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研究報告会レポート

第10回サービス・マーケティング研究報告会レポート「食を通したウェルビーイング ― アサヒビールの取り組みに学ぶ ―」

第10回サービス・マーケティング研究報告会(三都市カンファレンス:東京会場) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:食を通したウェルビーイング ― アサヒビールの取り組みに学ぶ ―
 

  1. 解題
    酒井 麻衣子(中央大学 商学部 准教授)
  2. ゲスト講演「未来のビール会社にむけて ― スマートドリンキングが目指す社会 ―」
    内田 晴久 氏(アサヒビール株式会社 マーケティング本部 スマドリマーケティング部 次長)
    三神 依子 氏(アサヒビール株式会社 マーケティング本部 新顧客創造部 部長)
  3. ディスカッション
    ゲストおよび研究会メンバー

 
日 程:2025年3月8日(土)9:00-10:10
場 所:法政大学 市ケ谷キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 『食を通したウェルビーイング』の実践事例としてアサヒビール様に、「すべてのお客さまに、最高の明日を。」というビジョンの体現を目指す取り組みについて以下のような講演をいただいた。
 
講演概要
 アルコール離れは日本だけでなく世界的な潮流となっている。なぜアルコールから離れているのか?なぜ若者の価値観に受け入れられていないのか?アサヒビールはその課題解決のために、今までは向き合えていなかったお酒を飲まないユーザーにもしっかりと向き合おうとしている。その第一歩の取り組みが「スマドリ」である。アルコール代替としてのノンアルコール・低アルコールだけではなく、「大人が心から飲みたいと思えるノンアル低アルドリンク領域」を開拓することで「スマドリ」を文化として根付かせていきたいと本気で考えている。本講演では同社が本業と相反するような「スマドリ」戦略に舵を切った背景や目的、現在の取組状況と今後の展望について発表する。
 
 スマートドリンキング(スマドリ)とは、“飲める人も飲めない人もみんなが楽しめる、体質や気分に合わせた自由な飲み方”を意味する。その普及を目指す背景にあるパーパスは、「好きなドリンクを手に、誰もが自分らしく、誰もが共に楽しめる未来の実現」であり、「新しくて楽しい、お酒の生活文化の創造」である。
 ウェルビーイング(WB)は「個人」「集団」「社会」といったさまざまな次元に存在する。本事例を捉える一つ目の視座は、「スマドリ」のブランド・パーパスが、個人のWBをもたらし、さらには個人の集合である集団や、それを包摂する社会のWBへとつなげることを目指す事例と捉えるものである。すなわち、飲める人も飲まない人も美味しく楽しめることで、個人のヘドニックなWB(ポジティブ感情や幸福感など)、ユーダイモニックなWB(積極的な他者関係や思いやりなど)、ソーシャルなWB(社会的な受容や多様性尊重など)が実現され、それが当たり前になった集団や社会では、コレクティブなWB(共同体の感覚、メンタルヘルスの向上、安全性の向上など)が実現されるということである。
 二つ目の視座は、社会的価値と経済的価値の両立の事例として捉えるものである。アルコール飲料市場を主戦場とする同社において、アルコールを含まない飲料を訴求することは、組織内に軋轢や矛盾を生みかねない。営利企業においては、顧客のWBの実現によって社会的価値をもたらすと同時に、経済的価値も両立することが必須となる。同社はこれまでターゲットとしてこなかった、お酒を飲まない・飲めない人々という大きな潜在市場の開拓を兼ねることで、この両立を実現しようとしている。
 講演後は、どうやって既存事業との整合性を持たせるかという「戦略」上の課題、どうやって組織に浸透させるかという「組織」上の課題、そしてどうやって顧客に浸透させるかという「マーケティング」上の課題の観点から、活発な質疑とディスカッションが行われた。戦略や組織上の課題としては、商品のカニバリゼーションへの対応や営業現場の理解を促進する方法について、マーケティング上の課題としては、アルコールを一種の悪として捉える傾向のある行政や法律との兼ね合いや、お酒を飲む人の文化の洗練などについて議論された。
 営利企業のマーケティングにおいて、個人だけでなく、集団そして社会のWBの実現を目指すことの可能性が示された実践事例であった。
 
(文責:酒井 麻衣子)

 
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