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研究報告会レポート

第9回健康アセット・マーケティング研究報告会レポート「健康系データサイエンスとウェルビング駆動型経営の可能性」

第9回健康アセット・マーケティング研究報告会(複都市カンファレンス:東京会場)> 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:健康系データサイエンスとウェルビング駆動型経営の可能性
報告者:西根 英一(株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ 代表取締役社長 / 千葉商科大学 サービス創造学部 特命教授)
パネルディスカッション:
中見 真也(神奈川大学 経営学部 准教授)
西根 英一(同上)
浅野 健一郎(一般社団法人社会的健康戦略研究所 代表理事)
植田 順(一般社団法人社会的健康戦略研究所 理事)
渡辺 武友(一般社団法人社会的健康戦略研究所 理事)
日 程:2026年2月28日(土)17:00-18:10
場 所:法政大学 市ケ谷キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 本報告は、第9回健康アセット・マーケティング研究報告会において実施された講演およびパネルディスカッションの内容を整理し、健康経営およびISO Well-beingを踏まえた日本のヘルスケア産業の現状と課題、さらに今後の展望について考察するものである。本研究会では、株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ代表取締役社長であり千葉商科大学サービス創造学部特命教授である西根英一氏をゲストスピーカーとして迎え、ヘルスケア事業化に必要な「基盤化」「実用化」「社会実装」の三要件を、プロジェクトマーケティングの観点から論じた。具体的には、Target Impact、Business Impact、Social Impactという三つの視点を通じて、ヘルスケア産業が企業・地域・社会に与える影響と、その事業的可能性について多面的な議論が展開された。
 
 近年、人的資本の情報開示や生産性と従業員幸福の両立が企業経営における重要課題として位置付けられる中、従来型の健康経営には、経営戦略との連動不足、データ活用の未成熟、理論的裏付けの欠如といった課題が存在している。本講演では、これらの課題に対応する概念として「健康系データサイエンス」が提示された。健康系データサイエンスとは、従業員の健康と企業業績との関係をデータにより実証し、経営へ統合的に活用するアプローチであり、医学、経営学、データサイエンスを融合した新たな経営モデルとして位置付けられる。その目的は、単なる健康増進ではなく、企業の長期的成長と競争力向上にある。
 
 本講演において特に重要視されたのは、健康を身体的健康、精神的健康、社会的健康の三次元で捉える理論フレームである。なかでも「ポジティブ精神面としてのウェルビング」と「組織要因」の相互作用が中核概念として位置付けられ、ウェルビングを経営成果へと接続する媒介変数として理解する必要性が示された。この視点を検証するため、小売業、とりわけスーパーマーケット企業を対象とした3年間の縦断データ分析(SEM分析)が紹介され、組織施策がウェルビングを介して組織成果へ影響を及ぼす構造が実証的に示された。
 
 分析結果によれば、公正な人事評価、変革型リーダーシップ、権限委譲といった組織施策は、従業員のエンゲージメントや帰属意識を向上させ、ウェルビング形成に寄与することが確認された。また、ウェルビングの向上は、心理的安全性の醸成、情報共有の活性化、フォロワーシップ強化を通じて店舗運営力を高めることが明らかとなった。さらに、離職要因としては低エンゲージメントや組織変革への否定的態度、上司への不信感などが挙げられ、とりわけ心理的安全性が重要な鍵となることが指摘された。一方、離職率の低い店舗では、モラールや帰属意識が高く、管理スキルにも優れ、接客・品質・清潔性といった店舗運営水準が総じて高いことが確認された。
 
 本講演の核心として提示されたのが、「経営施策→ウェルビング→業務成果→業績→企業価値」というスパイラルモデルである。このモデルでは、ウェルビングが経営施策と企業価値を媒介する中心的役割を担っており、成果発現には3〜5年程度の時間的遅延が存在することが示された。また、継続的なデータ収集と分析を通じた改善サイクルの重要性も強調された。すなわち、健康経営は短期的な福利厚生施策ではなく、中長期的視点で企業価値創造を実現する戦略投資として理解されるべきである。
 
 さらに実務的インプリケーションとして、ウェルビングが競争力の源泉となること、特にミドルマネジメント層、なかでも店長が組織文化形成と従業員体験向上の中核を担うことが示された。また、顧客体験(CX)は従業員体験(EX)から生まれるという視点から、健康経営とサービス品質向上の連動可能性も指摘された。総じて、本研究会で提示された健康系データサイエンスは、人的資本経営を実装するための実証的経営モデルであり、ウェルビングを起点とした持続的成長モデルとして、今後のヘルスケア産業および流通・サービス産業における重要な経営基盤となる可能性を有している。
 
(文責:中見 真也)

 
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