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研究報告会レポート

第45回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「中小企業を主体とした地域活性化にみる価値共創の実際」

第45回価値共創型マーケティング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:中小企業を主体とした地域活性化にみる価値共創の実際
日 程:2025年7月26日(土)13:00-15:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
第1報告「中小企業支援・地域活性化と価値共創」

藤岡 芳郎 氏(畿央大学)

 藤岡先生は、地域社会に根差した中小企業の発展を考えるうえで、価値共創マーケティングの考え方が有効であることを明確にする実践事例をご報告いただきました。あらゆる企業にとって人材獲得や育成、地域社会への貢献が重要なのは間違いありませんが、中小企業は十分な人材が確保できず、自社単独でできることが限られてしまいます。すなわち、多数の中小企業で構成される地域社会において、さまざま存在する社会的なニーズに対し、十分なシーズがありながらマッチングできない現状が見受けられるといえ、それは企業が市場を特定してそこに向けた企業活動に専念してしまうがゆえに結びつかないのであり、地域社会に根差した中小企業の発展を考えるうえでは、顧客の生活世界に根差した取り組みへの転換が必要だといえます。中小企業が強みを磨き弱みを克服するためには、価値共創マーケティングの考え方が効果的だと考えて、アクション・リサーチの手法で継続的に研究を続けていらっしゃいました。
 
第2報告「小規模事業者、中小企業支援と価値共創」

白谷 将規 氏(摂津市商工会)

 藤岡先生のお考えを共有した白谷様は、経営資源が不足する中小企業に対し、間接支援を通じて経営資源の補完を促し、地域での存在感を高める力になる取り組みを推進していらっしゃいました。具体的には、今や小学校段階から始まるキャリア教育への接続です。摂津市では「キャリア教育応援企業等登録制度」や「せっつキッズファクトリー」の取り組みがありながら、なかなか教育機関は望ましい企業を見つけて子どもたちにキャリアを考える機会の提供ができずにいました。教育機関側は、協力企業を探そうにも思うように見つけられない状況にあり、中小企業側は魅力度の高さが評判になり得る力があっても、それをうまく伝えられずにいました。これを結びつけることができれば「わくわくする未来」「面白い・楽しいの共有」が拡がるといえ、重要なのは元来近い距離にない主体が出会うことで、そこに生まれる価値を重視することが、結果として効果的な中小企業の支援策だといえます。白谷様曰く、最初は一緒にスモールスタートで事業を進めていくのですが、途中からは活動が活発化して把握しきれないほど自走し始めるそうです。但し、自走すればするほど成果にも恵まれているはずが、ヒアリングの時間が確保できず売上の増加やそのほかの情報収集につながっていないという現状もあり、こうしたことが課題でもあるとの説明がありました。
 
第3報告「キャリア教育支援ネットワークesccoと価値共創」

山之内 敦 氏(一般社団法人ビジネス共創協会)

 山ノ内様は、中小企業支援事業および地域社会活性化事業を推進していらっしゃいます。幅広い活動のなかで今回は、摂津市キャリア教育応援企業等登録制度の運用と、キャリア教育支援ネットワークesccoの実践についてお話しいただきました。前者であるキャリア教育応援については、日本の教育全体が学力を将来につなげていないという課題に基づいています。これほどキャリア教育が推進されながら、教育現場と企業や団体との連携がスムーズとは言えず、ミスマッチを解消できていません。そこで摂津市は、中間支援のスキームを構築して問題解決を目指そうとします。2023年からキャリア教育応援企業等登録制度を導入するのですが、重要なのはキャリア教育を推進する教育側と、キャリアのリアルを魅せる企業側との利害の一致です。山之内様は応援企業を確保する一方で、教育の枠組みの中でどのように各企業の実際に触れるかたちが良いのかを丹念に検討して場をつくっていきます。すでに大東市での実績も豊富な山之内様は、2023年7月から僅か2年ほどではありますが、多くの成果をつくりあげました。現在はさらに、社会課題解決プロジェクトとしてesccoのプラットフォームを立ち上げ、マッチング・プラットフォームを介して幅広くキャリア教育のミスマッチを解消して、望ましい関係を構築していこうとしています。さらに、esccoは教育関係者、子ども、社会人の三者を結びつけるプラットフォームであり、それ以外にescco+ではキャリア形成サポートあるいはビジネス・コミュニティ運営に着手しています。全国にマッチングの取り組みはありながら、積極的な運用がされておらず、行政の支援がなくなればサービス提供が終了してしまうものも少なくありません。あるいは、小学生に限定したプラットフォームだと、キャリア教育のかたちも偏ってしまいます。esccoはそうした問題を克服し得るプラットフォームを目指しており、いわば価値共創マーケティングの視点に基づく公益性の高い動きが明確なかたちになろうとしています。山之内様のご報告からは、こうした多様性を担保し得るキャリア教育の展開を可能にするスキームが生まれて機能しつつあることをご説明いただきました。
 
ディスカッション
 参加者からは、異なる目的の主体間関係を価値共創で捉えたときに、参加する企業に明確な目的の達成が意識される必要があるのではないかとの意見がありました。これは、多様な価値共創が本業において成果が発揮され、明らかに企業が提供する価値が向上している、販売が拡大しているというゴールがなければならないのではないかというものです。そう考えたとき、本業がBtoBの企業とBtoCの企業で、子どもとの接点が持つ意義に違いがある。すると、関係が長期化していったとき、成果の違いが顕在化し、撤退が増えるなどの問題が生じないのかという疑問が生まれるとの指摘がありました。
 このことについて白谷様は、企業がキャリア教育の場に参加することで、企業の従業員の意識が変わるということがあるといいます。例えば、キャリア教育に関与する父は、自分の子どもに自身の働き方の伝え方が変わっていくであろうというのです。するとそれは、働くうえでのロイヤルティが変わることを意味していますし、インナーブランディングの意義として説明できる可能性がある。こうしたことを成果として認識することが大切であり、偶有的といいながらも、こうした特徴に成果を見出すことが大切になります。ほかにも、企業の従業員にとって、さまざまなひらめき、挑戦などが含まれていくことがあります。すると、中小企業にとって積極的なチャレンジができる環境にありながら、機会がないという面があるといえ、それこそが間接支援が必要となる理由です。こう考えたとき、主体間の認識の一致がどのように図られたのかにおいて、そこに関与する主体が利他心を持つ人であることが大切となり、そのうえ自分の強みがあることが重要です。利他心があれば他者と目的を共有することができ、何らかの成果への到達のためには強みが必要です。この2つを併せ持つことで、価値共創に特徴づけられる新たな成果が見出させるのです。
 ほかにも、PDCAを前提としPの枠組みの中にしかAを見出さない考え方から脱却し、新たに生じる(顧客側の)価値をいかに共有して育むことができるかが重要で、このことを念頭に関係が機能することを前提に主体間が連携する必要があることにも議論は及びました。白谷様、山之内様はともに、そうした関係に地域差などなく、寛容で利他心のある人との出会いが極めて重要であることが強調されました。
 本日の研究会でもまた、価値共創の真骨頂を実務家の実践から学べたように思います。白谷様、山之内様がかつて本研究会でご登壇したときから、常に価値共創が念頭にあり、その思考で街づくりもできればキャリア教育もできます。さまざまな挑戦を可能にする力が価値共創にはあるといえそうですが、それは企業が経済社会の中にのみ活動の意義を見出す考え方では説明できません。むしろ、市場経済の客観的合理性の中に、人間的な合理性が入り込んでいることに注意が必要であり(黒瀬・上原, 2014)、中小企業が「市場経済を人間化」する活動によって具体的に強みを磨き、弱みを克服するためのプロセスが重要だといえます。藤岡先生のご説明によれば、価値共創こそ市場経済を人間化する活動なのかもしれず、サービスの視点で読み解くことから新たな成果が説明し得るといえそうです。今回も、学びの多い研究会になりました。
 
集合写真
 
(文責:今村 一真)

 
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