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研究報告会レポート

第1回テリトーリオ研究報告会レポート「地域イノベーションとテリトーリオの再定義」

第1回テリトーリオ研究報告会(カンファレンス2025> 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:地域イノベーションとテリトーリオの再定義
報告者:木村 純子(法政大学 教授)
    高橋 浩進(岩手大学 特任教授)
    岡田 直樹(秋田県立大学 生物資源科学部 教授)
モデレータ:前田 浩史(日本酪農乳業史研究会 常任理事)
日 程:2025年10月12日(日)13:10-14:30
場 所:法政大学 市ケ谷キャンパス
 
【報告会レポート】
 2025年10月12日、地域の持続可能性をテーマとするリサプロ「テリトーリオ研究会」のキックオフセッションが開催された。本研究会では、地域史の研究を通じてローカル・イノベーションとの関係性を深めているモデレーターの前田浩史氏により、全体の目的や方向性が示された。
 前田氏らが提示した「テリトーリオ」概念は、単なる地理的な範囲を示すものではない。地理的な領域性とプロセス的な側面を併せ持ち、地域固有の社会的・文化的アイデンティティを共有する空間を指す。これは、地域の価値を再生し、持続可能な社会を構築するための重要な理論的枠組みとして注目され、EU全体では、非効率な農業であっても補助金で支援し、地域の持続可能性を維持する政策が展開されている。
 この概念を体現する先進的な事例として、木村純子氏がイタリアのテリトーリオ戦略を詳細に報告した。イタリアでは、地域のアイデンティティを守りながら、農業と観光を密接に結びつけることで地域の持続可能性を確保する取り組みが力強く進められている。具体的には、パルミジャーノ・レッジャーノチーズの生産地域がGI制度の法律によって厳格に守られている点や、季節移牧による酪農が美しい景観や貴重な観光資源として最大限に活用されている点が挙げられる。木村氏は、イタリアにおける非効率な農業がヨーロッパの補助金に支えられている事実を指摘しつつ、農業が単なる生産活動に留まらず、地域の競争力を高める重要な要素として明確に位置づけられていることを強調した。さらに、最大の成功要因として、地域住民が自分たちの町や村に対して非常に強い愛着を持ち、その独自の価値を積極的に外部へと発信する文化が深く根付いている点を挙げた。
 
講演の様子 岡田直樹氏は、オランダ・フリースランド州北部における環境協同組合NFWの事例を報告した。岡田氏はテリトーリオを、自律分散する主体が行動し、外部からのコントロールを受けずに発展する「地域性が生まれる前提の場」と説明した。海抜0メートルの過疎化が進む条件不利地域において、酪農家が関心に基づき活動するテーマ・グループや、大学と連携するフィールド・ラボを展開している。この結果、新たな社会的プロダクトが創出されて地域の自然・社会資本が厚みを増し、離農の減少や移住者の増加といった持続性の向上が見られた。
 髙橋浩進氏は、日本の事例として、岩手県北部地域におけるいわて畜産テリトーリオプロジェクトを報告した。同地域は2050年に総人口が半減すると予測される課題を抱える一方、南部牛や日本短角種など、家畜とともに歩んできた独自の歴史を持つ。人と家畜が同居した南部曲り家などの資源を活かし、「農村のなりわいを守り、豊かな結びつきを育む」というビジョンが掲げられている。これまで生産性を重視する行政の縦割り政策が地域振興を阻害してきたが、現在は資源循環型の仕組みやスマートDXの活用を通じ、畜産を軸とした持続可能な地域再生が目指されている。
 
 3名の報告を受け、前田氏が講演後の全体議論をまとめ、今後の地域再生に向けたポイントを以下の4点に総括した。

  1. アイデンティティの再生産
    地域の豊かさや愛着を住民自身が実感できる仕組みを構築する必要がある。イタリアのように地域への愛着が強く、自分たちの町や村の価値を積極的に発信する文化が根づいているのに対し、日本ではその意識が弱い点が課題である。
  2. 教育の重要性
    地域の価値を住民が認識し、共有するための教育が必要である。特に若者が地域に留まるための仕組み作りが重要であり、地域の歴史や文化を学び、愛着を育むような教育が地域の持続可能性に寄与する。
  3. 地域の多様性
    地域の地理的・文化的な多様性と、住民の個々の行動による多様性を包括的に捉える必要がある。地域の多様性を尊重しながら、内発的発展を促進するための政策や取り組みが求められる。
  4. 外部への発信力の強化
    前田氏のまとめによれば、イタリアの成功要因のひとつに、地域の物語を外部に伝える力がある。地域住民が自分たちの町や村に対する強い愛着を持ち、その価値を積極的に外部に発信する文化が根付いている一方で、日本では地域の魅力を外部に伝える取り組みが十分に行われていない。これを強化するためには、住民が自分たちの地域の価値を再認識し、それを誇りとして語ることができるような教育や仕組みが必要であり、メディア戦略や観光資源の活用も重要である。

(文責:木村 純子)

 
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