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研究報告会レポート

第3回生活世界マーケティング研究報告会レポート「N1分析を組織知へ ― 顧客理解の断片化をどう乗り越えるか ―」

第3回生活世界マーケティング研究報告会(カンファレンス2025> 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:N1分析を組織知へ ― 顧客理解の断片化をどう乗り越えるか ―
報告者:生活世界マーケティング研究会 企画運営メンバー
日 程:2025年10月12日(日)9:00-10:20
場 所:法政大学 市ヶ谷キャンパス
 
【報告会レポート】
講演の様子 本セッションでは、「顧客理解をいかにして組織全体の力に変えるか」をテーマに、約40名の参加者とともに多角的な視点から議論が行われた。
 

1.サイロ化する組織、断片化する顧客理解

小菅 竜介(立命館大学)

 生活世界マーケティング研究会の問題意識と、提案するアプローチについて説明した。デジタル化の進展により顧客接点データは増加している一方で、各部門がそれぞれの指標に基づいて顧客と向き合う結果、組織内で顧客像が断片化している。個人や部門に閉じた顧客理解は組織全体の知にならず、新しい価値の創造を阻害する要因となっている。
 この課題を解決する糸口として、顧客を文脈の中で捉えること、また、そうして得られた理解を組織知へと昇華させるためのプロセスを設計する必要がある。このプロセスにおいては、質的調査法であるTEA(複線径路等至性アプローチ)が果たしうる役割に注目できる。
 
2.産学連携による実践

三好 純矢(岩手県立大学)

 続いて、「文脈のある顧客理解」の実践例として、学生が盛岡の百貨店・株式会社川徳を対象に、新しい施策の構想に取り組んだプロジェクトを紹介した。
 学生たちはチームでロイヤル顧客へのインタビューを行い、TEAを用いて分析を実施した。その結果、顧客一人ひとりが年代や時代背景に応じた固有の背景(生活世界)を持つことが明らかになり、この文脈的な顧客理解に基づいて創造的な施策のアイデアが生まれた。本実践は、質的調査を通じて断片化された顧客観を乗り越え、より深い顧客理解に到達しうる可能性を示している。
 
3.ディスカッション

モデレーター:吉澤 飛鳥(神戸学院大学)

 以上の報告を受けて、参加者とともに「個人の洞察をいかに組織全体の知へと変えていくか」という視点から議論を深めた。特に、チーム内での共有や対話のプロセスをいかに設計し、知の循環を生み出す仕組みを整えるかといった課題が改めて明らかになった。
 
4.組織知形成におけるAIの役割

中原 孝信(専修大学)、橋本 光成(富士フイルムソフトウエア株式会社)

 これまでの議論で示された組織知形成の仕組みやプロセスに関する課題を踏まえ、AIがその実現をいかに支援できるかについて報告した。
 知識創造理論におけるSECIモデルによれば、顧客理解に関する暗黙知を形式知に変換し、組織全体で共有・結合していくプロセスが重要であり、ここにAIを活用する可能性が見出される。
 開発中のAIシステムのデモンストレーションでは、TEAを用いた調査プロセスと知識創造をAIが統合的に支援する様子が紹介された。AIがデータ整理や仮説生成を担うことで、人間はチーム内での対話や文脈解釈といった本質的な活動により集中できる。こうした役割分担により、組織知形成の効率と質の双方が高まる可能性が示された。
 
まとめ
 本セッションを通じて、断片化した顧客理解を乗り越え、組織知を形成するためには、
(1)顧客の生活世界を捉える適切なアプローチ
(2)対話と共有を通じた理解の深化
(3)テクノロジーを媒介とする知識創造
の3つの要素が重要であることが確認された。
 
 本研究会は、今後も企業との協働プロジェクトや学際的な研究交流を通じて、これらの要素を統合した実践的な方法論の開発を進めていく予定である。
 
(文責:小菅 竜介)

 
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