リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第39回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「価値共創マーケティング ― 新たなビジネス創造の仕組み ―」

#いまマーケティングができること

第39回価値共創型マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:価値共創マーケティング ― 新たなビジネス創造の仕組み ―
日 程:2023年3月18日(土)13:00-14:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
1.「価値共創マーケティングにおけるビジネス創造」

村松 潤一 氏(岐阜聖徳学園大学 教授)

 村松先生は、価値共創マーケティングを理解するための概念から、説明していきました。本研究会におけるサービスの概念は、経済学ベース(形があるかないか)とは異なると言えます。モノが優位でサービスが劣位、いかにサービスをモノに近づけるかが意識されてきました。しかし、北欧学派のサービス・ロジックは、サービスの消費は結果の消費ではなく、プロセスの消費だとしました。また、サービス・ドミナント・ロジックも行為やプロセスをサービスとして捉えたことで、いっきに経済学とは異なるサービスに注目する意義が高まったと言えます。
 さて、サービスが利活用される時空間はどこかが問題になるのですが、それは、市場取引の後、使用や消費の段階ということになり、具体的には顧客の生活世界ということになります。つまり、サービスへの注目や検討は、Kotlerが示してきた応用経済学の一分野としてのマーケティングとは異なる視点の確立が必要です。とりわけ製品を製造する企業は使用や消費の現場に立ち会うことができないため、価値共創に必要な顧客との直接的な相互作用を設定することが出来ません。本研究会における価値共創とは、顧客参加型の製品開発でもなければ、リカーリングもアフターサービスも価値共創とはいえず、新しいマーケティングの考え方が必要となります。
 ところで、所有から使用へ、モノからサービスへという関心の転換は、実務において進展しています。つまり、ITの進展によって、これまで離れていた企業と顧客がSNSなどネットワークの活用によってつながることができるようになりました。かつては市場と生活世界が区別されていましたが、現在は生活世界の中に市場があるといえ、市場だけに焦点を当てたマーケティングの考え方それ自体が問題視されるようになりました。したがって、市場に留まらない生活世界への注目ことが大切であり、顧客は自身の生活世界で日々の生活をより良くしようとしており、そこでのビジネス構築が大切になります。さて、顧客とのサービス関係をいかに構築するかといった、さまざまな研究が必要とされます。企業はどのように対応すべきでしょうか。
 製品を製造するメーカーは、直接顧客との接点を構築し、そこでのサービス関係のもとで顧客の価値創造を価値共創に持ち込み、インタラクションによる成果を意識する必要があります。ここでいう価値共創に持ち込み、インタラクションによって成果を得るとは価値共創を鍵とするビジネスに転換することを意味します。顧客と接点を持ちコミュニケーションによって共創することで、文脈価値が生まれていくことが大切になり。顧客ともインタラクションできることが大切です。そこでは顧客の意志や能力への関心が生まれます。しかし、顧客との関係が成立すれば、一度きりの購買に留まらない顧客との関係に基づく価値共創ビジネスが機能するようになります。企業や消費や利用の文脈をコントロールすることで、顧客の価値判断に影響を与えることができます。こう考えていくことで、価値共創マーケティングは社会にみられる特徴的な現象を説明することができると言えるのではないでしょうか。この新しいビジネスにおいて大切なのは、文脈価値を最大化することでしょう。このことについては、まだまだ検討が不十分です。そして、こうした文脈価値に紐づけて成果を捉える研究が今後ますます重要となっていくと考えられます。とはいえ、価値共創から逆算してビジネスを設計することが有益であり、それは市場に委ねない生活世界固有の調整メカニズムが生まれるといえ、新しいビジネスを説明することができるようになります。こうした研究の成果を、ますます高めていきたいと考えています。
 ところで、価値共創の視点は、受け手主導のサービス概念を中軸に据えるものですが、それはこの日本において、「もてなし」を旨とする日本の社会、人と整合的ではないでしょうか。日本企業の得意技は①顧客とのインターフェース、②補助的サービス、③思考・感情のベースだと言われていますが(伊丹, 2013)、こうした視点から国際競争力を捉え直す必要があります。また、SDGsに対しても理にかなった面があり、生活世界での顧客との価値共創から逆算する新しいビジネスの創造はマクロ・ミクロの両レベルで良い結果をもたらすと考えられ、ますます研究が進むことを期待したいと考えています。
 

 
2.「事例からみた文脈マネジメント」

藤岡 芳郎 氏(大阪産業大学 経営学部 教授)

 藤岡先生は、最初に価値共創型企業システムと文脈マネジメントの考え方を示したうえで、企業にとっての成果を文脈マネジメント能力とみたとき、特徴的なビジネスの実行が考えられることを説明していきます。最初に、企業側の意志と能力について整理しておきます。企業側にとっての意志とは経営者の戦略(価値共創を採用すること)を意味し、能力とは文脈を高めるための組織能力を指します。すると、企業がおこなうマーケティング・マネジメントは4Psの駆使とは異なり、文脈マネジメントとなり、それを支える企業システムが大切になります。
 こうした視点で注目すると、アカカベ(ドラッグストア)が物販に留まらない価値共創(地域社会への貢献)を想定した多角化が説明できるようになるほか、ノースオブジェクトが商社機能に留まらず、さまざまな顧客との接点を構築し街づくりにも参画する取り組み、そして、生協の配達員と組合員との接点を活かした活動が説明できるようになります。いずれも地域社会と深く関係した企業活動が意識されているほか、あらゆる顧客とのインタラクションが機能していくようになります。
 これら企業はいずれも、従来の流通論の視点では説明できない領域への挑戦ばかりであり、価値共創型の企業システムの視点で見た方が自然です。生活に入り込むビジネスの創造が容易になり、その挑戦への覚悟が感じられます。また、顧客との接点がさまざま用意され、生き生きとした人間同士の交流が生まれていることも間違いありません。こうした企業の実践から文脈マネジメントが検討できるといえ、ますますの研究の蓄積が期待できます。持続可能な地域社会を構成するうえで意義のある考え方ともいえる、文脈マネジメントは、競争優位を前提とした企業活動とは異なる新たな企業経営の視点として注目できるのです。
 

 
3.「事例から見た顧客の意志と能力」

今村 一真(茨城大学 人文社会科学部 教授)

 研究会を振り返ったとき、当初は、顧客との関係が継続することを前提とした事例に注目していました。群馬ヤクルト販売や水戸ヤクルト販売の事例はそれを象徴しているほか、今ほどサブスクリプション・モデルが一般的でないころからソニックガーデンの事例に注目したのも、こうした背景があったからです。その後サブスクリプション・モデルが一般化するようになり、顧客との関係は長期化する傾向が生まれます。それとともに、サービスの消費や利用を前提としたビジネスが理解されるようになり、これはITの進展、とりわけクラウドコンピューティングの普及が特徴的なサービスの増加をもたらしたのです。同時に価値共創マーケティングは特別なものではなく、新規性の高いビジネスモデルを説明する手段として期待されるようになっていきます。
 その後、エニタイムズ、エアークローゼット、AsMamaの事例に注目していきます。これは、顧客の生活世界を舞台にしたビジネスの台頭に注目しているといえ、特徴的なサービス・エンカウンターの構造とともに新規性の高いビジネスが機能していくことを確認するといえます。顧客の意志や能力が必ずしも明確でなくとも、合理的な行動が示され認識されれば行動変容するようになる。そのための仕掛けまで実装しようというのが、エアークローゼットやAsMamaでした。
 これらから明らかなのは、10年近くの時間を経て、ようやく価値共創マーケティングは実態を捉える視点として認識が広がっているようです。それは、本研究会が注目したような事例に象徴されているとともに、こうした新規性の高いビジネスにおいては、4Cアプローチ(Contact→Communication→Co-create→Value in Context)のうちCo-createからValue in Contextをどう見通すのかが問われます。とりわけこのフェーズに示される顧客の意志や行動が大切であり、これをどのように理論的に一般化できるかが問われます。
 ここまでの研究成果としては、企業と顧客という主体をダイアディックな視点で検討し続けることの意義があったといえます。それは、企業と顧客という主体が関係的でなければならず、それが特別なものでなくなる時代においては、価値共創によって顧客の価値を幅広く検討する必要があるといえる。実践的な面においては、いよいよ顧客への多面的な関与が新ビジネス成功の鍵となる時代だといえます。そこには、ダイアディックな視点からの拡張も見られるようになっており、ますますさまざまな挑戦が期待されるのです。
 

 
4.ディスカッション
Q:CSVと価値共創は何が違うのかという実務家の質問が多い。
A:予定調和に留まらないのが価値共創です。また、社会貢献しようという発想を前提としないし、価値を決めるのは顧客だというのが大切です。Porterの考え方の根底は経営学的な視点であり、予定調和的なものを想定しているでしょう。すると結果として、考え方、取り組みの順番などが異なってきます。価値共創マーケティングでは、文脈を見通しながらいろいろな活動を進めていくことになります。そうしたマネジメントのスタイルが特徴的だといえそうです。
 肝心なのは、顧客にとっての文脈価値をどう高めるかが大切であり、最初からシェアできる価値を規定するのとは違います。価値共創に焦点を置くということが重要なポイントであり、直接的なインタラクションを伴っているかどうかや、共創される価値は文脈価値かなどで判断できそうです。
 
Q:SDGs、社会価値に対しマーケティングも関心が高いと思うが、持続可能なかたちをマーケティングとしてどうつくっていくか、エコシステムに関する研究は深まっていってもよいのではないでしょうか?サービス・エコシステムの研究の進展はどのようですか?
A:この研究会ではダイアディックな検討が繰り返されてきたといえ、ほかのモデルへの関心が不十分でした。この点は、今後考えていきたいと思います。その一方で、顧客の価値の変容や顧客の行動の変容に関心が向けられてきました。顧客の価値をビジネスに取り込んでいくことの重要性を見てきた訳です。サービスによる関係、受けて主導の見方、人間がどう意思決定するのかが大事であり、このことを引き続き考えていきたいと思っています。
 
Q:論文に示されるアカデミックな内容と、実践の場でいま必要なこととの関係が離れていると思うのだが、どうやってこれをつなげることができるのか悩んでいる。
A:実務の課題の解決を目的として大学院の門をたたく人は少なからずいる。この問題意識をアカデミックな視点で解釈することは大切で、アカデミックの場では問題を整理し直していくことの意義がある。また、それに基づいてアカデミックな成果を想定するものの、課題が残るのも事実であり、実践の場ではこうした成果と課題を基に、各自対応してもらうことになる。研究会としては、できる限り実践に接近する努力を図りながら、どこまで実践に落とした話をするかがポイントになると考えている。ハウツーにならない奥行きを大切にしていきたいので、これからも研究会活動に関心を持っていただければ幸いです。
 
(文責:今村 一真)

 
Join us

会員情報変更や、領収書発行などが可能。

若手応援割
U24会費無料 &
U29会費半額
member