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第2回テリトーリオ研究報告会レポート「地域イノベーションによるテリトーリオの創造」 |
第2回テリトーリオ研究報告会(複都市カンファレンス:東京会場)> 研究会の詳細はこちら
テーマ:地域イノベーションによるテリトーリオの創造
報告者:前田 浩史(日本酪農乳業史研究会 常任理事)
金谷 匡高(法政大学 エコ地域デザイン研究センター 客員研究員)
鈴木 猛(生活クラブ連合会 ビジョンフード推進部 農畜産課)
モデレータ:木村 純子(法政大学 教授)
日 程:2026年2月28日(土)15:30-16:50
場 所:法政大学 市ケ谷キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
本研究会は、マーケティング学会のテリトーリオ戦略研究会の第2回開催として、「地域イノベーションによるテリトーリオの創造」をテーマに実施された。モデレーターの木村純子氏は、研究会の開会挨拶とテリトーリオの基本概念を説明した。テリトーリオとは、単なる行政区画を超えた、気候・土壌などの自然要件と歴史・伝統が織りなす代替不可能な地域環境の総体である。また、これはグローバル・サプライチェーンの波に対する一つの社会運動(レジスタンス)として位置づけられることが示された。
前田浩史氏は、演題「テリトーリオを戦略と地域農業の新たな可能性」で、テリトーリオ概念の日本的意義と地域農業の実践主体としての可能性について発表した。テリトーリオ概念は1990年代のグローバリズムの歪みに対するオルタナティブとして注目され、コロナやウクライナ戦争を経て第2ステージを迎えているとした。日本におけるテリトーリオ概念は「風土」に近く、自然条件と歴史文化が相互依存する動的プロセスとして再定義される。テリトーリオ戦略の実践には、①風土的な愛着をアイデンティティ化、②社会的意味づけとナラティブ化、③地域ブランドや景観保全などへの実装化という三段階が必要とした。乳業における100年企業の比率が全製造業の4.4%に対し20%超という事実から、地域農業が持つ生命力と地域との結びつきを分析。地域農業が風土に基づく価値連鎖のハブ機能として、テリトーリオ戦略の実践主体になりうると提案した。
金谷匡高氏は、演題「近世から近代への地域産業変遷と都市・農村関係」で、建築・都市計画の視点から、景観やコミュニティが産業構造や社会変化に応じて歴史的に形成変容してきたことを論じた。明治維新期の地租改正(明治6年)により現物納から金納へ転換し、廃藩置県(明治4年)で藩が奨励していた地場産業が衰退した一方、殖産興業で生糸・茶の栽培が全国で奨励された。東京では江戸時代の牛が農耕・運搬用だったのに対し、明治以降は武家地を中心に酪農が発展し、景観が大きく再編された。岩手畜産テリトーリオの事例では、近世から南部牛の産地として畜産技術が培われ、明治20年以降に外山牧場や小岩井農場が設立され、面的な酪農景観が形成された。白川郷の大型屋根も幕末から明治の生糸大量生産に対応して形成された景観であり、地域アイデンティティをどこに置くかは歴史研究によって紐解けると結論づけた。
鈴木健氏は、演題「都市近郊酪農の再建可能性:千葉の事例」で、生活クラブ生協の「生産する消費者運動」の原点である牛乳の取り組みを中心に発表した。1965年の共同購入開始後、1979年に消費者が酪農家とともに千葉県睦沢町に新生酪農株式会社を設立し、牛乳工場を作った。1988年には72度15秒間殺菌のパスチャライズ牛乳に全面転換し、新鮮で良質な生乳が求められるため酪農家との協力関係が強化された。2000年からは瓶容器を採用し、2006年から長生郡市の学校給食に参入。パスチャライズ牛乳は「美味しくなった」と子供たちから好評で、工場見学やミルク祭りを通じて地域との関係性が深まった。令和の酪農危機で都市近郊酪農が打撃を受ける中、千葉北部酪農組合と新生酪農クラブが合併し、地域の水田で自給飼料100%を目指す里山プロジェクトを構想。協同組合同士の連携強化により、生産者と消費者の関係を超えた「他人の親戚づきあい」のような関係作りが可能になると提案した。
質疑応答と今後の研究方向性
参加者からの質問に対する応答を通じて、テリトーリオ戦略研究の今後の方向性について意見交換が行われた。
移住者の役割(コミュニティ再生との接続)
外部経験を持ち帰るUターン等は有効事例が多いが、地域社会とのコミュニケーション不足や物語共有の欠如により個別の活動が主流化しにくい課題があるとの問いに対して、前田氏がテリトーリオ戦略の第2段階(社会的文脈付与・ナラティブ化)への参加・ネットワーク形成が鍵と回答した。
乳業の企業的立ち位置(地域ベースとビジネスモデル)
SDGs文脈でマーケット安定のために社会文脈への組み込みが不可欠との問いに対して、前田氏が従来モデルの転換と、地域イノベーション(アイデンティティ再生)と経済活動のロジカルな接続が必要で、社会運動化のみではなく、具体的なビジネス設計が求められると回答した。
(文責:木村 純子)

