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第5回学びとマーケティング研究報告会レポート「崩れる『学び』の安全保障 ― 現代大学生を囲む経済的リスクとセキュアな教育環境の再構築」 |
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テーマ:崩れる『学び』の安全保障 ― 現代大学生を囲む経済的リスクとセキュアな教育環境の再構築
日 程:2026年6月29日(月)15:00-16:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
1. 開催概要と目的
現代の大学生を取り巻く環境は、かつての「モラトリアム」から、卒業後の債務(奨学金)や非正規雇用の影がちらつく「生存競争」の場へと変容している。
本研究報告会では、貧困や格差の現場を長年取材してきたノンフィクションライターの中村淳彦氏を招き、統計データには表れにくい「見えない貧困」の実態を浮き彫りにする。学生を単なる「消費者」としてではなく、社会的なリスクにさらされた「主体」として捉え直し、大学がいかにして彼らの「セキュア(安全・安心)な学び」を担保できるのか、その構造と対策を検討する。
2. 基調講演:一般大学生が直面する『見えない貧困』 ― 奨学金返済と非正規雇用の実態から
中村 淳彦 氏(ノンフィクションライター)
可視化されにくい女子大生の風俗産業流入や、奨学金という名の借金がキャリア選択に与える歪みについて、報告があった。大学生の貧困が長きに渡って改善されていないことを指摘し、特に女子学生が水商売や風俗業に従事することが一般化していることを報告した。中村氏自身の感覚では女子学生の約1割から2割がこの状況にあると推定する。
この問題は2000年代半ばから始まり、経済状況が悪化することでこの問題が拡大していることを説明した。大学側の要因としては、学費高騰、出席厳格化、学生側の要因としては親の世帯収入低下により真面目な学生が経済的に追い込まれていることを説明した。一方、社会変化・政策転換もこの問題に関係しており、2004年の雇用非正規化推進、学生支援機構の改正等といったことが、学生の貧困を加速化させている原因の1つであると指摘した。
3. 事例報告:セキュアな学びを侵食するリスクとその構造
報告者:春木 良且 氏(昭和女子大学 現代ビジネス研究所)
中村氏の報告を受け、研究会メンバーの春木氏が、大学生が直面する社会・経済に関わるリスクに関して、リスクが学習意欲に与える負の影響について報告した。冒頭に、多くの大学教員は学生の生活実態を十分に理解しておらず、認識も低いと問題提起した。背景には、教員の研究活動優先や、授業以外の多様な業務の膨大化といった要因が考えられる。教員と学生の関係性の変化もあり、講義の大衆化・システム化により、師弟関係からサービス提供者と消費者の関係へ移行、LMSの普及で授業運営のデジタル化が進むことで、心理的距離が広がっていることを指摘した。
生活収支の面から見ると、大学生の収入は増加傾向だが、それを上回る支出増のため、収支バランスが崩れ、特に一人暮らしの学生において、生活費の高騰が深刻である事実を浮き彫りにした。このように生活が苦しい中、精神・社会関係の複合的リスクが若者の未来を脅かしている。心理的リスク(就活うつ、将来不安)、キャリアリスク(非正規雇用、内定先とのミスマッチ)、人間関係リスク(友人・コミュニティの希薄化)等である。そして、何よりも、生活に追われることが学業への意欲減退につながることを危惧する。
4. パネルディスカッション
登壇者と本研究会メンバーにより行った議論にて出た内容3点を、以下にサマリーする。
- 「見かけの収入増」の罠
学生の収入総額は増えているが、それ以上に支出が増えている。より収入を増やすために今以上にアルバイトを行うことになる。決して豊かになったわけではない。 - 学びの時間を切り売る構造
「アルバイト収入の急増」は、「学びの時間やキャンパスライフの時間を労働に代替している」ことの裏返しである。 - 大学が向き合うべき「顧客のリアル」
大学が魅力的なカリキュラムや教育環境を用意しても、学生はそれを享受する時間・精神的ゆとりがなくなりつつある。
5. 総括
国や大学の支援制度は一定の成果を上げている。経済除籍をやむを得ない最終手段として、そこに至るまでの対策として、「学費納入延長や分納、奨学金制度拡充、授業料減免制度強化」等、大学側が自助努力を行っていることも承知している。また、「困った学生が相談に来たら対応する」から「大学から困った学生を見つけにいく」との姿勢の変化も各大学が行っている有効な対策である。しかし、それらを超える経済面を中心としたリスク増加が学生の学びに悪影響を与えていることを、本研究会の問題提起としたい。
(文責:松尾 尚)

