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第4回生活世界マーケティング研究報告会レポート「企業の世界と生活者の世界をどうつなぐか ―ヒット商品を支えた価値創造プロセス― 」 |
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テーマ:企業の世界と生活者の世界をどうつなぐか ―ヒット商品を支えた価値創造プロセス―
報告者:守屋 祐亮 氏(株式会社MOMAC / 生活世界マーケティング研究会 企画運営メンバー)
日 程:2026年3月25日(水)18:30-21:00
場 所:アットビジネスセンターサテライト品川・五反田
【報告会レポート】
消費者のインサイトを掘り下げることはマーケティングの定石ですが、それだけでは、どの企業も似たような価値提案に行き着いてしまいます。第4回生活世界マーケティング研究報告会は、この実務的な課題を議論する場となりました。
2つの世界の接続
三好 純矢(企画運営メンバー / 岩手県立大学)
冒頭の解題では、本セッションの問題意識が整理されました。生活者は日々さまざまな課題を抱え、それを自分自身で、あるいは家族・友人・企業など多様な手段を通じて解決している。市場とはそうした解決手段のひとつに過ぎません。マーケティングはこの消費者の世界に注目しますが、インサイトに迎合するだけでは差別化は難しく、持続的なヒットにもつながりにくいものです。その背景には、企業が自社の足元を十分に捉えられていないことがあるのではないでしょうか。消費者の生活世界を理解することは前提として、そこに企業側の世界をいかにつなぐか。それが本セッションを貫く問いとして設定されました。
ヒット商品の開発プロセスと企業の文脈
守屋 祐亮 氏(株式会社MOMAC)
「氷結」、「伊右衛門」、「野菜一日これ一本」など、市場に定着したブランドの開発に携わってきた守屋氏からは、複数の事例を通じた実践の論理が語られました。具体的な舞台裏は参加者限定の内容となりますが、事例を貫いていたのはひとつの明確な方法論です。
まず提起されたのは、原価値という考え方です。差別化や付加価値が叫ばれるなかで、その商品が本来求められている根本的な価値、すなわち原価値がなければ、どれだけ付加価値を重ねても残っていかない。ロングライフのブランドには必ずこの芯があります。
ブランドについても独自の視点が示されました。人がある商品を選ぶとき、そこには必ずその商品を通じた自己投影がある。その商品を持っている自分が好き、選んだ自分がセンスいいと感じる。守屋氏はそこにブランドの本質を見ます。こうしたブランドの力は時代の気分と無関係には成立しません。ビールの歴史を例に、ヒット商品が常に時代の空気を背負っていることが示されました。
ただし、その実践は消費者の気分を読むことから始まるのではありません。守屋氏が企業に最初に問うのは「今回の武器は何ですか」という一言です。企業が持つ固有の資産を出発点に、時代の空気との接点を見極めてコンセプトを立て、ネーミングとパッケージに落とし込む。この三つが一体になって初めて商品が生まれる、というのが一貫した立場です。そのアプローチには2つの型があり、製法や技術といった強みがあれば価値の文脈ごと変えられます。それがない場合でも、消費者への語りかけ方次第で差をつける余地があります。
企業と生活者をつなぐ価値循環の仕組み
杉浦 愛(企画運営メンバー / 大日本印刷株式会社)
守屋氏の講演をもとに、カゴメの商品開発・通販事業の変遷が紐解かれました。注目されたのは、創業以来続く農家との契約栽培、自社による品種改良、野菜飲料の民主化といった、時間をかけて蓄積されてきた営みが、商品開発から通販事業の発展に至るまで一貫して価値提案の起点に置かれてきたという事実です。そうした企業の営みを、いかにして生活者が実感できる価値へと翻訳するか。その循環の仕組みが、カゴメの事例を通じて具体的に示されました。
加えて、「なぜ今の企業にはこれができないのか」という問いも提起されました。企業哲学と数値目標の乖離、データドリブンによる自己喪失、四半期KPIが長期的な価値創造を阻む構造。これらは今後の重要な検討課題となりそうです。
ディスカッション:企業の生活世界とは何か
全体ディスカッションでは、企業の経営資源を論じる際に、「強み」や「アセット」ではなく、あえて「企業の生活世界」という概念を用いるのはなぜか、という問いが投げかけられました。現場の暗黙知、取引先と時間をかけて築いた関係性、企業が積み重ねてきた歴史的・文化的な厚み。アセットという言葉で括るとこぼれ落ちてしまうそうした蓄積の総体を捉えるためにこそ、この概念が必要になる。この問いと応答が、本セッションの議論を締めくくりました。
まとめ
企業の固有の文脈を深く理解し、生活者の日常へと接続していくこと。それが生活世界マーケティングの骨格であるという理解が、本セッションを通じて浮かび上がりました。消費者を見ることはマーケティングの前提です。しかし、企業が何者であるかを問い続けることなしに、持続するブランドは生まれません。この緊張関係の中にこそ、独自の価値を創造する芽があるのではないでしょうか。今後の研究会でも、この視座をさらに深めていく予定です。
(文責:小菅 竜介)

