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研究報告会レポート

第21回医療マーケティング研究報告会レポート「インフォデミック時代の医療情報発信」

第21回医療マーケティング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:インフォデミック時代の医療情報発信
講演者:井上 祥(横浜市立大学 共創イノベーションセンター 特任准教授 / 京都大学大学院 医学研究科 客員研究員 / 株式会社メディカルノート 共同創業者)
日 程:2025年3月17日(月)18:30-19:40
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
はじめに
 大学卒業後、医学教育学でのメディカルサイエンスコミュニケーションの課題に触れる中で問題意識を持ち、メディカルノートという医療情報発信の会社を共同創業しました。以後、約10年間、3000人近くの医師への取材を通じて、信頼できる医療情報をインターネット上で提供することに尽力してきました。現在は大学での教育や様々な委員会活動を通じて、医療情報発信や啓発活動に携わっています。
 
 インフォデミックという概念は、COVID-19のパンデミックを通じて広く認知されましたが、2010年代初頭にはすでに大きな問題となっていました。例えば、エビデンスのない治療法が拡散し、多くの人々が誤った情報を信じてしまう事例がありました。本講演では、医療情報の信頼性をどのように確保しながら発信し、正しい情報を効果的に届けるかについて、マーケティングの視点を交えてお話しします。
 
1. インフォデミックとは何か?
インフォデミック時代の医療情報発信 インフォデミック(Infodemic)とは、「情報(Information)」と「伝染病(Epidemic)」を組み合わせた造語で、大量の情報が急速に広がることで社会に混乱をもたらす現象を指します。特にCOVID-19のパンデミック時には、誤情報がSNSなどを通じて拡散され、公衆衛生への影響が懸念されました。インフォデミックの理論的な背景として、エコーチェンバー現象により同じ考えを持つ人々の間で情報が繰り返し共有され、異なる意見が排除されることや、フィルターバブルによってアルゴリズムがユーザーの嗜好に基づいて情報を選別し、利用者が自身の価値観の中に閉じこもることが挙げられます。
 
2. 医療従事者の情報発信の課題
 学会や医療機関が一般向けに情報を発信する際には、正確性を重視するあまり、どうしても専門的で難解な内容になりがちです。そのため、情報が届く範囲が限られてしまい、結果として必要とする人に適切な情報が届かないという問題が生じます。どれほど正しい情報であっても、それが読まれなければ意味がなく、一般の方々に受け入れられやすい形で発信する工夫が求められます。
 
3. 医療情報を届けるための工夫
 ではどのようなアプローチが有効でしょうか。医療情報を正しく広めるためには、ナラティブアプローチを取り入れることがカギとなります。単なるデータやファクトの羅列ではなく、ストーリーを交えて伝えることで、読者の関心を引き、理解を深めることができます。実際に、横浜市医療局、日本循環器学会、メディカルノートが共同で実施した「医療マンガ大賞」では、心房細動の啓発を目的とした作品が多くの人に届き、さまざまなアワードを受賞しました。
 また、新型コロナワクチンの公共情報タスクフォースでは、リスクばかりが拡散されやすい環境において、インフォグラフィックを用いた視覚的に分かりやすい情報提供が行われました。例えば、「アナフィラキシーショックが起こる頻度」を、ハチ刺されと比較することで、より直感的に理解できるような工夫をしました。
 
インフォグラフィックの事例
 
4. 海外に学ぶ医療機関のデジタルマーケティング
 海外の医療機関においては、デジタルマーケティングの活用が進んでおり、医療情報の伝え方にも独自の工夫が見られます。例えば、MAYO CLINICでは、「Find a Doctor」機能をスポーツの選手名鑑のようにデザインし、さらに予約へスムーズに誘導する仕組みを採用しています。また、InstagramやTwitter(X)、Facebook、YouTubeといったプラットフォームを活用し、外向けの情報発信を充実させる一方で、職員向けにも経営者の価値観を共有しています。Cleveland Clinicでは、料理のレシピを活用したコンテンツマーケティングが行われており、シンシナティ小児病院では、伝え方に工夫を凝らし、さまざまなタッチポイントを設けることで情報の浸透を図っています。
 
5. 日本の医療マーケティングの展望
 AHA(American Heart Association)とマウントサイナイ病院の事例では、Dr. Fusterがセサミストリートのキャラクター“Dr.Ruster”として登場し、子どもたちに健康教育を実施していました。日本では「病院ゆるキャラ総選挙2024」など、独自の文化を活かした取り組みが展開されています。洛和会では30を超えるSNSチャンネルを運営し、ターゲットに応じた情報発信を行っています。
 O2O(Online to Offline)からOMO(Online Merges Offline)への移行が進み、オンラインとオフラインの境界をなくし、シームレスな情報提供を目指す動きも見られます。適切な医療マーケティングは公衆衛生の向上につながると信じ、今後も活動を続けていきます。
 
6. 質疑応答
 講演後の質疑応答では、対象者のリテラシーによる違いをどのように考えるべきか、患者と家族の間で求められる情報がどのように異なるか、そしてネットとオールドメディアの使い分けをどのように設計すべきかといったテーマで活発な意見交換が行われました。
 
(文責:医療マーケティング研究プロジェクト リーダー 的場 匡亮)

 
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