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研究報告会レポート

第33回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「オンラインにおけるインタラクションと価値共創」

第33回 価値共創型マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「オンラインにおけるインタラクションと価値共創」
日 程:2019年12月1日(日)13:00-16:30
場 所:大阪産業大学梅田サテライトオフィス(大阪駅前第3ビル)
 

【報告会レポート】
報告「SNSによる場の生成と価値共創 -4Cアプローチから-」

藤岡 芳郎 氏(大阪産業大学 経営学部 教授)

 藤岡先生は、本研究会で中心となる研究の視点を示したうえで、企業と顧客との共創の領域の拡張を志向するための分析視角をお示しになりました。ここでは、取引の場から生活の場へと注目するフィールドの転換が大切になります。人々(生活者)は企業活動を必ずしも必要としている訳ではありません。日常的に生活者同士でつながり、価値は共創されているといえます。生活者は状況に応じて市場取引を活用して暮らしているといえます。こうした状況においては、企業やマーケティングの立場は、顧客が生活世界で企業のオファリングの利用を通して新たな価値を創造していることを前提とした検討が求められます。企業は生活者への入り込みを考えなければならないといえます。すなわちマーケティングは、生活世界での価値創造に関与するものであり、生活世界の中に共創領域を発見し、拡大していく必要があるのです。藤岡先生は、近年のヒット商品から紐解きながら、企業と顧客とのミクロな視点をいかに一般化して検討することができるかが争点であることをお話しになり、事例研究の重要性をご指摘になりました。
 
講演1「インスタグラムを活用した情報発信と相互作用から生まれる価値」

折田 楓 氏(株式会社merchu 代表取締役)

 折田氏は株式会社merchuの代表取締役であり、Instagramのプロデューサーでもいらっしゃいます。多くの取引先があり、業種もさまざまです。サービスの様子を可視化できInstagramの利用が効果的なクライアント企業もあれば、女性が興味を持つ商材を扱う企業もあります。人々がスマホを見る時間が長くなるにつれ、企業はSNSの活用を無視できない時代を迎えており、同社は成長性の高い市場をフィールドにしているといえます。
 現代の社会において、4大SNS(LINE, facebook, Twitter, Instagram)の利用が一般的ですが、活用は様々です。中でも、国内アクティブユーザーが3.300万人を超え(2019年6月)、全世界で10億人を超えるユーザーを獲得したInstagramが、今最も勢いのあるアプリケーションだそうです。女性の活用が多く、見た目で訴求する傾向が強いです。また、検索機能を持っている点に特徴があります。飲食店利用などのケースでは、「インスタ映え」する写真が掲載されている店舗に足を運ぶというような活用が可能です。写真の撮り方が大切で、画像の質が問われます。近年は30~40歳代の利用が増えており、幅広い世代から支持される傾向にあります。興味深いのは、利用者の80%が手に入れたい商品やサービスの利用を目的としていることです。こうした傾向を後押しするように、2018年6月からInstagramはショッピング機能が追加されました。画像中の商品をタップすると商品や金額が示され、再度タップすると購入サイトに接続されます。レストランやホテルの予約もできるようになる可能性があり、いよいよSNSの存在を企業は無視できない時代を迎えています。
 企業にとってSNSの活用は、認知度向上にとって重要です。同時にブランド・イメージの定着が図られ、ECサイトへの誘導も容易です。これらがスムーズに機能すれば収益の増加が図られるといえます。近年の企業の積極的な活用としてストーリーズを活用した「リアルタイム配信」があります。例えば、雨が降ってきたタイミングで「いま来店した方はビール無料!」とアピールでき、現実と仮想空間のシームレスな接続によって、オンラインからオフラインへの送客も可能です。
 ところで、オフラインを本業とする(クライアント)企業にとって、オンラインをどのように活用することが望ましいのでしょうか。折田氏はオンラインの活用に留まらず、オフラインのイベントとの連動やクライアント企業からの要望を積極的に聞き、事業を一緒に企画しています。SNSに投稿する写真が顧客である場合が少なくないため、同社の取り組みは顧客の感じたリアルを裏切らないSNS活用である必要があります。結果としてクライアント企業と顧客とを結びつける役割を担うことが少なくないほか、SNS活用を前提としたイベント企画の立案も可能になります。このことは、企業に留まらず地方自治体にも及びます。市民参加のイベントが成功したり、インバウンドへの寄与も考えられます。こうした成果から、現在同社には、イベント企画の依頼があります。SNSの活用を前提としたイベントやキャンペーンをどのように推進すればよいのか、相談の数が増えているといいます。カギとなるのは「何を伝えたいのか?」であり、そこには共感を核とした視点が欠かせません。SNSからファンが生まれ、ファンが企画に参加し、それが次第に賑わいや感動を生むネットワークを捉えることができるといえそうです。一連のお話しを通じて、折田氏はさまざまなSNS活用の可能性をお示しになりました。
 

講演2「共創プラットフォームによる国境なきITビジネス」

表 泰之 氏(株式会社ボーダレス 代表取締役)

 表氏は、越境ECを事業とする企業の代表取締役でいらっしゃいます。SNSを活用したECを展開しているのですが、世界各国に商品を売ることは、そう簡単ではありません。これは、国によって利用されるSNSの傾向が異なるほか、使われる言語も異なり感じ方が違うからです。つまり、SNSによる情報発信を本部で一元的に管理しようとしても、SNS利用の実態が異なり、使用する言語が異なるため、誰に伝わる情報なのかが不明になりやすいといえます。世界的な企業でも、撤退しているケースが少なくありません。
 こうした現状に対し、同社は世界各国に拠点を配置し、現地ごとにSNSを活用して越境ECのビジネス網を構築しています。GAFAなどのデータを確認し、顧客特性を捉えながら、地域に応じた事業展開しています。興味深いのは、オフラインのイベントも独自に展開し、O2O(Online to Offline)を重視することで、顧客にどのような理解や解釈があるのか、そもそも顧客はどのような関心があるのか、何を期待しているのかを探っていきます。
 ところで、こうした実践を推進するためには、本部による一元化や標準化したビジネスのプラットフォームでは推進できません。同社は多元化、多極化した事業展開であることが明らかになります。各事業代表者は全員バイリンガルで、会議はチャットなどを活用します。権限は現地の担当者に委譲するに留まらず、各地域の主体性を全面的に期待しています。現在は、検索エンジンの活用促進とSNSとの連動によって、常に変化する市場動向やアクセスの変化に応じて、常に最適化した実践を重視しています。世界全体が開発拠点でありマーケットであり、商品や人材を調達するフィールドだといえます。例えば、現在の日韓関係は過去最悪だと言われていますが、韓流ファンにはその影響が皆無といって過言ではありません。すると、物販でも臆することはないほか、こうした共創の関係から市場を捉えると、在庫リスクに怯える必要もありません。むしろ、SNSとリアルの手応えから、確実にビジネスを展開することができます。大切なのは共創の正しい理解であり、共創の場を企業が発見することにあります。混沌とする時代でもあり、マーケット自体が解らないとも言われますが、それは表層的な現象に過ぎません。表氏はビジネスの位置づけを相対的に見つめながら、しかし、熱い絆を捉える実践を志向していました。
 

ディスカッション
 本日も参加者全員によるディスカッションを展開することができました。
 まず実務家お二人に対し「価値共創が重要だと考える点は何か」という質問がありました。これに対し表氏は、顧客が声を発することに気づき、次第にそれが市場を象徴しているという時代であると回答されました。AKB商法が話題になったころ、人気あるものに投票しようとしたりする行動は、顧客の能動的な態度として注目されてきました。今日では、共感できる人の気持ちに響くことを志向するような顧客主導の行動が、当たり前の時代を迎えています。そうすると、こうした顧客を大切にするビジネスが生まれて不思議ではないし、それが求められる時代だといえるといったお考えが示されました。
 一方、同じ質問に対し折田氏は、Instagramのストーリー機能に注目し、「日本はストーリー大国だ」と評されることをご披露になりました。そのうえで、Instagramのストーリーには、商品の紹介や説明も含まれるが、こうしたコンテンツの中には「何が良いか」というメッセージが詰まっています。現在では、消費者が「何が良いか」を発信する時代になっていて、おまけにアクセス数などデータが採れるのもオンラインのメリットです。消費者が何を発信し、どのような要素に共感し、それがどのような現象と結びついているのかを理解する必要があります。折田氏は、このことについて事例を交えながらご説明になりました。
 続いて「企業にとって、顧客との接点を作るのが難しいのではないか?この問題をどのように克服していらっしゃるのか?」という質問がありました。これについて、折田氏は、インフルエンサー・マーケティングが大切だという回答がありました。クライアント企業の依頼を受けてSNSのマネジメントに着手する際、重要なのは同業種に関心を持つインフルエンサーの動向だといいます。例えば、クライアント企業がカフェ運営している場合、カフェが好きな方がフォローしているインフルエンサーに注目する必要があります。そのうえで、クライアント企業の記事を投稿してもらうために、インフルエンサーに打診するのですが、インフルエンサーの属性や特徴の十分な理解が必要です。クライアント企業の期待との合致はもちろんのこと、クライアント企業が何をしようとしていて、それが第三者にどのように解釈されるのかを見通さないと、クライアント企業の依頼を遂行することはできません。それは、良質な画像や魅力的なコメントだけでは十分でないといえます。折田氏のお話しでユニークだったのは、新たにオープンする施設を例にお話しになった内容です。新しい施設の場合は何のイメージも生まれていません。だからこそ、インフルエンサーのコーディネートが市場性を形成するといえます。さらに、施設側がターゲットの近い施設や親和性の高いイベントなどに「いいね」を付与することで、全体としての解釈が洗練されていきます。こうした手間のかかる、しかしプロセスを大切にした業務を遂行することで、オンラインとオフラインが結びついていきます。折田氏は、このように実践の意義をご説明になりました。
 折田氏がインフルエンサー・マーケティングの実際を披露された一方で、表氏はいわゆる「機を見て敏」の重要性をご指摘になりました。旬のワードは、一気にアクセス数が増加します。SNSも賑わうしマスコミも注目します。このタイミングで露出することの意味は大きく、比較的早く認知されるようになります。アクセス数は資産となるほか蓄積されていくので、以降の信頼を獲得しやすくなります。こうしたことから、マスコミ露出する際には、SNSとの連動を絶えず意識するようにしているという実践をお示しいただきました。日常的にGAFAの活用と分析を展開しながら、機を見て集中的に策を仕掛けていくなどしながら、クライアント企業の期待に応えていくことが示されました。
 
 このほか「企業と顧客との価値共創を最初から見越せないとすれば、それは市場がないところから企業活動を始めるということなのか?」というクールな質問も飛び出しました。この質問に対し折田氏は、オンラインにおいてフォロワーが1,000を突破したらオフラインのイベントが実行できるという感覚的ではあるが規準を持っているとご指摘になりました。この回答は、オフラインのイベント実施の可否や集客の成否の前提としてオンラインのデータがあることを意味します。表氏も同じように、フォロワーの数%しか集客の効果には表れないといいます。しかしながら、この比率は決して小さいものではなく、オフラインのイベントの根拠になり得ます。
 ここで折田氏から興味深い指摘が飛び出しました。即効性あるSNSの活用も有効だというのです。例えば「とれたて野菜」は鮮度が良いとか美味しいといったメッセージがあり、来店の動機になります。「#オーガニック女子」のようなワードとともに情報が発信されると、趣向が明確な情報として認識されます。こうして即効性あるSNS活用が実現していくといえます。一般に、口コミが徐々に広がっていくのもSNSですが、企業側の粋な発信に反応するのも、今日のSNSの特徴になるのではないかとの意見が示されました。とかくオフラインが中心の食品スーパーでも、近年はこうしたSNS活用の可能性が広がっているそうで、折田氏の積極的な挑戦の姿勢が垣間見えました。
 表氏は、試行的な実践の繰り返しの重要性をお示しになりました。例えば民泊の事業を、話題になる5年ほど前から試行的に手掛けていたといいます。当時はムーブメントも何もなかったのですが、取り組みを繰り返しているうちに外国人旅行者の反応が変わり始めて、間違っていないと実感できたそうです。その後は、クライアント企業に民泊事業を紹介し、同社のサービスの拡張につながりました。さらに、大手企業からの相談や依頼も舞い込むようになりますが、これは、越境EC事業を展開していた同社の強みでもあり、試行的なノウハウが功を奏することになったのです。つまり、市場性があることを始めるという考え方ではなく、市場性につながることに気づくことが大切であり、試行を繰り返す中でアプローチも洗練されていくほか、確固たる手応えも生まれてくるという訳です。こうしたユニークな実践もご披露いただきました。
 
 今回もディスカッションは、大いに盛り上がりました。企業と顧客との相互作用をミクロで捉え、丹念な実践を重視する一方で効果をマクロで捉えることで、オフラインへの接続、あるいは市場性の有無が判断されていくメカニズムを、報告者らのコメントから理解することができました。都市部と地方で、あるいは世代によって情報リテラシーの格差は確実に存在するほか、グローバルで見ると地域によって解釈も判断も異なります。しかしながら、SNSの活用は情報の送り手と受け手の立場の違いを克服し、あるいは立場の隔たりを超えて機能します。日本人の特性に利己と利他の非分離があると言われますが、仮にそうであればあるほど、情報の送り手は絶えず受け手のことを考えて行動するのであり、その実践がSNSでは日常茶飯事のように行われているといえそうです。このことはつまり、送り手と受け手の立場や役割の交代や逆転が生じるともいえ、まさに日本らしい現象が存在するといえます。もはやマーケティングは市場を特定する前の段階として、生活世界のインタラクションに注目するべきであり、そのあとに取引や交換を考えなければならないのでしょう。こうした思いを新たにする研究会でした。

 
(文責:今村一真)

 
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