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研究報告会レポート

第14回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「ハーレーダビッドソンにおける価値共創」

第14回 価値共創型マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「ハーレーダビッドソンにおける価値共創」
日 程:2016年 9月11日(日)13:00-16:30
場 所:広島大学東京オフィス

 

【報告会レポート】
 第14回研究会は『ケースブック 価値共創とマーケティング論』(村松潤一編著,同文舘出版より本年3月出版)でとりあげたハーレーダビッドソンに注目します。執筆者の研究報告に加え、ハーレーダビッドソンジャパンの元社長奥井氏にお越しいただき、理論と実践の融合について議論を深めました。
 
報告者と内容は以下の通りです。
 
「ハーレーダビッドソンにおける価値共創 -ユーザーと他の主体間関係から-」

横田 伊佐男 氏(CRMダイレクト(株)代表取締役, 横浜国立大学成長戦略研究センター 研究員)

 横田氏は、交換(取引)後の価値共創を舞台としたプロセスとしてのマーケティング理論と手法を検討すべく、ハーレーダビッドソンに注目した研究を展開されました。一般に、メーカー(本研究ではハーレーダビッドソンジャパン(HDJ))は顧客と直接関係がありません。顧客とはディーラーが接点を持つのであり、4Cアプローチ(Contact, Communication, Co-Creation, value in Context)でいうContactを形成する上で不利な立場とも考えられます。しかし、HDJは顧客への価値基準が明文化されています(「知る」楽しみ、「乗る」楽しみ、「創る」楽しみ、「選ぶ」楽しみ、「競う」楽しみ、「出会う」楽しみ、「装う」楽しみ、「愛でる」楽しみ、「海外交流」の楽しみ、「満足」)。こうした取り組みがどのように推進されているのかについて、①メーカーとユーザー、②ディーラーとユーザー、③ユーザーとユーザー、④カスタムショップとユーザーといった視点で主体間の関係を整理されました。すると、いずれの活動においても、4Cアプローチを推進する取り組みが発見できます。これが、顧客が自発的に価値創造できる「場」として機能しており、企業は顧客の支援者としてこの「場」の創出が強く意識されていることが浮かび上がります。こうした捉え方で企業活動の意義を検討することが重要だということが、横田氏の報告によって示されました。
 

「経営視点から見たハーレーダビッドソンの価値共創 -映像とグラフで語る『顧客価値共創の実際』-」

奥井 俊史 氏(アンクル・アウル コンサルティング代表, 元ハーレーダビッドソンジャパン 社長)

 奥井氏は、社長在任中のご経験に基づきお話を展開されました。85分に及ぶ講演時間が短く感じるほど、マネジメントの実際を幅広く、そして詳細にお話しされました。ここではその一部を披露いたします。

《ブランドの価値》
 ブランドの価値はメーカーだけでは作れません。ユーザーだけでも作れません。資産としても評価できるような価値は、共創抜きに実現しません。このことを意識する必要があります。このことは、マネジメントが意識して行動しないと機能しません。
 これは、中古車の販売価格を使って説明することができます。ハーレーは中古車で売買される価格がほかの二輪車と全然違います。新車より中古車の方が価格が高いのです。耐久年数の長いハーレー製品は、50年前のものが新車販売時より高い価格で取引されます。こうした現象から明らかなのは、商品そのものの価値は共創され価格に反映されているといえます。

《「見える価値共創」にするための工夫》
 1990年代の日本におけるハーレーの評価は、好評だと「当たり前だよ。アメリカのハーレーだもの」といい、トラブルがあると「アメリカ製品だから」という風潮がありました。良くも悪くも「ハーレーだから」といって、筋違いのブランド依存が、販売店には横行していたといえます。当時はメーカーも販売店も顧客の動向を把握するデータの活用も見られなかったほか、商標の登録においても対応が遅れていました。奥井氏は、斜陽化する二輪車市場において、魅力の提案をどのように推進することができるのかを考えるうえで、顧客との価値共創は必須であると考え、企業活動の目的とそのためのパートナーとの関係を整理してマネジメントを遂行していくことになります。ここで奥井氏が重視したのは、製品の価値は製品の中にあるのではなく、製品を使う人間の頭の中、心の中にあるということです。「もの」から脱却しないと顧客に向けた価値の追及は不可能だと考えたのです。企業は顧客の心の満足を追及するために、どのような「こと」に注目したらよいのかを考え始めたのです。これが、価値共創を「見える」ようにする努力であり、それは具体的な成果に結びついていきます。

《マーケティングにとって大切な「絆」》
 ユーザー、販売店、メーカーの間は、商品を媒介として絆が生まれなければなりません。これがマーケティングにとって、もっとも大切なことといえます。この絆を構築するのがHDJのやり方です。HDJは顧客との価値共創、具体的には「楽しみ」の共創を推進しました。ユーザーの家族(女性や子どもなど)へも「楽しみ」が享受されるイベントの開催や、安心、安全なハーレーの使用にも活動は及びます。この活動の誘いについて、メーカーがダイレクト・メールを準備し、販売代理店を巻き込んで顧客との関係を重視するといったきめ細かな取り組みによって、顧客の日常に企業活動が溶け込むことができます。イベントは幅広い顧客の参加と奇抜な挑戦を繰り広げる一方で、ダイレクト・メールなどは顧客のメンタリティを重視する。こうした連綿とした努力の蓄積と多面的なアプローチが、絆を構築する重要な取り組みだといえます。

《新規顧客獲得にも強み》
 一般に、顧客価値の重視によって顧客満足を追究することの意義は、継続顧客への戦略ばかりが指摘されます。HDJがこのことばかりを意識しているかといえば、実はそうではありません。奥井社長在任中、HDJは実に新規顧客の比率が80%前後で推移していたのです。その結果、ユーザーの実数で言えば約4倍に増加したほか、顧客の高齢化を食い止めることも可能になったのです。この実績を説明するうえでも、価値の共創という視点は大切です。ここでいう共創の対象は製品の直接のユーザーに留まらないのです。
 

ディスカッション

パネラー
 横田 伊佐男 氏(CRM ダイレクト(株)代表取締役, 横浜国立大学成長戦略研究センター 研究員)
 奥井 俊史 氏(アンクル・アウル コンサルティング代表, 元ハーレーダビッドソンジャパン 社長)
 村松 潤一 氏(広島大学大学院社会科学研究科 教授)

 ディスカッションは、フロアの方からの質問を幅広く対応するかたちで進みました。ここでも議論が幅広く展開されました。興味深かったのは、日本の市場に応じたブランド戦略の実行といった奥井氏の説明には、絶えず顧客の日常が意識されていたことです。これは、既存のユーザーが目的に価値を見いだしていることを考えれば、人々の日常を豊かにするマーケティングへの転換が必要だからです。米国で策定されたブランド戦略の中には抽象的な表現で実行段階での取り組みが明確にならないものもあったそうです。そうかと思えば反対に、什器の企画までが示されているようなものは、日本に適合しません。そこで、HDJが独自に価値基準を明文化するなどし、米国に逆提案して確認するといった作業を何度も行ったそうです。
 このほか、人々の日常を豊かにするためには、販売店の意識改革も大切です。ユーザーの家族まで参加を促すイベントには、安全の重視や文化の尊重といった態度で挑むものもたくさんあるようです。顧客に向けた幅広い話題提供にも資することになり、意識改革との有機的な結びつきが形成できます。販売店との会議を重視し、頻度を増やすことで販売店の魅力の創出も考えていったということです。
 

横田氏
横田氏

奥井氏
奥井氏

動画も交えた研究報告
動画も交えた研究報告

ディスカッションの様子
ディスカッションの様子

 
 今回の東京会場は、長時間に及ぶ研究会にも関わらず、参加者の関心が絶えることはありませんでした。次回は10月16日(日)早稲田大学で実施のカンファレンスにも参加するほか、研究会は11月13日(日)(於広島大学東京オフィス、時間は未定)にて開催予定です。会員の皆様のご参加をお待ちしております。

 
文責:今村 一真(茨城大学)

 
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