リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第7回サービス・マーケティング研究報告会レポート「顧客経験とウェルビーイング ― ヘドニアとユーダイモニアを中心に ―」

第7回サービス・マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り・オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:顧客経験とウェルビーイング ― ヘドニアとユーダイモニアを中心に ―
ラウンドテーブル討議:
 小野 譲司 氏(青山学院大学 経営学部 マーケティング学科 教授)
 酒井 麻衣子 氏(中央大学 商学部 准教授)
 山岡 隆志 氏(名城大学 経営学部 教授)
 落原 大治 氏(法政大学大学院 経営学研究科 博士課程)
 森藤 ちひろ 氏(関西学院大学 人間福祉学部 教授)
 
日 程:2023年3月18日(土)14:45-16:15
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 2023年春のリサプロ祭りにおいて、サービスマーケティング研究会の第7回研究会を開催した。本研究会では、ウェルビーイングとマーケティングをテーマに、ウェルビーイング(WB)に関わるマーケティング研究、消費者行動研究、サービス研究の知見を整理するため、文献レビューと並行しながら、変革的サービス研究や幸福の心理学をご専門とする研究者のゲスト講演を行った。第7回では、マーケティング研究においてWBをどう考えるかを研究会企画運営メンバーによるラウンドテーブル討議で、ヘドニアとユーダイモニアという2種類のWB概念を中心に、心理学や経済学で研究が蓄積されているWBをマーケティング研究でどう取り扱うか、何が明らかになるか、どのような実務的示唆があるか、を議論した。
 
 酒井氏は「ウェルビーイング概念とマーケティングにおける測定」をテーマにして、実務界、研究界のどちらにおいても、あらゆる分野でウェルビーイングへの関心が高まっているが、分野によってその定義や範囲も大きく異なることを指摘した。そのうえで、多様なウェルビーイング概念と測定尺度に関して、先行研究を概観し、マーケティング研究における課題について以下の4点にまとめた上で、今後、当研究会として考えられる対応を提示した。
 

  1. 目的に即した適切な既存尺度の選択が難しい
  2. 消費行動におけるウェルビーイングの位置づけが不明確
  3. 消費経験との関係を捉える代表的な尺度が確立されていない
  4. 日本の価値観や文化を反映できていない可能性

 
 山岡氏は「アドボケイト活動はwell-beingを高めるのか?-顧客経験からヘドニアとユーダイモニアへの影響-」をテーマに、ブランドに対する支援や推奨といったアドボケイト活動が、顧客のウェルビーイングの向上にどのような影響を及ぼすかについて論点を提示した。同氏の研究結果から、顧客経験からの直接効果としては、ユーダイモニックWBよりヘドニックWBの方が高まりやすいが、アドボケイト活動はヘドニックWBよりユーダイモニックWBを高める効果が高いことを報告し、議論した。
 
 さらに、落原氏は「インスピレーションがもたらす顧客経験におけるウェルビーイングの検討」のテーマで、ヘドニックWBの消費は個人と集団での対立もたしやすいが、外部不経済の内部化した商品の購買などユーダイモニアWB消費は個人と集団を包含したWBをもたらす可能性を指摘した。同氏は、ユーダイもニアWB消費を促すためには「意味づけ」「目標設定」が重要であり、この「意味づけ」「目標設定」はインスピレーションの結果としてもたらされることを既存研究の事例を基に紹介し、今後の研究課題について指摘した。
 
 森藤氏はソーシャルウェルビーイングという概念から「地域住民の集合的ウェルビーイングの創造-奈良県吉野郡吉野町を事例に-」をテーマに報告した。ソーシャルウェルビーイングとは、社会的な相互作用、人間関係の深さなどに関連したウェルビーイングである。
 
 本報告では、地域住民のソーシャルウェルビーイングを高める方策について奈良県吉野郡吉野町を事例に考察した。すなわち、先行研究では、地域内の社会関係資本と地域の幸福に影響関係があると言われている。吉野町の地域活性化の取り組みは関係人口の増加をもたらしており、関係人口として吉野町に関わる地域外の多様な人たちと住民の間の橋渡し型社会関係資本が課題解決に寄与すると考えられる。吉野町で実施された予約型乗合(デマンド)バスの実証試験後の住民アンケート調査から、Maasにおけるデジタルデバイドの問題が浮き彫りになった。関係人口の人たちが地域のデジタル推進のサポートを行うことによって住民のウェルビーイングを高められることを指摘した。
 
 これらの研究テーマを中心にして、ウェルビーイングとマーケティング研究に関する様々な論点が提示され、参加者からの質疑応答を含めて、今後の研究につながる多くの示唆をいただいた。
 
(文責:小野 譲司)

 
Join us

会員情報変更や、領収書発行などが可能。

若手応援割
U24会費無料 &
U29会費半額
member