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第1回世界観研究報告会レポート「ブランドとエンターテイメントにおける世界観」 |
第1回世界観研究報告会(東京) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:ブランドとエンターテイメントにおける世界観
日 程:2025年7月12日(土)15:00-18:00
場 所:法政大学 市ヶ谷キャンパス ボアソナード・タワー25階 研究所会議室5
司 会:新倉 貴士(法政大学 経営学部 教授)
報告者:都留 泰作 氏(元京都精華大学 マンガ学部 教授 / 漫画家)
深澤 幸村(法政大学大学院 博士後期課程)
津村 将章(神奈川大学 経営学部 准教授)
星野 卓也(城西国際大学 メディア学部 准教授)
【プログラム】
15:00-16:20 研究発表「ブランドと世界観」
深澤 幸村・津村 将章・星野 卓也
16:30-17:30 講演「エンターテインメントと世界観」
都留 泰作 氏
17:30-18:00 質疑応答
18:30-22:00 懇親会
【報告会レポート】
世界観研究会では、さまざまなところで語られているブランドの世界観とは何かを探究し、ブランド研究において「世界観」という新たな概念を提唱することを目的としている。
第1回目の開催となる今回は、現代エンターテイメントを通して世界観の構築とブランドの物語の形成方法を報告し理解するとともに、学術と実務を融合させた多角的な視点から議論が行われた。講演では多様な事例を通じて、ブランドにおける世界観の形成とそのマーケティング戦略への応用について深く掘り下げられた。
前半は、深澤幸村(法政大学大学院 博士後期課程)、津村将章(神奈川大学 准教授)、星野卓也(城西国際大学 准教授)による「ブランドと世界観」の研究発表が行われた。
ブランドの世界観は単なるデザインや演出にとどまらず、企業の価値観や理念、消費者に届けたい理想の体験を360度で伝えるための枠組みであることが強調された。特に、スターバックスやローラアシュレイといったブランドが、空間設計や非言語的要素を駆使して一貫した世界観を構築している例が紹介された。これにより、商品そのもの以上に、体験や物語を通じた感情的価値が消費者の購買行動に影響を与えている点が示された。
実務の観点からは、講演や商品開発、エンターテイメント業界など多様なフィールドで世界観を実装してきた具体的なエピソードが共有された。消費者行動研究の観点からは、「文脈(コンテクスト)」の重要性が指摘された。翻訳作業や広告コピーの事例を通じて、正確な文脈理解が認知や意思決定に及ぼす影響が論じられたほか、パッケージデザインに世界観を持たせることで、味覚評価や購買意欲に間接的な影響を及ぼすという実験結果も紹介された。機能的価値だけではなく、物語性や癒しといった情緒的価値が消費者に深く作用することが示された。
今後の研究の展開としては、国内における「世界観」という用語の使用実態や、海外で用いられる「ワールドビュー」および「ワールドビルディング」との比較研究の必要性も提起された。新聞記事に対する対応分析など、定量的な手法を用いた新たなアプローチも紹介され、理論と実務の橋渡しを目指す研究姿勢がうかがえた。
本研究会は、世界観という一見抽象的な概念をビジネス事例や学術研究を通じて具体化し、ブランド戦略におけるその実践的価値を検証する機会となった。企業にとっていかにして自社の世界観を可視化し、消費者の共感と没入体験を生み出すかが、今後のブランド価値向上における重要な鍵であることが改めて認識された。

後半は、漫画家であり元京都精華大学教授の都留泰作先生をお招きし、世界観エンターテイメントの概念と意義についての講演が行われた。
「世界観エンタメとブランド物語の構築」をテーマに、エンターテイメントとブランドがいかに物語性を通じて世界観を形成し、消費者の体験や認識に影響を与えるかを、自身の文化人類学的研究および漫画創作の経験をもとに、スター・ウォーズ、宮崎アニメ、ハリー・ポッター、コカ・コーラ、『ジャンプ』などの事例を通して多角的に論じられた。
近年のエンタメの潮流としては、従来の「キャラクター中心」から「世界観中心」への移行が顕著である。寅さんのように一人の人物を軸とする作品から、スター・ウォーズやマーベルなどの作品のように、特定の世界に多数の物語が共存する「ユニバース型」の構造へと進化しており、消費者がその世界に没入し、探索や参加を通じて体験を拡張するスタイルが主流となっている。宮崎アニメも、時間や空間、身体性といった感覚を緻密に描写することで幻想と現実の境界を曖昧にし、視聴者に深い没入体験を提供している。
ブランドの物語化については、ユヴァル・ノア・ハラリの言葉「ブランドとは物語である」が引用され、コカ・コーラのように製品そのものよりも、楽しさ・若さ・幸せと結び付けた物語を数十年・数百億ドルをかけて構築してきた事例が示された。消費者は実体としての製品よりも、その周囲に構築された「物語」に共感し、選択・購買するという構造が明らかにされた。
また、ファンタジーと現実の融合がブランドの世界観形成において極めて重要であるとされ、ハリー・ポッターが現実の学校や駅を物語に取り入れているように、日常に寄り添う形で物語を設計することで消費者は自らの記憶や感情を物語に投影し、没入感が高まる。宮崎アニメの『となりのトトロ』も、暗く古い田舎像を「脱臭化」し、エコロジカルかつ芸術的に再構築することで、魅力的なブランドの世界観を実現している。
講義終盤では、こうした世界観構築が技術だけでは成立しないことが強調された。高いCG技術だけでは魅力は生まれず、人間の感情や社会的現実と結びついてこそ、長期的に愛される物語やブランドが成立するという点が、スター・ウォーズとファイナルファンタジー映画の比較などを通じて示された。
最後に、世界観の構築には変更の難しさも伴うという注意点も述べられた。一度確立された世界観は、その後の変更が困難であり、構成要素の一つひとつが全体像に大きく影響を与える。講義全体を通じて、ブランドやエンタメにおける世界観とは、没入性・物語性・文化的文脈・現実との接点を織り交ぜて丁寧に構築されるべきものであるという視点が強調されていたのが印象的であった。
報告終了後の懇親会では10名以上の参加者が交流を深め、実務分野における世界観についての議論が行われた。

(文責:星野 卓也)

