM)の特性と質的研究への応用可能性について解説した。LLMは、データ整理や分析の効率化だけでなく、新たな洞察をもたらす可能性がある。
 橋本光成(企画運営メンバー、富士フイルムソフトウエア株式会社)は、開発中のAIシステムをデモンストレーションし、TEAを用いた調査のプロセスがAIによって統合的に支援される様子を示した。
 AIはデータからパターンを発見し、新たな仮説を提示する。一方、人間はAIが提示した情報を文脈に照らして解釈し、顧客の真意を洞察する役割を担う。この協働によって、質的調査はより効率的で創造的なものへと進化していくことが示された。
 参加者からは、「AIにインタビュアーの仕事が奪われるのではと心配だったが、むしろ可能性が広がることを実感した」という声が上がった。
 
今後の展望
 継続的に新しい価値を生み出していくためには、顧客視点を軸とした組織カルチャーの醸成が不可欠である。これは一朝一夕で実現できるものではないが、今回の議論を通じて、適切な手法とテクノロジーを活用した質的調査を起点に、組織全体で経験学習を展開することが、その鍵となることが明らかになった。
 本研究会は、今後も多様な企業との協働を通じて、顧客の生活世界への理解を深め、それを組織の力に変えていく方法論の探究と普及に取り組んでいく。
 
(文責:小菅 竜介)

 
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