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研究報告会レポート

第2回デジタルトランスフォーメーション研究報告会レポート「デジタルトランスフォーメーションの理論と実践 ― パイオニアの事例を通じて ―」

#いまマーケティングができること

第2回デジタルトランスフォーメーション研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:デジタルトランスフォーメーションの理論と実践 ― パイオニアの事例を通じて ―
ゲスト:パイオニア株式会社 モビリティサービスカンパニー CCO & CMO 石戸 亮 氏
日 程:2022年3月19日(土)13:00-14:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
冒頭挨拶
 本研究会のリーダーである一橋大学大学院の藤川佳則准教授よる本研究会の概略紹介に続き、パイオニア株式会社の石戸氏をご紹介後、石戸氏から30分間、パイオニア株式会社のモビリティサービスカンパニーを中心としたデジタル施策の取り組みについてご説明を頂きました。
 
講演 パイオニア株式会社におけるDXの取組
石戸 亮氏(パイオニア株式会社 モビリティサービスカンパニー CCO & CMO)

 最初に、ご自身が現在のポジションに転職された背景として、日本の大手企業でのデジタル人材不足、LinkedInのデータにも見られるデジタル人材の外資企業やベンチャー企業への流出、そしてモビリティ領域での機会などの指摘がありました。会社紹介では、近年の大きな流れとして、外部から招聘した経営陣により、2025年に向けてプロダクトだけでなく、データを活用したソリューションサービス企業への変革の方向性が紹介されました。
 

 
 次に、石戸氏が担当されている領域でのデジタル変革におけるチャレンジとして、「貴重なデータの物売りによる機会損失」「デジタル人材拡充と融合・採用力強化」「個別最適されたシステム・オペレーションによる業務の摩擦」という3点に話は進みます。
 1点目のデータ活用については、2006年から蓄積されてきた走行データ等を、自社内だけでなく様々な社会課題の解決への活用に向け、これまでの売り切り型でのデータ販売に加えて、アマゾンのフライホイールのような循環型への取組が行われてきました。2点目の人材面での強化ついては、「変革」をキーワードとして様々なチャネルで一貫したメッセージの発信を行うことで、製品販売後のサービスの段階が重要であるデジタルビジネスの知見を持つ人材の獲得と、社員への訴求浸透が図られてきました。3点目のシステムやオペレーションのシステム刷新では、全ての部門が顧客とつながり、顧客体験の向上の実現を目的とした、部門間でのサイロを解消してsingle source of truth の獲得が目指されています。
 お話の締めくくりとして、これらの取組を支えるために意識されている自走する組織作りに向けて、個人レベルで留意されているポイントについてご紹介いただきました。これまでのデジタルビジネスでのご経験から、エクスポネンシャル思考の重要性を意識され、それをどこまで日々実践しているかをチェックするためのリストが具体例を交えて説明されました。
 

 
参加者によるディスカッション
 次に本研究会の初期成果として『マーケティング・ジャーナル』第41巻3号に投稿した論文「デジタルトランスフォーメーションのダイナミックプロセスモデルー概念アプローチ」・「同ー事例アプローチ」の概要を説明した後、研究会メンバーおよび参加者とのディスカッションに進みました。
 最初に、パイオニアでのプラットフォームへの移行プロセスとして、自社のシステムを社外の自社製品ユーザーと共有し、更に他業種に拡張してきた流れを確認し、一連の取組で求められるケイパビリティの中でも、同じデータでも自社の製品改善ではなく、他社に活用してもらうためのマイクロサービス化を図る部分における今後の可能性について、石戸氏からは言及頂きました。
 また、新しく採用されたデジタル系人材と、それまでの社員との融合については、石戸氏が入社後に必要となる人材の採用に取り組んでいるものの、必ずしも新しく入社した方々だけが社内を改革するのではなく、今までの取り組みを理解するために共感を持って様々な質問をしていく中で、これまでのやり方の進化を共に議論していかれているとのこと。ここでは「融合」が必ずしも望ましいとは限らないという議論も提起されました。
 さらに、参加者との質疑応答を通じて、状況的学習理論等の観点からは、何らかの境界線があることで、お互いの強みの学習につながることから、一般にデジタルの取り組みでは全従業員のデジタル能力の向上が言われているが、全員が同じことを目指す必要性の是非についての議論が交わされました。
 最後に、デジタル関連の新しい取り組みを進める上で、一般に課題となる資源の確保に話は移りました。パイオニアではこの点について、モビリティプロダクトカンパニーが既存のビジネスを引き続き推進する一方、モビリティサービスカンバーが新しい取組を、さらにソリューション企業への変革に向けて新しいビジネスモデルの構築を担うNI事業本部を社長直下の組織とするなど、各部門の棲み分けを明確にして運営がなされていることが紹介されました。
 
 本研究会では今年度も引き続き、企業のデジタルトランスフォーメーションにおけるプロセスに焦点をあて、そこで必要とされる能力に関する論理の精緻化に取り組んで参ります。
 
(文責:今井 紀夫)

 
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