リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第35回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「地域のコミュニティにおけるドラッグストアと価値共創」

#いまマーケティングができること

第35回価値共創型マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:地域のコミュニティにおけるドラッグストアと価値共創
日 程:2021年3月13日(土)10:30-12:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
 

【報告会レポート】
報告「価値共創マーケティングの視点で見た小売活動の考察」
藤岡芳郎氏(大阪産業大学 経営学部 教授)

 藤岡先生は、最初に伝統的な小売マーケティングと価値共創マーケティングの違いについて説明いただきました。伝統的な小売マーケティングは商業論、小売マーケティング、そして小売マーケティング・ミックスのアプローチがありますが、工業社会が生んだ大量生産、大量販売を前提としていて、物財と品揃え、それにその販売が関心の中心にあります。その最適化をめぐり、小売マーケティングは進展してきたといえます。それに対し価値共創マーケティングは、サービス社会に根差したものであり、顧客との接点を活かしたコミュニケーション、価値共創といった視点から検討が進められています。ここで注目されているのが4Cアプローチ(Contact, Communication, Co-creation, value in Context)であり、企業は顧客との接点を起点にするほか、ここで4Cが推進されることが、価値共創マーケティングの特徴だといえます。
 本日藤岡先生は、この4Cアプローチを考える重要な視点として、企業と顧客の意志や能力を挙げて説明していきました。企業も顧客もともに意志と能力を持っており、それらが能動的に接点を構築しなければ、共創とはいえません。つまり、企業にとって必ずしも管理統制が可能とはいえない顧客の意志や能力がなければ、あるいは意思や能力に応じた企業による関与が確立しなければ、価値共創も実現しなければ、それによる文脈も生まれないのです。しかし、価値共創マーケティングで大切なのは、文脈のマネジメントに対する関心であり、トップ・マネジメントにおいては、顧客との接点でどのような(顧客のサービス利用による消費の)文脈が生まれるのかを想定する必要があります。つまり、文脈を想定してビジネスを主導するのがトップ・マネジメントの関心であるべきであり、トップ・マネジメントの文脈マネジメント能力が問われるといえます。これを文脈マネジメント能力と呼び、それは組織の内部統合、外部統合によって文脈価値を高める創造力となる必要があります。
 このように考えていくと、価値共創マーケティングの担い手たる企業には、特徴的な戦略ないし組織文化があると考えられるほか、それをインターナル・マーケティングの視点で検討することもできそうです。このような視点で企業活動に注目できるのではないかという提言を、冒頭でお示しいただきました。
 
講演「地域のコミュニティにおけるドラッグストアと価値共創」
皆川友範氏(株式会社アカカベ 代表取締役社長)

 株式会社アカカベ(以下「アカカベ」)は、大阪府の北河内地域(枚方市、寝屋川市、交野市といった淀川以東の大阪府北部から大阪市内や大東市、東大阪市)を中心に86店舗を展開するドラッグストアを主たる事業とする企業です。ドラッグストアといえば、近年も出店が相次ぐ業態内競争の激しいカテゴリーですが、同社はむやみに物販の拡販と多店舗展開を追うのではなく、店舗機能においても調剤薬局や在宅医療を重視しているほか、周辺事業(卸売事業のほか美容、食事、運動、地域・行政)も含めた地域密着型の企業として成長を志向しています。
 店舗機能における大手チェーンとの差別化の具体的なアプローチは、医療機関との連携をはかる調剤薬局事業、そして在宅医療の取り組みです。また、エステやネイルなどの美容事業、フィットネス事業、配食事業、保育園事業という周辺事業に取り組みながら、企業全体の付加価値を上げる取り組みを進めてきました。中でも調剤薬局、在宅医療という分野については、地域に根差している病院、クリニックとの連携や、老人ホーム、介護事業者と連携することで、特徴的な差別化が実現していきます。ドラッグストアの物販では価格競争が厳しい世界ですが、調剤薬局事業における介護サービスというのは価格が決まっているため、地域で信頼を得ている薬局が売上をあげることができ、企業の規模と無関係に持続的な企業運営が可能になります。
 ところで、少子高齢化による地域社会の問題は深刻です。同社が展開する大阪府北東部は、後期高齢者増加率の高い都市が多く、自治体は労働人口の減少による財政悪化を懸念しています。こうした地域においては、医療や介護を含めた社会保障費の抑制が求められるほか、高齢者の生活を支えるインフラの整備、そしてこうした費用を捻出するための地域経済活性化が重要になります。つまり、自治体にとっても「地域と共に歩む企業」を求めており、企業は社会とともに地域課題解決する必要があるのです。
 こうした状況を踏まえ、同社は地域連携の取り組みを進めていきます。まず調剤薬局の運営では医療機関と連携し、在宅医療への関与を模索していきます。あるいは、高齢者施設に向けて介護用品を物販するなどして、介護や福祉サービスにも貢献できるよう道筋をつけていきます。配食の事業では、独居老人にお弁当を配達し、またドラッグストア店舗で販売する商品の買い物代行も行っています。配食はお年寄りの見守り機能も兼ねており、緊急の対応をすることもあります。ほかにも、フィットネス事業や地域のウォーキング大会運営などの「運動・予防」、そして災害時の物資提供協定や、まちづくり事業支援などの「地域・行政」の4つを軸に地域と連携したドラッグストアを目指しています。同社は早い時期から調剤薬局事業に注力してきたおかげで、安定した経営が可能になり、現在では同社の理念を実現するための経営が維持できるようになっています。
 近年はコロナ禍でマスクが不足する状況において、アカカベでは独自にマスクを入手し品切れや品薄を解消する取り組みを続けました。仕入れ価格の関係から店頭で販売できないマスクは、行政や高齢者施設に寄贈しました。ほかにも、子供用マスクが不足する局面においては、大阪府内のすべての小学校に寄贈したり、夜の街が感染源だと指摘されると大阪ミナミの繁華街にマスク着用を推奨し消毒液を販売すべく、ホストクラブを回ったそうです。コロナ禍で旅行や外出の機会を失った子どもたちに対しては、何らかの成功体験をとの思いから、大阪府が主催した、「おにぎりを握った人数」でギネス世界記録に挑戦するイベントに協賛するなど、さまざま人々の生活に寄り添う実践を続けています。
 コロナ禍でも様々な取り組みを進めた結果、同社は今期も増収増益を達成する見込みであり、さまざまな取り組みは未来への投資にもなります。大阪市内中心部への出店も実現し、出店のスピードをあげています。2020年に得たものを、2021年にさらに拡大していけるように、これからも地域に寄り添った経営を続けていきたいという決意が、力強く示されました。
 
ディスカッション
今回もフロアからさまざまな意見が示されました。特に皆川社長の実践は、単に良いこと、CSR重視で何でもやればよいということでもないだろうことから、実行しようとするアイディアとはどのようなものかや、どのような判断が迫られるのかについて、質問がありました。
 これに対し皆川社長は、競争が激しい業態だからこそ、競合店出店のつど店舗を構える意義を再考するとの意見が示されました。競合店が出たら新しい事業を始めようというのです。どのような事業を始めれば、店舗の機能が際立つのか、どのような差別化が可能になるのか、これらを踏まえどこまで違いを訴求できるかを考えるといいます。これが、実行しようとするアイディアを求める動機であり、地域に根差した企業になっていく原動力だと感じました。
 皆川社長は、ご自身を止まっているより先に動くタイプの人間だとお話しになりました。だから、ご自身の性分として、まず行動して、間違っていたら後から軌道修正する。そんなお考えで日々実践してらっしゃるそうです。
 皆川社長の興味深いご発言に「管理栄養士を総合職として採用しており、採用した管理栄養士は全採用者数の半数を超える」というのがありました。管理栄養士を採用する動機は、ドラッグストアにおける栄養相談や配食事業を展開するためなのですが、皆川社長はこうした専門的な資格を持つ人ほど、働くモチベーションが成就しない状況にあるとお考えでした。薬剤師なら薬局、栄養士なら給食の現場で活躍するのは当然ですが、資格が働くことの範囲を規定する傾向にあるというのが皆川社長独自のお考えで、もっと何でも挑戦したいと考える人にとって最適な職場環境を提供できないかというのが、栄養士を総合職採用する理由でした。どんな資質を持つ人でも理念はひとつ。地域と繋がりながら、地域の健康な人を支える。その中でビジネスが動いていく。その中で社員のコミュニケーションを図っていく。地域密着だからコミュニケーションの接点が図りやすい。今年度はコロナ禍で十分に実践できなかったが、社内で配食を評価したりした。社長も自ら従業員を励ましたりした。こうした取り組みを大切にすることで、地域密着型の企業経営が実現するとお考えでした。
 
 このように考えていくと、価値共創マーケティングの真骨頂が、皆川社長によって鮮やかに示されたように感じます。価値共創マーケティングは、購買を焦点化するのではなく、むしろそのあとの(顧客の生活空間における)直接的な相互作用をどのように成果につなげることができるかに関心がある訳ですが、直接的な相互作用を次々に企業活動の手中に収めていると感じました。共創する主体は、企業が投げかけたものに対し積極的に掛け合う顧客だろうが、それを地域や行政、病院などさまざま関係を深耕していくことで(外部統合することで)、共創を確立する、あるいは共創の主体を増やしていくのではないか。そのように思えました。
 
(文責:今村 一真)

 
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