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研究報告会レポート

第3回持続的なスポーツツーリズムイベント研究報告会レポート「バリアを超えて、誰もが楽しめるスポーツイベントとは?〜マーケティングの視点から考える〜」

第3回持続的なスポーツツーリズムイベント研究報告会(オンライン)  > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:バリアを超えて、誰もが楽しめるスポーツイベントとは?〜マーケティングの視点から考える〜
報告者:野口 あゆみ 氏(伊勢志摩バリアフリーセンター 事務局長)
   「インクルーシブなランニングイベントとマーケティングー伊勢志摩バリアフリーマラソンから」
    中山 哲郎 氏(日本スポーツツーリスム推進機構(JSTA)シニアアドバイザー)
   「ポッチャのまち大館市のスポーツによるまちづくり」
 
パネルディスカッション
パネリスト:野口 あゆみ 氏、中山 哲郎 氏(同上)
湯浅 伸昭 氏、三日市 勝臣 氏(株式会社HM-A / ホノルルマラソン日本事務局)
ファシリテーター:西尾 建(山口大学 経済学部)
 
日 程:2025年8月27日(水)16:00-17:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 近年、健康志向の高まりにより、各地でマラソン大会やランニングイベントが広がっています。しかし、その多くは健常者を中心に設計されており、障がいのある方や高齢者が共に楽しめる「インクルーシブな大会」はまだ限られています。本研究会では、誰もが参加できるスポーツイベントのあり方を考え、事例を通じてその可能性を共有しました。
 
 基調講演では、伊勢志摩バリアフリーツアーセンター専務理事の野口あゆみ氏が、長年取り組んでこられた「志摩ロードパーティー バリアフリーパーティーラン」を紹介しました。この大会の特長は、障がい者専用コースを設けるのではなく、健常者と同じ景色を体験できるコースを整備している点にあります。的矢大橋を渡る2.5kmのコースでは、10kmやハーフマラソンのランナーと同じ景観を共有することができます。「同じ景色を見た」という体験が家族や友人との語り合いを生み、参加者にとって大きな喜びと自信につながっています。
 
パーソナルバリアフリー基準とは
 
 
志摩ロードパーティのこだわり 共有する気持ち
 
 野口氏はまた、「やってあげる」のではなく「一緒に楽しむ」という姿勢の重要性を強調されました。参加者は、健常者か障がい者かにかかわらず「マラソン好きの仲間」としてつながり合い、自然に協力しながら大会をつくり上げています。このような取り組みは、マーケティングの視点から見ると「価値共創」の実例であり、参加者が「自分も大会の一部だ」と感じることが継続の力になっています。
 
バリアフリーマラソンから生まれるもの
 
 続いて、日本スポーツツーリズム推進機構シニアアドバイザーの中山哲郎氏が、秋田県大館市の事例を報告しました。大館市では東京2020のホストタウン事業をきっかけに、パラリンピックで金メダルを獲得したタイのボッチャ代表チームを招き、地域住民と交流する国際大会「はちくんオープン」を開催してきました。観光資源が少ない地域であっても、「ボッチャの街」として認知を高め、国内外からの参加者を呼び込むことに成功しています。これはスポーツを核に新しい地域ブランドを形成した好例といえます。
 
 パネルディスカッションでは、ホノルルマラソン日本事務局の湯浅伸昭氏と三日市勝臣氏も加わり、日本と海外の大会の違いについて意見交換が行われました。ホノルルマラソンは創設当初から「誰でも参加できる祭典」として、障がい者と健常者を区別せずに運営されています。参加者が自然に同じ場で走り、ボランティアも共に大会を盛り上げる雰囲気が根付いています。一方で日本では、行政の縦割り構造や福祉とスポーツの分断が壁となり、インクルーシブ化が進みにくい現状も指摘されました。
 
 議論を通じて浮かび上がったのは、インクルーシブな大会は「特別に配慮する場」ではなく、「同じスポーツを楽しむ仲間が集う場」として設計することの重要性です。走ること、ボッチャで競うこと、サーフィンで波に挑むこと。その瞬間には健常者か障がい者かは関係なく、共通の体験を楽しむ仲間になります。この「体験の共有」が参加者の満足度を高め、イベントの持続性を生み出す原動力になっています。
 
 本研究会を通じて、スポーツイベントは競技を超えて「交流と共生のプラットフォーム」となり得ることが確認されました。観光や国際交流とも結びつけながら、誰もが「やってみたい」「また参加したい」と思える仕掛けをどう作るか。そこにマーケティングの知恵と実践が求められています。今後、企業や自治体、NPOが連携し、インクルーシブな大会が全国に広がっていくことが期待されます。
 
(文責:西尾 建)

 
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