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研究報告会レポート

第1回学びとマーケティング研究報告会レポート「改めてPBLの可能性を探る ― Z世代を巡るいくつかの神話を元に ―」

第1回学びとマーケティング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:改めてPBLの可能性を探る ― Z世代を巡るいくつかの神話を元に ―
日 程:2024年3月7日(木)15:30-18:00
報告者:松尾 尚(産業能率大学 教授 / 研究会リーダー)
    春木 良且(昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員)
ゲスト:青木 翠玲(一般社団法人先端社会科学技術研究所)
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 本研究会は、マーケティングの観点から、特に高等教育におけるPBLを中心としたアクティブラーニングをテーマに運営している。今期は、PBLにおける学習者にフォーカスを当てて研究活動を行ってきた。現在の大学生を含んだ若者世代は、「Z世代」という呼称を持ち、昨今では様々な観点から興味を持たれ、分析されてきている。
 いつの時代でも、若者世代は主流の文化とは異質な属性を持った集団として扱われて来ているが、ことZ世代に関しては、完全なデジタルネィティブであり、パンデミック環境下での教育という、特異な経験を持っている。そのため、世代的な特性に関しては、神話とも言うべき扱いをされているというのも否定できない。
 本研究会では、そうした集団に対する教育現場での試行などを、事例として取り上げてきたが、本報告会では、それらの総括をすると共に、社会の非対称関係に着目した、PBLの新たな方向性に関して議論した。本報告会は、以下のとおり2部構成として実施した。
 
プログラム:

  1. 研究部会報告と今後 春木 良且(昭和女子大学現代ビジネス研究所 研究員)
  2. 対談で考える、Z世代との学びとマーケティング
    第1部:Z世代神話の正体
       対談)松尾 尚(産業能率大学 教授)
          青木 翠玲(一社先端社会科学技術研究所)
    第2部:Z世代によるPBLの本質
       対談)松尾 尚(産業能率大学 教授)
          春木 良且(昭和女子大学 現代ビジネス研究所 研究員)
  3. まとめ

 
1.研究部会報告と今後(春木 良且)
 2023年度の本リサーチプロジェクトの研究内容について振り返りを行った。
 従来の研究課題としては、主に教える側に纏わるものが主流であり、効果的な課題設定や学習プロセス管理などが主な興味の範疇である。本研究会では、それらとは異なり、学習者である学生、生徒側にフォーカスを当ててきた。
 スマホの一般化やSNSの登場など、多くの技術的なトレンドを経過し、パンデミック期におけるオンライン学習を経験してきた若年層は、ことデジタル技術の接触という観点からは、黎明期のデジタルネィティブたちとは、明らかに多くの相違点があるように思える。学習者の特質を抜きに社会連携型の学びは考えることはできないとの認識に立ち、直近の社会連携型PBLの事例研究を通じて、現在の学習者の特性にフォーカスを当てたのがこの1年の活動であった。
 
2.対談で考える、Z世代との学びとマーケティング
第1部:Z世代の特性に関する議論(松尾 尚・青木 翠玲)
 最初のセッションでは、松尾教授と青木氏により、Z世代の特性に焦点を当てた意見交換が行われた。議論のための問題提起として、松尾教授より、特にPBLを展開する上で、Z世代の学生はそつなくグループワークをこなすこと、特に深い議論などを経ずに、それなりの解を導き出すということなどの実例を挙げた。そしてそれに対する、教育側としての疑問や特に実社会を考えたうえでの危惧を提示した。それを受けて、青木氏は自らの経験から、Z世代が早い段階からの発信経験に着目し、「ことなかれ主義」的に個性を喪失する傾向があることを指摘した。
 
第2部:PBLについての対談(松尾 尚・春木 良且)
 後半のセッションでは、松尾教授と春木がPBLに焦点を当てた対談を行った。松尾教授の20年以上の教職経験から、かつての学生と現在の学生に共通する要素は多いが、昨今のZ世代特有の傾向として、対談第一部で指摘したような、PBLにおけるそつの無さ、意見の同質性がもたらす高すぎる効率性・生産性が目に付くということを強調した。そうした背景もあり、学びにコスト意識を導入することの、PBLにおける効用について指摘した。現実社会に即したコスト自体を学びの要素として包含することで、より本音ベースの学びとなる傾向があることを指摘した。
 コスト意識のない意思決定の例として、SIPS時代の消費者行動を上げた。かつてのマーケティングの消費者購買モデルであるAIDMAや、それに続くネット時代のAISASモデルにおいても、購買(Action)は消費行動プロセスの一要素を占めていた。しかし、現代のソーシャルメディアが商品選びや購入方法に大きく影響を及ぼす現在では、SIPS、つまり、共感(S)・確認(I)・参加(P)・共有と拡散(S)の行動プロセスとなり、その中に購買=Actionは含まれていない。購買(A)という自己リスクを負わなくとも、意思決定プロセスに参画できることがこの世代に特有のものであり、だからこそ、PBLの場においても同調や安易な意見集約が起きるのではとの問題提起を行い、対談を終了した。
 
3.まとめ 報告会を終えて
 本研究会では、特に社会連携型PBLを展開するにあたっての、学習者の特性に着目して事例などを分析して来た。結論として、松尾教授の指摘通り、ことさらZ世代、若者の特徴として喧伝されること自体、決して当該世代に特徴的なものではない要素が多く、まさに神話的な扱いがなされているということを改めて確認した。
 戦後の長い民主教育の成果と昨今の情報技術の進歩やコンテンツの充実から、相対的に若者世代に関して言えば、知的レベルが相対的に高く、そのひとつの表れとしてのそつの無さという特徴であることが、改めてわかって来た。カンファレンスでの事例分析でも痛感したが、どういった領域でも、学生達が自覚的にコミットすることで、連携先にもいい意味での活性化を呼ぶという効果は明らかである。本研究会の問題意識にもあるが、社会連携の学びこそが、ある種のコンテンツマーケティングとも言うべき活動でもあり、エンゲージメントの獲得という側面でも効果が高いということが、改めて理解できた。
 本研究会の今後としては、特にアフターコロナのトレンドとして見えて来た、学生層以外に対する学び、リカレント教育やリスキリングと呼ばれているトレンドに着目し、新たな研究テーマとして俎上に上げていきたいと考えている。
 尚、本研究会の内容は、以下のYoutubeで公開している。
https://youtu.be/rLQWDYdmBw4
 また音声に関しては、以下のVoicyチャンネルで公開予定である。
https://voicy.jp/channel/3445
 
(文責:春木 良且)

 
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