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研究報告会レポート

第19回医療マーケティング研究報告会レポート「スマートフォンを起点とした健康医療分野のDX」

#いまマーケティングができること

第19回医療マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:スマートフォンを起点とした健康医療分野のDX
日 程:2023年3月18日(土)10:30-12:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】

1. PFS/SIBを用いた価値共創の取り組み
演者:的場 匡亮(昭和大学大学院 保健医療学研究科)

 予防、健康作りにおいては、個人のみならず、企業や自治体などが主体となって取り組む事業が多数あります。行政においては事業の効率化、試行的な取組の推進が求められるなかで、新たな官民連携のスキームとして、PFS(Pay for Success)やSIB(Social Impact Bond)への注目が高まっています。SIBは2010年にイギリスで刑務所出所者の再犯防止プログラムにおいて組成されたものが始まりとされており、医療健康、教育、就労支援、再犯防止、インフラ整備などで活用が進んでいます。本セッションでは日本におけるSIBのスキームを活用した取り組みを浜松市やPREVENT社と実施をしたKDDIの田口氏に登壇いただき、KDDI社における最新の事例を交えながら健康医療分野のDXについて議論を深めます。
 

2. スマートフォンを起点とした健康医療分野のDX
演者:田口 健太(KDDI株式会社 ヘルスケア事業推進部 シニアエキスパート)

 私は医療、ヘルスケア産業に長く関わり、2019年6月にKDDIに入職してから3年強ぐらいサービスを立ち上げてきました。KDDIでは2022年度から始まる3か年の中期経営計画の中で、5G通信などを真ん中に置きつつ、エネルギーや金融と並んでヘルスケアを成長領域として拡大していくと明確に位置付けました。そこで20名程度とまだまだ小さいながらもヘルスケア事業推進部という部が作られ、私はこれを大きな事業に育てていくというミッションを持っています。
 

 
 ヘルスケア領域の本質的な課題は、QCAの鼎立です。QはQuality、サービスの質と量、Aはaccessibility、利用しやすさ、CはCost、財源です。サステナブルな市場に向けて、自己負担率の増加による需要抑制、地域包括ケアシステムの構築による効率的な供給体制の構築などが実施されています。地域包括ケアでは住み慣れた家で生き、家で亡くなるという環境を作っていくわけで、コストが高い医療機関と同質のサービス、ケアをより低いコストで届けることができるかが、問われています。ただ、その最中にCOVID-19が流行して、クラスター発生、受診抑制、日々の健康管理の環境悪化、医療機関等の経営悪化といった課題がさらに上乗せされました。今までは地域包括ケアという供給サイドの変革の話が進んでいましたが、需要サイドも大切で、両方をより効率化していく世界を目指していかないと不十分になる可能性があります。この解決策の一つがデジタル化であり、供給サイドのDXはAI問診、オンライン診療、RPAなど多数あります。需要サイドのDXでは、日常の健康生活からの予防やハイリスクになる瞬間ともいえる未病、セルフメディケーションを含む医療までの様々なステージにあるペインポイントをデジタルで解消していくことを志向します。その中ではPHR(パーソナルヘルスレコード)に根差したサービスがトータルで患者体験を最適化することが求められます。政府も医療DX推進本部を司令塔として、マイナポータルを介した基盤整備や健康医療情報の二次利用促進といった環境整備に取り組んでおり、これと並行して治療用アプリやウェアブルデバイスを活用した民間のPHRサービスも多数登場してきています。
 
 KDDIは通信、デジタルの会社として大規模な個人接点がありますので、これを活用して健康な状態の方も医療が必要な方も、ポータルを通して必要な時に適切なソリューションを体験していただく、需要側のDXを享受してもらえる世界を作ることができる会社だと思っています。それを実現すべく、2020年11月からauウェルネスとポケットヘルスケアという2つのアプリを同時にサービスインさせました。この2つのアプリは連携させていく前提で機能配置をずらしてあり、auウェルネスの方はどちらかというと健康側からポケットヘルスケアは未病から医療を意識していました。それぞれにサービスや機能を追加していき、東京都の大規模導入実証を経て、2021年9月からはauウェルネスに集約し、総合支援を開始しました。その後はこれを起点として、郵送型血液検査サービスの「スマホdeドック」、Apple Watchによる心房細動早期発見の研究、浜松市とPREVENT社との生活習慣病重症化予防事業、ファストドクター社とのオンライン診療連携、PharmaX社とのオンライン薬局連携などに取り組みました。さらにデータ(PHR)利活用に向けた業界全体の集まりであるPHRサービス事業協会の設立にも携わり、産業ビジョンの策定、データ標準化、サービス品質/ルールという3つの分科会のうち、サービス品質/ルール分科会の幹事企業となっています。ここでは個人情報保護やセキュリティ確保、広告のあり方に始まりサービス評価のあり方など、業界全体の品質や信頼性の向上に取り組めたらと考えています。
 

 
 KDDIではauウェルネスというアプリを起点として健康、予防から医療まで様々なサービスを提供することで需要サイドのDXに少しでも貢献していきたいと考えています。こうしたプラットフォームが個人のスマートフォンの中に入ってくれば、健康食品、保険会社、製薬企業や医療機器企業、医療機関、薬局、自治体等々がアプリの中のデータを起点として、これまでとは違う関係性を個人、患者、生活者と持つことができるようになるのではないかと思っています。こうした事業者と幅広く連携をしていきたいと思いますので、ご関心の方は是非コンタクトを取っていただければと思います。
 

3. ディスカッション
進行:原 広司(横浜市立大学 国際商学部)

 講演を受けたディスカッションでは、ヘルスケア事業の主なターゲット(年齢層や行動特性)、スマートフォン×ヘルスケアにおける有力なビジネスモデル、制度的な課題、海外展開などについて幅広い議論が交わされ、報告会が終了となりました。
 
(文責:医療マーケティング研究プロジェクト リーダー 的場 匡亮)

 
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