合同リサプロレポート「地域創生とブランディング」 |
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合同リサプロ「第2回 場所と地域のブランディング研究会」✕「第2回 地域創生マーケティング研究会」
テーマ:「地域創生とブランディング」
日時:2020年8月24日(月)19:00-21:00
場所:Zoom使用によるオンライン開催
「場所と地域のブランディング研究会」×「地域創生マーケティング研究会」@Zoomによるオンラインで開催されました。両研究会のプロジェクトリーダーの研究会の取り組み状況が「場所と地域のブランディング研究会」プロジェクトリーダーの徳山美津恵先生と「地域創生マーケティング研究会」のプロジェクトリーダーの山口夕妃子先生から説明があり、「地域創生とブランディング」のテーマのもと、仲田道弘氏からは「山梨ワイン産業の発展」、金野幸雄氏からは「文化遺産を開発する」と題しご講演頂きました。
【仲田道弘氏ご講演内容】
日本におけるワイン市場の推移と現状をまずみてみると、酒類全体は衰退していますが、ワインの販売量は伸びてきています。輸入は70%、国内が30%程度ですが、国内生産のほぼ90%が外国原料を使ったもので、国内の原料で生産しているものとなるとわずか4%にすぎません。この4%の生産量の日本ワインの県別生産量をみると、山梨は30%程度のものです。この山梨県のワインの歴史を振り返ってみると、1593年(文禄元年)に当時の記録で葡萄畑が1町4反あり、国の記録としては1974年にワインが生産された記録が残っていて、最初にワイン生産をはじめたのは山梨県ということです。
次に山梨県のワイン県としての歩みをみてみましょう。1975年にワイン観光の第1歩として、お客様に勝沼町ぶどうの丘ができました。1988年に民間として丸藤葡萄酒工業さんがワインを飲みながら音楽を聴くだとか1990年の山梨県ワイン酒造組合の新酒ワイン祭りなど、さまざまなワインに関するイベントを開催してきました。初期の取り組みはイベントの取り組みを主に行っていましたが、1989年から1993年にワイナリーの方を含めてジュエリー、織物、和紙の方々、建築家と地域活性化のためのワークショップが行われました。
1998年からはビジターズ・インダストリーということで、ホスピタリティ(おもてなし)で地域活性化をしていこうという取り組みを行い、2004年から2010年頃はブランドをテーマにワインのブランド化や広報戦略によって地域振興を図っていこうと山梨県庁を中心に取り組みを続けいました。このような取組が2019年の山梨「ワイン県」宣言へとつながっていったのです。
このような「ワイン県」宣言に至るまでの大きな共通する考え方は、1989年から2010年頃に「デザイン」「ビジターズ・インダストリー」「ブランド」という視点から、山梨県の地域資源の磨き上げの交流ステージをつくり、そこにお客様に参加してもらいながら、ファンを作っていくという仕組みを構築したいということです。その一方でこのような仕組みを構築し、実践していく中での課題も明らかになりました。①ワインの原料となるぶどうの高品質化②ワインの酒造技術の高度化③流通販路の拡大、多様化、県産ワインブランドの確立④それを有機的に結び付けてくれるソムリエとの関係構築などです。これらの課題解決に向けて、具体的取り組みとしては、1997年ワイン葡萄畑オーナー制度、1997年蔵ワインツアー、1999年ナパバレーの視察ツアーなどを行いながら、世界に通用するワインづくりを地域のみなさんとまた山梨ワインをつくるファンのみなさまとつくってきたのです。
その契機という点でいうと漫画原作者の雁屋哲さんの漫画『美味しんぼ』があります。雁屋哲さんは、和食にあうワインづくりについて大きなヒントを与えてくださったのです。生臭みがでてくるのは、ワインの鉄分と魚介料理での過酸化脂質が口の中で「生臭み」を経ちあげるという検査結果からも明らかになりましたが、そのことを子自分の舌でも感じて、その「生臭み」を甲州ワインは出さないということをご自身で感じ、それを漫画で取り上げてくださいました。そのようなことをきっかけに和食にあうワイン、魚介類にあうワインということで欧州における甲州ワインの評価が高まっていったのです。
甲州ワインが欧州で認められ、世界のワインへと羽ばたいているという実感とともに、山梨にきていただき、ワインを中心に他の地域産業と連携したワインリゾート構想も立ち上がっています。地域の中心として山梨はワイン産業があり、他の産業も巻き込みながら地域での受け入れ体制をつくりはじめました。山梨はワインの発祥の地域でもあり、世界に認められる品質のワインを創り出し、甲州ワインとともに山梨の魅力を発信してきました。
【参考図書】仲田道弘(2020)『日本ワインの夜明け 葡萄酒造りを拓く』創森社、仲田道弘(2018)『日本ワイン誕生考 知られざる明治期ワイン造りの全貌』山梨日日新聞社
【金野幸雄氏ご講演内容】
講演ではまず、これまでの文化財とコミュニティの関係についてお話がありました。以前の考え方は指定文化財を取り巻くコミュニティがあった際、基本は指定された文化財のみを守るという発想があったといいます。ところが人口が減少し周辺の建物が空き家となっていくという昨今の状況では、ただ保存された文化財と廃村という未来になります。これに対し近年成立した文化財保護法改正では、周辺の未指定も含めた歴史建築全てが文化財という考え方に立ちます。コミュニティ維持のためにも面的な活用が重要となるのであり、「文化財」の概念が変容したと金野氏は指摘します。
続いて文化財を活用するにしても、ただ安易にカフェなどにするのではなく、文化財のグレードを分け、それぞれに対応した中で、新たな価値を生み出す活用の仕方が重要となった点をお話しされました。空き家となった文化財群の観光活用から、移住活用まで、その間の無数のグラデーションを組み合わせていくことを「分散型開発」といいます。金野氏は外部から人が行きかうことが地域を元気にする、それが観光であるとされます。このとき古民家を活用する際の面白い点は、古民家は地域に新たな価値をもたらすクリエイティブな人々を呼び寄せる力を持っていることでした。
さらに文化財群を活用した分散型のエリア開発事例として国家戦略特区を利用した「篠山城下町ホテルNIPPONIA」の事例が紹介されました。ここでは近年に改正された旅館業法や建築基準法により、旅館経営や古民家の改築がより合理的に行えるようになった背景が語られました。
こうした「文化遺産を開発する」という演題の意味について、金野氏からはこれまでの概念から別の概念への転換という視点からお話が続きました。従来の都市化が進みグローバル化が進むという「グローバル社会の世界観」が紹介されます。金野氏によれば、コミュニティが変容する中で連合体としてこれらを捉え直す概念転換に気が付くことが必要とされます。以前の高度経済成長・グローバル化の中で日本社会が捨て去ろう(捨ててきたもの)を問い直すことが必要であると結論づけました。
昨今のコロナ禍においては、「ニュー・ローカル」をどう作るのかが課題です。現在の金野氏はクリエイティブなものをコアにおき、「ローカルな思考でローカルな展開をできないか」、「ローカルをローカルな原理で作る取り組み」をしたいと語ります。最後に、参加者・学会に向けては「ローカルエコノミーを理論化できますか?」と金野氏は問いかけでご講演は締めくくられました。
その後の質疑応答でも活発な議論が展開され、合同リサプロの目指す地域創生や地域におけるブランディング重要性と両研究会での方向性を示唆するものでした。最後に田中本学会副会長からゲストと参加者への感謝の意を表明するの挨拶があり、今回の合同リサプロを終了しました。
両研究会ともに初の試みでしたが、おふたりの実践を聞く中で、地域創生には、その地域に眠る資産を掘り起こし、価値に結びつけていくブランディング・プロセスが必須であり、そのプロセスを実行していく力のある「ヒト」の重要性を再認識されられた研究会となったと思います。ご参加いただいた会員のみなさまありがとうございました。
【地域創生マーケティング研究会】
地域創生マーケティング研究会は、地域ごとにより付加価値の高い産業集積や企業・団体、商品・サービスなどを育成することを通じた、雇用の創出、住民の意識向上、地域経済社会の活性化やその魅力向上を「地域創生」という新しい概念を用い、旧来の地域活性化だけではなく、21世紀に生まれ、またアフターコロナやWithコロナ時代とも言われるニューノーマル社会における新しい視点や価値観を創出し、その展開のための新しい進め方を学際的に提示していきたいと考えています。産官学という枠組みにとらわれることなく、さまざまな「ヒト」との交流を通じて意見を聞き、地域を訪れ研究を進めていきたいと思っています。引き続き本研究会に関心を持っていただき、研究会にご参加ください。
【場所と地域のブランディング研究会】
場所と地域のブランディング研究会は、引き続き学際的に、実務者を交えてプレイス・ブランディングに関心を持つ人たちのつながりを作り、新しい概念を共有する場としていきたいと思います。ご自身の取り組みや研究を報告したい、実践での悩みを共有する機会としたい、ブランディングの手法を磨きたいなど、プレイス・ブランディングにかかわるさまざまなニーズをお寄せください。