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第10回ヘルスケアビジネス研究報告会レポート「患者視点の医療と行動変容」 |
第10回ヘルスケアビジネス研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:患者視点の医療と行動変容
日 程:2025年2月22日(土)15:00-18:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
演 者:真野 俊樹 氏(中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科) 教授 / 多摩大学大学院 特任教授)
佐藤 幸夫(多摩大学 医療・介護ソリューション研究所 フェロー)
香川 勇介 氏(小野薬品工業株式会社 オンコロジー製品企画部 室長)
榊原 健太 氏(Ubie株式会社 オンコロジー商品開発統括 兼 営業統括)
【報告会レポート】
ヘルスケアビジネス研究会は、真野俊樹教授をリーダーにマーケティングの視点でヘルスケアビジネスを探求する研究会です。第10回となる今回の研究会では、「患者視点の医療と行動変容」というテーマで講演と議論を行った。近年、医療現場のみならず製薬企業の立場からも、患者中心の医療やSDM(shared decision making)が注目されている。今回のリサプロでは、ドラッカーの顧客創造と社会観をもとにナラティブと価値創造について、また患者視点の医療と行動変容について考察した。また、患者中心の医療を目指しているUbie株式会社の実務事例についての紹介を起点に患者中心の医療について議論を交わすことができた。当日はオンラインでの開催となり三連休の初日でありながら11名の参加者の下、活発な情報共有を行うことができた。今回の研究会を通じて、DXやAIの進歩が著しい社会環境の中で、患者中心の医療が適切に行えるような実践的な議論を交わすことができた。医師など医療従事者、ヘルスケア関連企業、患者、国民といった多様な視点から幅広い知見の共有に寄与することができた。
Opening Remarks:「患者視点の医療と行動変容」
真野 俊樹 氏(中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科) 教授)
コロナ禍を契機として医療が国民の身近な関心事となり多くの情報が社会に蔓延した。蔓延した医療情報の中には正しくない情報も含まれ、社会の混乱を引き起こすことに注意が必要である。また、人間の特性として限定合理性という観点から、合理的に判断し行動変容を促すことが難しいという側面もある。このような視点から、本日Session2の講演であるUbie株式会社の患者の行動変容を支援する事例報告は興味深い。その後、本日の研究会に際して、現在の医療環境について紹介頂く。日本の医療福祉サービスに従事する人口は増加し、日本社会を支える重要な産業として注目されてきたが、昨今の人手不足や社会保障費用の増加を背景に課題も生じた。しかしながら、日本の医療サービスは、世界でもトップクラスである。日本の医療サービスについて、世界各国との比較データを参照し現代の日本の医療サービスに何が必要であるかを検討した。日本の医療体制や制度は充実しているものの予防に関する支出は低く、予防については多くを個人に任されている状況である。DXやAIの進歩が目覚ましい現代社会において、日本の医療サービスでのデジタル化の推進が急務である。AIやビッグデータ、遠隔診療、ロボティクス、バイオ、再生医療など開発すべき領域は多岐に及ぶ。日本の医療サービにおいて、働き方改革やインフレ、DX、「直美」など社会的関心が高まっている。このような環境の中で、日本のヘルスケアビジネスが目指すべき一つの方向として「正しい医療情報を得る」「自らの手で予防し健康になる」という行動が広まるよう支援することは、医療従事者や関連企業にとって重要な責務である。本日の研究会では、医療提供体制と患者側のすれ違いを考察し患者中心の医療が実現できるよう関連知識の共有の場としたい。
Session 1:「患者中心の医療とマーケティング 〜ドラッカーの社会観からの考察〜」
進行:真野 俊樹 氏(中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科) 教授)
講演:佐藤 幸夫(多摩大学 医療・介護ソリューション研究所 フェロー)
患者中心の医療とマーケティングについての理解を深めるために、サービス・ドミナント・ロジック理論から現代マーケティングにおけるサービス観や顧客観について紹介した。現代社会では、顧客やサービス、価値共創を検討するに際して「社会」というワードが重要な意味を持つようになった。グローバル化という社会環境の中で制約要因としての「社会」という意味の他に、社会的価値や顧客の一部に内在する「社会」という性格である。本日は、マーケティングにおける社会観や顧客観を超えて、マネジメントの父と言われているP.F.ドラッカーの社会観や顧客観との対比を広く社会学的視点から「社会」を考える機会とした。また、「社会」という存在を個々人の「ナラティブ」から構築された主観的実像として、「ナラティブ」の作用についても言及した。患者中心の医療に向けて、SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)の要請が高まっているが、SDMを推進するための社会性について、「ナラティブ」の視点から昨今の日本社会について検討した。エビデンスの限界が言われている現在のヘルスケアビジネスにおいて、医療専門職による科学的知研究や理論構築などとともに実践知や暗黙知を有する実務研究者の役割が問われている。理論研究によって専門化、体系化されたエビデンスを補完するため、潜在機能分析を通じて患者や医療従事者、関連企業が有する「ナラティブ(暗黙知や実践知)」を表出させエビデンスと「ナラティブ」の統合を図ることが重要であることを共有した。
Session 2:「デジタルヘルスで変わる、患者の行動 ~Ubieのサービス利用事例から~」
進行:香川 勇介 氏(小野薬品工業株式会社 オンコロジー製品企画部 室長)
講演:榊原 健太 氏(Ubie株式会社 オンコロジー商品開発統括 兼 営業統括)
冒頭進行の香川氏からUbie株式会社の榊原氏の紹介に続き、その後、榊原氏から事業概要の紹介を頂く。Ubie株式会社は医師の阿部氏とエンジニアの久保氏が中心となり起業したスタートアップ企業である。「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、適切な医療に辿り着けずに命を落とすことがない社会を目指している。生活者向けサービス、医療機関向けサービス、製薬企業向けの3つのサービスを展開している中で、本日は生活者向け症状検索エンジン「ユビー」について、使用デモンストレーションなどを交えて紹介頂いた。10〜20程度の質問に回答することで、どの様な疾患の可能性があるのか、治療法など幅広い疾患情報を得ることができる。入手した情報を参考に、受診するかどうかの目安や医師とのコミュニケーション材料として使用することができる。今回の研究会では、「ユビー」を使用した方からのアンケートを基に、医療情報提供に関する様々な課題についても紹介頂いた。アンケート結果から、医療機関への受診に際して、医師と利用者との間には大きな意識の隔たりがあることが明らかとなった。また、現在の医療関連情報の収集について、情報自体は増えているが、その内容について満足できていない利用者が多いことも示された。利用者のアンケート調査による全体的な傾向の他、特定の疾患に絞り込んだユースケースや疾患による利用者の受診動向の変化など、得られる情報によって利用者の行動変容への関わりを定量的、定性的に説明頂いた。「ユビー」を使用することで、症状についての重大さや具体的疾患との関連性について利用者に対して気付きを与える体験の場となっている。「ユビー」が、医療機関への受診に向けた行動変容の機会として有効なツールであることが実感できた。また、利用者が受診しなかった理由から、疾患に対して様々な感情(恐怖、羞恥心、不安など)が潜んでいることが表面化してきた。医療機関への受診について、感情のジレンマが作用し、行動経済学で示されている利用者の限定合理的な行動特性が同定された。本日の発表から、適切な医療情報を提供することで利用者の受診行動を促進することが確認できた。更に、適切な情報を得ることで医師との間で良好なコミュニケーションを図ることができることも確認できた。「ユビー」を活用し適切な医療情報を得ることで利用者を適切な医療に案内するこができるという企業ミッションに合致した素晴らしいサービスであり今後の更なる社会貢献に期待したい。
質疑応答 / ディスカッション:「行動変容を阻害する要因としてのバイアスをどうマーケティングに応用するか?」
真野先生から「ユビー」について、情報提供という視点の他に医師とのコミュニケーションツールとしての活用について優れたサービスであること、また、米国など製薬企業が直接患者に向けて医薬品のプロモーションが可能であることに対して、日本国内での医薬品に関する情報提供に制約がある中での情報提供についての工夫など「ユビー」の特徴を再認識する助言を頂いた。高齢社会による国民医療費の増加が避けて通れない中、無制限に医療機関への受診を促すだけでなくOTCなどの紹介や疾患予防、健康維持に向けた情報提供、疾患啓発、予防医療などの情報提供の重要性が共有された。
その他、利用者や製薬企業という視点の他、持続可能な社会に向けた社会的インパクトについてどの様に考えているのか、イベントの予防効果、医療関連制度について行政向けの活動など、多くの質問について榊原氏との実践的な質疑応答を行うことができた。
本日の研究会では、冒頭真野先生から日本のヘルスケアビジネスがおかれた環境や課題などを解説頂いた後に、佐藤からマーケティングやマネジメント視点からの患者中心の医療に対しての概論的な話題提供を行った。更に、榊原氏から患者中心の医療に必要な情報提供や行動変容に向けた「ユビー」サービスを紹介頂いた。持続可能な医療制度を維持するために国民の健康意識向上や予防医療への行動変容の促進が期待される。今回、第10回目を迎えた研究会だが、来年度の活動ついても、より充実した内容でヘルスケアビジネスについての課題や問題解決への探求を目指したい。
本研究会では、ヘルスケアビジネスについて新たな知見の共有や討議を通じて、日本のヘルスケアビジネス推進に寄与したいと考えております。ヘルスケアビジネスに興味を持つ多くの方々のご参加をお待ちしております。
(文責:佐藤 幸夫)

