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研究報告会レポート

第1回生活世界中心のCX理解研究報告会レポート「文化心理学とTEAによる経験の理解」

第1回生活世界中心のCX理解研究報告会(リアル・オンライン併用開催) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:文化心理学とTEAによる経験の理解
講演者:サトウ タツヤ 氏(立命館大学 総合心理学部 教授・学部長)
司 会:杉浦 愛(大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部)
日 程:2023年9月5日(火)18:00-20:00
場 所:立命館大学 大阪梅田キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
講演の様子 本研究会は、CX理解に革新をもたらすことを狙いとしている。第1回研究報告会では、プロジェクトリーダーによる研究会の趣旨説明に続き、研究会の柱であるTEA(複線径路等至性アプローチ)の開発を主導してこられたサトウタツヤ先生に講演いただいた。

 

 まず、文化心理学がどのような考え方をするのかについて解説が行われた。文化心理学では、個人が文化に属すると仮定する比較文化心理学と異なり、文化が個人に属すると仮定する。このとき、文化は記号としてとらえられる。記号とは、何か他のものを表すものである。たとえば、夕焼けを見てきれいだと思うのは行為であるが、夕焼けを見て子ども時代を思い出すのであれば、夕焼けは一つの記号である。この場合、その人は夕焼けに関してある文化を持っているということになる。記号に時間の概念を加えると、未来へ向けた行為を促す「促進的記号」に注目することができる。時間軸において、促進的記号が機能するポイントが分岐点である。さらに、実現したこと(等至点)/実現しなかったこと(両極化した等至点)という軸を設定することで、TEAの根幹を成す手法としてのTEM(複線径路等至性モデリング)が導かれる。
 
 講演の中では、「体験」と「経験」の違いや、TEMとカスタマージャーニーの違い、購入の先にある顧客の願いを探ることの重要性など、CXに関する論点についても議論された。続いて、TEM図を作成する演習が行われた。参加者はペアになって、TEM図を介して対話をすることで、意味づけの土台となる文脈の把握や、分岐点における心理的メカニズムの検討により経験の理解が深まることを確認した。
 講演のハイライトは、サトウ先生が複線性という概念に込める想いだった。ある目標に対しては、本来さまざまな手段が考えられる。目標を達成できない場合は、問題を構造化して新しい手段を発見することが重要である。それこそが、洞察(インサイト)の本質だという。さらに、このように複線性を確立することは、個人の人生においても重要であると強調された。参加者は演習を通じて、自らの未来展望とそこへ至る複線径路について考える機会を得た。講演の締めくくりには、「北極星的展望をもて」「イマジネーション(構想力)をもて」「人生の全体像を構想して複線化せよ」という力強いメッセージが贈られた。今回の講演は、TEAという研究方法の背後にある世界観を知り、新しいCX理解の土台を固めるという点で、貴重な機会となった。
 本研究報告会には、会場とオンライン合わせて30名程の方々に参加いただいた。会場の熱量は高く、懇親会でも活発なやりとりが行われた。参加者にとって促進的記号が発生したのであれば幸いである。
 
(文責:小菅 竜介)

 
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