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第22回医療マーケティング研究報告会レポート「価値共創がつなぐ医療とマーケティング:患者・家族エンゲージメントとマネジメントへの示唆」 |
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テーマ:価値共創がつなぐ医療とマーケティング:患者・家族エンゲージメントとマネジメントへの示唆
日 程:2025年12月23日(火)18:00-19:40
場 所:Zoomによるオンライン開催
共 催:日本医療・病院管理学会例会
【報告会レポート】
1. 患者・家族との価値共創:研究の俯瞰と国際動向
演者:的場 匡亮(昭和医科大学 保健医療学研究科)
患者・家族エンゲージメント(Patient and Family Engagement: PFE)の概念枠組みでは、関与が生じるレベルを「①直接的なケア」「②組織設計・ガバナンス」「③政策決定」の3層として捉え、関与の度合いが「相談」から「パートナーシップ」へと深化するプロセスが整理されている。英国の動向としては、患者参画が単なる意見聴取にとどまらず、共同設計・共同生産(co-production)へと展開しうることが示された。具体的手法の一例として、患者と職員の「語り(ナラティブ)」を起点にサービス改善を共同設計するEBCD(Experience-Based Co-Design)が紹介され、患者経験を改善設計に接続するアプローチとして注目されていることが示された。
2. 顧客経験と価値共創:マーケティング研究からみる医療への示唆
演者:川上 智子(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授)・中村 利江(エムスリーソリューションズ株式会社 代表取締役会長)
川上氏は、近年のマーケティングにおいて、イマーシブ(没入型)な顧客経験(Customer Experience: CX)の重要性が高まっている点を概観した。現代のCX管理では、デジタルとリアルの境界を越えた相互作用、多感覚性、物語性、参加、そして摩擦のない(frictionless)体験の統合が求められる。医療においても、機能的な治療提供にとどまらず、感情面や社会性を含む多次元的な価値の設計が不可欠であることが示された。加えて、2016年に提唱した「New AIDAモデル」では、オンラインとオフラインをシームレスに行き来するカスタマージャーニーを通じて、患者が「ファン」や「ブランド支持者」へと至る態度変容プロセスの重要性が強調された。

これを受け、中村氏は医療DXの実務的成功事例として、電子カルテ「デジカル」と連動したアプリ「デジスマ」による業務変革を紹介した。予約・問診から会計までを一貫してデジタル化することで、あるクリニックでは院内滞在時間の短縮が図られ、患者・スタッフ・医師の「三方良し」を実現しているという。導入時に障壁となりやすいスタッフの心理的抵抗に対しては、1か月間限定で「医療DXスペシャリスト」を派遣し、現場教育と運用支援を行う独自の戦略を採用している。この伴走支援が、導入の定着と市場浸透を後押しした点が示された。

3. 病院における価値共創の実装:AHRQガイドの活用
演者:荒神 裕之(山梨大学大学院 医療安全学講座 教授)
米国医療研究・品質庁(AHRQ)が提示する「病院における患者・家族との協働による医療の質・患者安全改善ガイド」に基づき、実装の具体策が詳説された。まず、患者・家族との協働がもたらしうる期待効果として、①医療の質と安全の向上(投薬エラー減少等)、②財務状況の改善(合併症減少に伴うコスト削減など)、③CAHPS等の患者経験指標の向上、④臨床アウトカムの改善、⑤組織の競争力・信頼の強化、⑥従業員満足度と定着率の向上、⑦第三者評価(Joint Commission等)への対応が整理された。
次に、実装に向けた5ステップが提示された。なかでも重要なのはステップ1のリエゾンスタッフの配置であり、病院リーダーと協働してインフラを整備し、医療者と患者・家族の間にある情報の非対称性やヒエラルキーを「翻訳」する調整役の重要性が強調された。続くステップでは、資料の改訂や研修講師としての参画など小さなプロジェクトから始める「機会の特定」、スタッフの「文化・認識訓練」、過去3〜5年以内に受診歴のある意欲的な「アドバイザーの採用」、そして「活動の運営と成果の周知」を通じて改善サイクル(Continuous Improvement)を回す必要性が示された。最終的に、医療者と患者・家族が対等な立場でShared Decision Making(共同意思決定)を行うパートナーシップの構築こそが、価値共創の核心であると結んだ。

4. ディスカッション
ディスカッションでは、患者が協働に参加する動機として、「自らの経験を次世代の安全に役立てたい」という利他性や正義感が大きな役割を果たす点が共有された。加えて、熱心なファンをアドバイザーとして迎え入れることで参画者が同質化し、組織の保守化や革新的変化の抑制につながりうる「ファンの罠」のリスクが論点となった。さらに、患者・家族というステークホルダーを意思決定と説明責任の仕組み(ガバナンス)にいかに組み込むべきかという実装上のジレンマについて、マーケティングと医療安全の双方の知見を踏まえ、活発な意見交換が行われた。
(文責:医療マーケティング研究プロジェクト リーダー 的場 匡亮)

