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研究報告会レポート

第10回マーケティング・ツールとしての知的財産研究報告会レポート「ブランディングのための知的財産 ― これまでのアシックスの取組みを踏まえて ―」

#いまマーケティングができること

第10回マーケティング・ツールとしての知的財産研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン)
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テーマ:ブランディングのための知的財産 ― これまでのアシックスの取組みを踏まえて ―
    齊藤 浩二(株式会社アシックス 法務・知財統括部(元知的財産部長))
日 程:2023年3月18日(土)13:00-14:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 今回は「ブランディングのための知的財産 ― これまでのアシックスの取組みを踏まえて ―」と題し、齊藤 浩二氏(株式会社アシックス 法務・知財統括部(元知的財産部長))から、ブランド保護活動をブランディングの一環と位置付けているアシックスのこれまでの取組みを踏まえて、ブランド戦略に資する知財についての発表者の知見をご発表頂きました。
 まず、マーケティング学会という場所の関係上、知的財産に必ずしも詳しくない方が含まれているという配慮を頂き、知的財産とはどういうものかについて、例えば、靴という製品一をとっても、靴底に関する技術的な工夫は特許、デザインは意匠、ネーミングは商標といった数多くの知的財産が含まれている点についてご紹介頂きました。特にアシックスのシューズの側面に描かれた特徴的なストライプのデザインは、実は元々はシューズの上部素材の形状を安定に維持するための補強材の縫製跡がデザインとして残り、今日の商標となった点、そしてアディダスのシンボル3本線や、プーマのシンボル極太ストライプ等も元々は同じ経緯で採用されていたのではないか、というお話は大変興味深いものでした。
 また、アシックスにおける知的財産部という組織についてご紹介頂きました。興味深かったのは、「出しゃばり知財」をモットーにしている、という点です。本研究会では、知財部門とマーケティング部門との連携を研究しておりますのでまさにその実践例という印象を受けました。また厚底は従来、シューズメーカーは安全性や機能性等の理由で避けていたところにナイキがその新しい市場を拓いた事例についてご紹介頂き、競合者がその厚底シューズ市場に参入するためにナイキが市場開拓に併せて構築した特許網を避ける工夫などの努力が必要となっている点をお話頂きました。
 さらに、最近の外部環境の変化としてコーポレートガバナンス・コードが改訂されて知的財産の投資を監督・開示することが上場企業に求められるようになったことを受け、特許に限らず企業価値に結び付くあらゆる知的財産に関する情報の発信が以前よりも重要となっているというご自身の日経新聞からの取材に基づく記事などもご紹介いただきました。
 後半では特にブランディングの一環としての様々な工夫を取り入れた模倣品対策の活動について詳しくご説明を頂きました。特に興味深かった点は模倣品対策を効果的・効率的に計画、実施するために模倣品を3つのグループに独自に分類されていた点でした。具体的には、第一世代はブランド権利者のものではない出所不明の商品にブランド権利者の商標を無断使用した模倣品、第二世代はブランド権利者の正規商品を外観的に全コピー(材料、縫製が粗悪)した模倣品、第三世代は一見すると全コピーだが正規商標を巧みに変造し正規品を装って流通している模倣品で、ものによってはその変造商標を出願・登録して使用している場合もある、という分類です。
 

https://www.jpo.go.jp/news/koho/tizai_koro/2020_tizai_kourou.html
 
 特に第三世代ともなると本格的なプロモーションビデオを作るなどの高額投資しているケースや、模倣品販売店を出店していてその販売店の店員すら模倣品と気づいていないケースもあるというお話は衝撃的でした。そのような模倣品業者との闘いの中で特に印象的だったのは、中国の知財担当局である、工商局や商標局への働きかけの一環として、商標局の機関誌の表紙に正規品と正規商標の広告を出されていた点です。
 ブランドを守るための活動として非常に参考になる情報ばかりでした。最後に特に強調されていた点は、「Do Branding Not Be Branded.」という言葉であり、大変共感できるメッセージだと考えます。

 
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