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第31回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「地域×イノベーション発想の最前線」 |
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テーマ:地域×イノベーション発想の最前線
講 演:ポップカルチャーによる地域創生の現状と課題
講演者:川又 啓子 氏(青山学院大学 総合文化政策学部 教授)
ファシリテーター:長尾 雅信 氏(共立女子大学 ビジネス学部 准教授)
日 程:2025年5月23日(金)18:30-20:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
今年度のプレイス・ブランディング研究会では、「地域×イノベーション発想の最前線」をテーマに、地域におけるイノベーションを考えていきます。今回のゲスト講演者は、青山学院大学総合文化政策学部教授の川又啓子氏です。川又氏からは、『ポップカルチャーによる地域創生のマーケティング:超えろ3年の壁!』(千倉書房,2025年)をもとに、ポップカルチャー(マンガ・アニメ・ゲーム等)に伴うスティグマに着目し、正当化戦略を通じて持続可能な地方創生をめざすモデル構築の課題と展望について、ご講演をいただきました。
川又氏は、ポップカルチャーを活用した地域創生のメカニズムと、そのマーケティング戦略を明らかにすることが研究の目的であることを踏まえ、日本ではポップカルチャーが地域創生の一環として利用される一方で、社会的にスティグマ性の強い製品とみなされる課題が提示されました。
川又氏は、ポップカルチャーを活用した地域創生のスティグマ解消のための戦略として、多様なステークホルダー間での受容促進に向けたメガマーケティング戦略の可能性に言及し、ゲームやeスポーツの事例やポップカルチャーを活用した大須商店街の事例をもとに、ジャパニーズポップカルチャーの受容プロセスの3段階モデルについて説明されました。

スティグマとは、古代ギリシャで犯罪者や奴隷に刻まれた「烙印」に由来し、現代では「恥」や「不名誉」といったネガティブなイメージを指す言葉として使われています。また、スティグマは、「普通ではない」とされる特徴や行動が社会的に否定的に扱われる状況を指しています。ただし、スティグマは相対的かつ変動的なものであり、社会的な状況や関係によって評価が異なることも特性の1つとされています。
次に、地方自治体でポップカルチャーを活用した地域創生を目指す場合、スティグマ性を解消する戦略が不可欠と考え、正当化戦略としてのメガマーケティングについて言及されました。スティグマの解消と社会の受容促進のためのメガマーケティングとは、正当化によりスティグマ性を低減し、異なる価値観を持つステークホルダーが納得する理由を提供する戦略行動を指します。この戦略は、資源動員戦略(ネットワーク形成、資源調達)と意味づけ戦略(ポジティブなイメージの付与)から構成されます。
資源動員戦略と意味づけ戦略は、4つの正当性(規制的正当性・規範的正当性・認知的正当性・物理的正当性)を通して、正当化によるスティグマ解消が図られるとする戦略です。スティグマ解消は、社会の受容を獲得したうえ、正当性(みんなが納得する理由)を獲得します。eスポーツにおける正当性は、新産業としての可能性・新しい競技スポーツとしての意味付け・社会的意義の強調が挙げられます。
川又氏は、ポップカルチャーを活用した地方創生の事例として、大須商店街の「ポジティブ・スティグマ・マネジメント」を挙げられました。大須商店街は、スティグマ性を持つ歴史的背景を抱えつつ、アクターの多様な文化を受け入れる「ごった煮」文化を特徴としています。1970年代に始まった「アクション大須」や「大須大道町人祭」は、商店街再生の契機となりました。また、コスプレパレードといったイベントや地域啓発活動(交通安全・防犯など)への展開もあるご当地アイドル「OS☆U」の活動を通して、多文化共生と地域創生のモデルケースとなっていることを紹介されました。
また、ゲームやeスポーツは、特にスティグマ性が強いポップカルチャーとされ、これらを自治体で活用する際には、社会的意義を強調する意味づけ戦略が有効であると話され、具体例として学校の部活動・不登校対策・高齢者や障がい者の社会福祉対策を挙げられました。
講演では、筆者らが提案する「ジャパニーズポップカルチャーの社会的受容の3段階モデル」が紹介され、ポップカルチャーを地方創生に活用する際のメリットと課題が提示されました。特に、ノン・ユーザーが納得する理由を提供する正当化戦略の重要性が強調され、講演の締めくくりとなりました。

講演後のフロアディスカッションでは、参加者から多様なご意見・ご質問が寄せられ、盛会となりました。ポップカルチャーの地域創生への活用は、非言語性・拡散性・Z世代の来訪・観光や移住の促進などのメリットがある一方、ファンの飽きからくる一過性や、自治体担当者の人事異動による停滞、地元の思惑との乖離、IPホルダー戦略などの課題があることが共有されました。最後にファシリテーターである共立女子大学の長尾先生からは、地域創生に必須のツールとして、今後も注視していきたいとの指摘があり、本研究会は締めくくられました。
*ジャパニーズポップカルチャーの社会的受容の3段階モデル
Stage1:個人の趣味の段階―ジャパニーズポップカルチャーやゲームが個人の私的な領域で受容される段階。
Stage2:ユーザー・コミュニティ形成の段階―オンラインやオフラインでファンが集まり、コミュニティを形成する段階―この段階ではイベントがコミュニティの可視化と拡大に重要な役割を果たす。
Stage3:ノンユーザーを含むオープンなコミュニティへの展開―ユーザー・コミュニティが拡張し、ノンユーザーや行政、企業など異なる目的を持つ主体が参画する段階

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