リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第4回消費者行動と価格戦略研究報告会「プラットフォーマーが行うレベニューマネジメントとダイナミックプライシング」

#いまマーケティングができること

第4回消費者行動と価格戦略研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:プラットフォーマーが行うレベニューマネジメントとダイナミックプライシング

  1. 解題
    太宰 潮(福岡大学 商学部 教授)
  2. プラットフォーマーが行うレベニューマネジメントとダイナミックプライシング
    木村 隆介(株式会社リクルート データ推進室 アジリティアナリティクスグループ)
  3. パネルディスカッション
    奥瀬 喜之(専修大学 商学部 教授)
    木村 隆介(同上)
    太宰 潮(同上)

 
日 程:2023年3月18日(土)10:30-12:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 今回は、本研究会が近年取り組んでいるメインテーマのひとつであるダイナミックプライシング(以降DP)に焦点を当て、2年前の報告会とはまた異なった形で実務の最先端でDPのサービスを提供されているゲストとして、(株)リクルートのデータ推進室の木村隆介氏をお迎えして開催されました。
 
木村 隆介 氏 研究会リーダーである太宰の解題の後、木村氏の報告が途中の質疑も含めて行われました。ホテル・旅館など宿泊施設におけるDPについてのサービスの様子が解説されるとともに、そのサービスを「現場常駐型」で開発・改善がなされていた。木村氏が提供する「レベニューアシスタント」では、リクルートの宿泊施設検索サービスである「じゃらんnet」へのアクセスや予約等の行動から需要の変動をAIも駆使して予測し、DPを行うことでこれくらいの売上増が見込める、といった表示がなされているユーザーインターフェースとなっている。模擬的な画面を示して頂きながら、価格だけでなく、宿泊人数や食事内容など、プランの各要素を随時変動させることでも、日々移ろう消費者の需要に合わせられる様子を解説頂いた。
 続いて複数あるデータサイエンスのテーマの中から宿泊施設のDPに影響が大きい「イベント検知」と「キャンセル予測」について詳しくお話を頂いた。イベント検知においては、じゃらんnetを有すプラットフォーマーとしてのデータ資源を活用し、宿泊検索数、閲覧数が大きく動く箇所を検知し、DPに応用している様子が解説された。
 

 
 続いて紹介いただいたデータサイエンスのテーマである「キャンセル予測」については、会計のシステムと連動をしているがゆえの難しさがあり、二項分布を用いた数の予測が行われている様子などを解説頂いた。
 木村氏のお話のあとは、続いて専修大学の奥瀬喜之教授をパネラーに迎え、会場からの質問も踏まえて太宰がモデレートする形でディスカッションが行われた。DPについての論文を複数出されている奥瀬教授からは、これまでにはプラットフォーマー視点を扱った論文はほぼ見られないことにまず言及を頂いた。
 はじめの議論としては、事業者の反発や消費者のネガティブな反応など、DPを行う上での課題、負の影響について議論が行われた。議論に加わっていただいた奥瀬教授からは、今までの研究から、Pay What You Want Pricingの事例として、宿泊施設やスポーツ観戦のチケットの価格が、「ゼロ円」や非常に安い価格とされてしまう例が紹介され、価格を変動させる「下限」の部分をどうするかが重要である指摘がなされました。
 事業者としてのネガティブな反応については、木村氏より、既に宿泊施設が価格を変えるのに慣れていること、また価格そのものだけでなく、人数や食事などのプランを変えることも含めて利用されていることや、価格の下限についても設定ができることの解説がなされ、今は事業者や消費者のネガティブな反応はあまり目立たないとのことでした。続いてリピーターなどについても議論がなされ、特定の日に決まって宿泊する常連顧客などには個別対応がなされており、DPが一律に行われているわけではなく、ある程度のカスタマイズが行われている様子を紹介頂きました。
 次いで、会場からも複数の質問が出ていたため、質疑も含めながら議論が交わされました。
 一つ目に他社のプラットフォーム型のDPサービスについて質問がなされ、他社サービスとの違い、他社サービスとの差別化点、競争や市場の推測状況の議論がなされました。
 二つ目には、DPの発展形として個々の顧客ごとに変動がなされるかどうかについて議論がなされ、現時点でも価格以外にプラン詳細などで個々へのカスタマイズができていることから、今のサービスではそこまでは踏み込まないことを踏まえ、その上でセグメント単位の変動をさせる可能性や、顧客の移動距離によっての変動可能性が考えられることなどが議論されました。三つ目の質問では製造業目線でも導入の余地があるかについて質問がなされ、具体的な文献が紹介されました。
 それ以外にも、この分野におけるマーケティング方面の価格研究者が日本では特に不足していることが指摘されるとともに、InformsのRevenue Management and Pricingという具体的な場があることなども話題に上がりましたが、ここでタイムアップとなりました。
 
 プラットフォーマーとしての視点で行われるDPとそのサービスが実際にどう広まっているかについて知見が深まるとともに、参加者の議論も深まり、本プロジェクト上の課題も把握ができた、非常に有意義な時間となりました。木村さん、奥瀬先生、ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
 
(文責:太宰 潮)

 
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