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研究報告会レポート

第27回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「価値共創研究の探究」

第27回 価値共創型マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「価値共創研究の探究」
日 程:2018年9月17日(月)
場 所:広島大学東京オフィス(東京工業大学 CIC東京)

 

【報告会レポート】
報告「現在の戦略論における価値共創の役割」

森 哲男 氏(首都大学東京 経済経営学部 非常勤講師)

 森先生は、経営戦略論の変遷からプラットフォーム研究の原点に注目します。2000 年代に入り、個別企業の競争によって業績が決まる時代は終わり、ビジネス・エコシステム間の競争の重要性が高まります。例えば、Apple 社は iPhone を提供しながら、iTune Store や AppStoreを運営し、コンテンツ企業やアプリケーション企業とユーザーを結びつけるインフラとルールを提供するプラットフォーム企業だといえます。このとき、プラットフォーム企業の本質は、補完的要素も含めて産業全体の成長を促進することにあるといえそうです。ITの普及とともに、プラットフォームはそこに参入するプレーヤーを獲得しながら、社会になくてはならない存在になります。こうして形成されるのが、ビジネス・エコシステムだといえます。ただし、プラットフォームおよびビジネス・エコシステム研究における顧客概念は希薄であり、顧客とどのような関係性を構築することで顧客ニーズを満足させ、新しい価値やイノベーションを生み出すかについて、明確でありません。ここに、見落とされてきたサービスの役割に光を当て、そのプロセスやメカニズムについての考察が求められるといえそうです。
 こうして森先生は、企業と顧客との関係やそこに生じるプロセスの重要性を指摘していきます。ベタープレイス社のビジネスモデルを事例として、BtoB の関係において価値提案に成功してもなお、BtoCでの価値提案や誘引の失敗をみれば、顧客視点から価値を考えることが、いかに大切かがわかります。顧客とともに価値を創造するような場の設定もなかったという批判も可能です。信頼性構築に向けたプロセスを考えなければ、プラットフォームもビジネス・エコシステムもないのです。また、未知のサービスが導入される場合には、その価値を相互に認識しあうプロセスも大切です。こうした段階を経て、ビジネス・エコシステムが新しい価値を捉えるのであり、新市場のカテゴリーが安定するといえそうです。また、持続的にプロセスが機能するか否かが、サービス産業におけるビジネス・エコシステムの生成・成長を左右すると考えられます。
 本日の森先生のご報告は、膨大な先行研究のレビューと事例によって、戦略論が見落としがちな顧客問題を鮮やかに指摘し、そこに価値共創の重要性を示しながら、マネジメントへの示唆を与えていただきました。
 

講演「商人たちの生活世界をいかに記述するか -老舗の民俗学的研究について-」

塚原 伸治 氏(茨城大学 人文社会科学部 准教授)

 塚原先生は、老舗研究で有名な民俗学者です。ローカルで伝統的な生活について扱う民俗学において、老舗に着目することで、伝統を継承することや、伝統が維持される秘訣を探ろうと、千葉県香取市佐原、滋賀県近江八幡市、福岡県柳川市の3つをフィールドとして調査研究を進めていらっしゃいます。本日はこのうち、福岡県柳川市の事例を中心にフィールドワークの成果をご披露いただきました。2006年から始めたフィールドワークは今年も続いており、今後も断続的に調査が継続するそうです。
 ところで、民俗学研究は、長期に渡るフィールドワークによって人々の生き方を描くのですが、それは、決して鳥瞰的に捉えるものでもなければ、透明人間になって、人々の世界を見るものでもありません。現象学的な言葉遣いでいえば、超越論的だといえます。前川啓治氏の言葉を借りれば、対象とする社会に受け容れられるプロセスにおいて、内在的な視点から対象社会を見ながら、それで終わるのではなく、再帰的に差異を確認する視点の移動の反復を経て、対象となる世界を捉えることから可能になるといえそうです。ここでいう超越論的は超越的と異なります。前者は内在的視点を起点として他者を客体化しながら、再帰的にその行為と結果自体を対象化していくことをいい、後者は外在的、鳥瞰的視点で論じることをいいます。ここに、超越論的な捉え方が、主観あるいは客観という二分法で説明できないものであることが説明できます。
 マーケティングは研究も実務も双方にとって、現実社会をどのように捉え解釈するかが問われるのですが、近年注目されている民俗学的視点とはどのようなものであるか、塚原先生の研究成果の報告を交えた説明のおかげで、随分わかりやすくなりました。
 

ディスカッション
 今回の研究会も、ディスカッションは大いに盛り上がりました。森先生のご研究に対しては、キーストーン企業間の競争は、価値共創という考えに負の影響を与えるのではないかというご指摘がありました。これに対し森先生は、スマートフォンの事例でご説明になりました。スマートフォンはかつてさまざまなOSが存在したが、今日ではiOSとAndroidに収斂されています。このことは、ビジネス・エコシステム間の競争の結果であり、この競争を無視できない現実があるといえます。一方で、これらがなぜ生き残ったのかといえば、顧客との関係性構築に成功する要因があったからであり、ここに勝機があったといえそうです。一見、戦略論と価値共創の議論は水と油のように思われがちですが、企業活動の含意の中に価値共創の視点が必要だというのが、森先生のお考えであり、こうした説明で参加者にわかりやすく考えが浸透していきました。
 塚原先生に対しては、実に様々な意見が示されました。中でも印象的だったのは、人類学や民俗学が人間を描くゆえに、戦時中に相手国理解を目的として、ステレオタイプをつくるために用いられてしまったということです。それは、ルース・ベネディクトの著書『菊と刀』に象徴されます。現在の研究にはその反省が含まれており、だからこそ、演繹でも帰納でもない、アブダクション(Abduction)によって、科学的発見の追究に力点が置かれているといえます。丹念なフィールドワークには、そうした力があるといえ、安易にあらゆる領域で適応できる一般理論(=グランド・セオリー)を言い当てようとするのではなく、個別の現象を丹念に捉えていく作業の意味を、塚原先生から多く学ぶことができたように感じます。
 今回の研究会も、ディスカッションは大いに盛り上がりました。お二人がお示しになった内容は随分趣向が異なりますが、企業が、老舗が追究しようとする正統性(Legitimacy)を探るかのような研究だったかもしれません。参加者がこうしたテーマを指摘するくらい、お二人の研究成果から多くの知的興奮が得られたように感じます。
 

 
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