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研究報告会レポート

第19回ソロモン流消費者行動分析研究報告会レポート「シミュレーションゲームを活用したマーケティング教育について考える」

第19回ソロモン流消費者行動分析研究報告会(東京) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:シミュレーションゲームを活用したマーケティング教育について考える
報告者:福川 恭子 氏(一橋大学 経営管理研究科 教授)
    六嶋 俊太 氏(一橋大学 経営管理研究科 博士後期課程)
司 会:松井 剛 氏(一橋大学 経営管理研究科 教授)
日 程:2025年2月28日(金)17:30-19:00
場 所:一橋大学 千代田キャンパス
 
【報告会レポート】
 今回の研究報告会では、主にMarkstratを取り上げてシミュレーションゲームの活用方法や教育効果について議論した。司会を務めた松井教授は2006年から一橋大学のマーケティング関連の授業やゼミでMakrstratを活用してきた。六嶋氏は、同大学の授業で4年間に渡りティーチングアシスタントとしてMarkstratのゲームマスターを務めてきた。福川教授はイギリスの大学でシミュレーションゲームを活用した豊富な経験があり、2020年からは東京工業大学(現・東京科学大学)でCircular Markstrat(環境保護を意思決定シナリオに組み込んだ拡張版Markstrat)を活用した授業を松井教授と担当している。
 
六嶋 俊太 氏 六嶋氏は、Markstratの基本的なルールや、参加学生が得られる学びについて詳しく説明した。
 Markstratは、500以上の大学やビジネススクール、企業で導入されており、累計体験者数は200万人を越えている。このシミュレーションでは、学生たちはある大企業の電子機器のマーケティング部に配属される。架空の2つの市場に自社ブランドを投入し、競合他社と競いながら、株価を高めることを目指す。学生チームは、自ら予算を管理し、マーケティング戦略を立案して繰り返し意思決定を行う。意思決定に必要な変数が非常に多いため、その中から重要な変数を見極めることが求められる。融資の申請も可能であり、実際の経営に近い状況を体験できる仕組みとなっている。
 こうした意思決定を繰り返すことで、①企業運営に関する基本知識、②マーケティング戦略の立案方法、③市場調査やセグメントについての理解、④資金調達の考え方、⑤競合他社分析などについて学生は学ぶことができる。現実のビジネス反映した高揚感や手触り感があるシミュレーションの中で、失敗や成功を繰り返すことで、講義で学んだ知識が具体的な意味を持ち、リアリティをともなって実感できるようになるという。
 
福川 恭子 氏 次に福川教授は、Green&Greatというサスティナビリティを考慮した意思決定が求められる経営戦略のシミュレーションゲームについて紹介した。その上で、シミュレーションゲームを教育現場に導入する意義や、学生の評価方法について論じた。
 Green&Greatは、サスティナビリティを経営に取り入れる実践的に学びを提供するシミュレーションゲームであり、利益、環境、社会、従業員の4つの指標をバランスよく向上させることが求められる。このため、現代の企業が直面する社会状況が反映した内容となっている。Markstratとは異なり、短時間で実施可能であり、教育機関において無償で利用できるため、導入のハードルが低い点も特徴である。
 MarkstratやGreen&Greatのようなシミュレーションゲームを教育現場に導入する意義は、六嶋氏も指摘しているように、「Learn by doing」という実践を通じて、実感を伴って座学で学んだ知識を定着させる効果があることが挙げられる。
 福川教授は、学習効果を最大化するために、シミュレーションゲーム終了後に自分たちの意思決定を振り返るプレゼンテーションの場を設けている。このプレゼンテーションは、ゲームの結果(株価指数)と同様に評価対象とされ、両者は同じ比率で成績に反映される。そのため、ゲームで失敗した場合でも、自らの意思決定を深く振り返り、分析できることができたチームは高い評価を得る可能性がある。
 このようなプレゼンテーションやチームワークは、「トランスファラブル・スキル」と呼ばれる。これは、分野を問わず求められる応用可能なスキルであり、イギリスの大学ではカリキュラムの必須項目とされている。近年、日本の大学でも注目を集めている。このスキルはシミュレーションを通じて培われ、将来、学生が社会で求められる重要な能力となる。
 
 最後に、三者によるディスカッションとフロアとの質疑応答が行われた。シミュレーションゲーム後のプレゼンテーションで行われる振り返り(リフレクション)が深いほど、ゲームの勝ち負けに関係なく、学びの質が高くなることがディスカッションで指摘された。質疑応答では、ゲームの運営方法やシステムのロジック、授業内で学生たちが直面する課題、導入におけるデメリットがあるのかなど、シミュレーションゲームの活用に関する多角的に議論が展開された。

 
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