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研究報告会レポート

第5回地域創生マーケティング研究報告会レポート「地域創生における中核企業のビジョンと戦略」

#いまマーケティングができること

第5回地域創生マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:地域創生における中核企業のビジョンと戦略
報告者:井上 真里(中央大学 商学部 准教授) 
    塚原 敏夫(上川大雪酒造株式会社 代表取締役社長)
司 会:井上 真里(中央大学 商学部 准教授)
日 時:2022年3月19日(土)10:30-12:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 今回の研究会では、地域の現地企業が地方自治体と緊密に連携し、当該企業を中核として地域創生における諸課題にチャレンジしている事例に焦点を当て、上川大雪酒造株式会社の塚原敏夫代表取締役社長にそれらの活動をいかなるビジョンと戦略に基づいて行っているかをご講演いただきました。そして、20名前後の参加者とディスカッションを通じ議論を深めていきました。
 
1. 「地域創生における中核企業の役割 ―ゲートキーパー視角―」
 地域(地方)創生に関する既存研究を概観すると、1980年代の一村一品運動に代表される特産品論や1990年代の6次産業論(農林水産物生産の1次産業、加工品生産の2次産業、付加価値の高いサービス提供の3次産業をうまく組み合わせること)のように、地方自治体や各種業界団体が地域創生の核として特産品をはじめとするモノや観光名所・イベントといったコトをいかに創出し、さらにそれらをいかに連結させるかという視点に注目が集まってきた。
 しかしながら、それは当該地域内でモノやコトを創出できる諸条件(人文資源や自然資源など)がある程度整っていることが前提であり、世界的にみてもそれらを満たしている地域はそれほど多くない。ただし、人文資源や自然資源が乏しくともそのような現状を打破しようとする地方自治体もある。そこで、これまでイノベーション論や組織間関係論の文脈で論じられてきた「ゲートキーパー」概念を地域創生研究に敷衍し、ゲートキーパー視角で地方自治体と現地企業との関係を捉えた場合にこれまでとは異なる説明がいかにできるかを論じた。
 
2. 「地産地消から地産地招を目指す地域創生の取り組み」
 伝統産業である清酒製造業において、酒造会社の新規設立や生産拠点の追加には少なからず制約があるものの、塚原敏夫社長は2016年に三重県で製造を中止していた酒造会社を北海道の上川町に移転させるという前例のない方法で酒蔵を創設し、2017年に初醸造した「上川大雪」がたちまち社会的に高い評価を獲得した。また、北海道における各地域での日本酒生産・消費をさらに拡大させることを主目的として、2020年には帯広畜産大学と連携して学内に「碧雲蔵(商品名「十勝」)」を設立し、さらに2022年には函館工業高等専門学校と連携して函館市内に「五稜乃蔵(商品名「五稜」)」を設立している。同社は「地産地招」を掲げ、基本的にそれぞれの拠点で生産した日本酒は現地で購買・消費されることを目指しており、その成果として上川大雪酒造の商品を購入するために道内外から各地域に来る消費者が増加している。
 上川大雪酒造およびその関連企業は、清酒製造を主軸としつつ各地域の諸条件(レストランや宿泊など)を有機的に結び付け、各地域での社会的なコミュニケーションを円滑にするゲートキーパーの役割を果たしている。また、同社は各地方自治体の産業政策と連携する形で各地域のさらなる発展に寄与しつつある。
 
【研究会を終えて】
 塚原社長のご講演後、フロアからの質問も交えてディスカッションを行いました。オンライン開催ということで不手際があり、ご参加いただいた皆さまにはお聞き苦しい点も多々あったかと思います。この場を借りてお詫び申し上げます。また、本研究会を立ち上げて3年を迎え、研究成果として2021年11月に中央経済社から『地域創生マーケティング』を出版いたしました。引き続き本研究会に関心をお寄せいただき、ご参加いただければと思います。この度はまことに有り難うございました。
 

 
(文責:井上 真里)

 
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