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研究報告会レポート

第14回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「人と場所のこれからの関わりとは? ― センス・オブ・プレイスを活用したプレイス・ブランディングの可能性について ―」

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第14回プレイス・ブランディング研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:人と場所のこれからの関わりとは? ― センス・オブ・プレイスを活用したプレイス・ブランディングの可能性について ―
基調講演:杉浦 章介 氏(慶應義塾大学 名誉教授)
ファシリテーター:若林 宏保 氏(電通)

日 程:2022年3月19日(土)13:00-14:30
場 所:Zoomによるオンライン開催

 

【報告会レポート】
 今回の研究会ではプレイス・ブランディングの中核的概念の一つであるセンス・オブ・プレイスを取り上げた。これは人文主義地理学の重要な概念の一つで、場所の感覚とも呼ばれる。ファシリテーターの若林氏より,プレイス・ブランディング研究の発展のために、今一度、地理学の中でセンス・オブ・プレイスに関連する重要な研究の流れを検証し、今後のプレイス・ブランディング研究の発展には何が必要かを議論していきたい、という趣旨説明がなされ、研究会はスタートした。
 このような問題意識を受け、地理学の権威である杉浦先生より「場所(プレイス)論の人文地理学的基礎と系譜」と題して、人文地理学を代表する七人の研究者が紹介された。
 

 
 最初の一人はフランス地理学の泰斗であるポール・ヴィダル・ド・ラ・ブラーシュ(Paul Vidal de la Brache)である。彼が関わった『フランス地理』はフランス革命100年を記念して1878年に国家事業としてのフランスアカデミーが総力を上げて作ったプロジェクトである。その第一巻は歴史でも、工学者でもなく、地理学者の彼が担当し、歴史の舞台となるということで、場所を記述する地誌(chorography)が書かれた。フランス地理はその後の地誌の原型となる。
 地理学は先端技術と大きく関わる。地図の技術というのは、地図を書く人の技術だけではなく、地図の目的や用途に応じて柔軟に変わっていくものであった。その発達において最も重要だったのは写真の技術である。写真は19世紀初めにできて急速に発達していく。その結果、写真と地図と地誌が一体となって、プレイスの世界を作っていく。写真で紹介する、地図で紹介する、その結果、記述が可能になっていった。
 地理学会で場所の議論をするようになったのは、人文主義学派が出てきた1960年代から70年代にかけてである。その一人がアイルランド人で尼僧の地理学者でアン・バティマー(Anne Buttimer)である。彼女は、1987年の論文で、「人文主義地理学における学問的探究の焦点は、自然と人工物を含めた環境全体の中における生活様式(genes de vie)を明らかにすることであり、さらに場所の性格(the character of place)を解明することである。」と述べている。
 3番目の研究者が場所の感覚(sense of place)を最初に言い出したイーフー・トゥアン(Yi-Fu Tuan)である。彼は「場所の感覚は、場所そのものの属性ではなく、人間が抱く主観的なイメージであり、場所についての感覚や情動、そして何よりも場所についての記憶のことである。それは個人的であり、かつ同時に社会的である。」と言う。当時は実証主義全盛期の時代であり、彼のいうことは当たり前だということで画期的には思われていなかった。
 4番目がセンス・オブ・プレイスを現代のアメリカに応用したドロレス・ハイデン(Dolores Hayden)である。『場所の力』(原題:the power of place)で、人々の持つ共通の記憶としての駅や公会堂といったランドスケープがパブリックなヒストリーの象徴となっていくことを記述した。
 ランドスケープとパブリックヒストリーを結びつけるというアイディアを本格的に取り上げたのはJ.B.ジャクソン(John Brinckerhoff Jackson)という有名な在野の景観論者で、彼は「景観という概念は、近代地理学の形成と共に古く、どのような学問的立場を取るにせよ、人文地理学の根本的なものの見方について深く考えようとすれば、必ず突き当たらねばならない概念であるように思われる。それは、風景画がそうであるように、目に映ずるものであり、また、そのようにして視覚に捉えられた地表の一部分の形態でもあり、さらにはそのような地表の一部を記号化(地図化)して表現されたものでもある。それらの中には、地表の一部分であり、かつ、ひとまとまりであるもの、すなわち景観とは地域そのものであるというような立場すらあった。」と述べる。Landscapeという雑誌を長年発行しており、地理学者に影響を与えただけでなく、寧ろ建築家、特にアメリカの建築家に大きな影響を与えた。
 J.B.ジャクソンとは違うが、同じ傾向にあるのがカール・サウアー(Carl O. Sauer)である。アメリカの有名な地理学者で形態論を打ち立てた人で、日本にも多くの弟子がいた。彼の主張はかなり明確であって、「地理学研究が目指すものは、地理学的要因や気候学的要因によって形作られた自然景観に、人間の働きかけによる歴史的文化的要因が重なり合っている現実の景観を、類型(形態のモデル)によって分析することで、景観の一般的意味を探求することである。文化的景観を、形態の中に見出される、自然や文化の諸要因の総合化によって捉えることこそ、他の自然科学や社会科学にはない地理学独自の観点である。」と主張している。
 こうした流れを受けながら、風土に関心を持ったのがオーギュスタン・ベルク(Augustin Berque)である。彼の風土論は一貫して「人間は地理的な存在である」という主張を軸にしており、「地理的な存在」は和辻哲郎から来ている。そのことを明らかにするために、ベルクは場所、景観、世界、物についての存在論的な考察を重ね、風土の独自性に至る。
 七人の研究者を軸に、歴史を辿ってきたが、地理学は歴史の中で徐々に生まれ、発達し、今色々な批判を受けている。その歴史の中で面白い意見もあったが、消えたものもある。それらを整理した上で、ブランディングにどう活用すると考えた方が良いのではないか、とのプレイス・ブランディング研究へのアドバイスで講演を締めくくった。
 その後の質疑応答では、地理学におけるフィールドワークやモノの見方について、場所の境界に関する理解、場所論における時間軸の扱い方、記録としての写真などについて、次々と質問が出て、活発な議論がなされた。
 プレイス・ブランディング研究会では、これからも学際性を大切に、さまざまな研究分野との交流を重ね、そこでの知見を取り入れていきたいと思います。
 

 
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