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研究報告会レポート

第30回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「場所と人の関係を捉えなおす移動縁」

第30回プレイス・ブランディング研究報告会(三都市カンファレンス:東京会場> 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:場所と人の関係を捉えなおす移動縁
講 演:移動前提時代における移動者と連携した地域ブランディング
講演者:敷田 麻実 氏(北陸先端科学技術大学院大学 教授)
ファシリテーター:長尾 雅信 氏(新潟大学 准教授)
日 程:2025年3月8日(土)13:30-14:40
場 所:法政大学 市ケ谷キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 本年度を締めくくる三都市カンファレンスでは『移動縁が変える地域社会:関係人口を超えて』(水曜社)の編著者である敷田麻実先生を迎え、「移動縁」をテーマに場所(プレイス)の可能性を考えていきました。
 
講演の様子
 
 敷田教授が提唱する移動前提社会とは、移動によって利益や不利益がでるような移動がベースとなる社会のことです。
 まず移動を3つに分けると、一つは通勤や通学といった日常生活圏の中での移動があり、その対極に移住に代表される日常から非日常空間への移動があります。その中間として、日常から非日常への移動だが戻る可能性のある移動があります。それは最も捉えにくい移動ですが、価値が生み出されやすい移動とも言えます。
 日本は江戸時代の定住社会から現代に向けて少しずつ移動社会へと変化してきました。実際に移動が始まったのは1950年代の高度経済成長で、1990年代から始まるIターンや地方移住、2010年代後半からは田園回帰のライフスタイル移住や関係人口といった動きが出ています。戦前は600万人もの日本人が海外で移民となっており、その意味で流動性が高かったと言えます。近年、先進国の移民割合は10%から14%に増加しており、自分が支持する社会への移動という動きが出てきています。移動前提社会とは移動しないと生活を続けていくことができない、もしくは移動することによって豊かになれる移動が私たちの「基本的人権」ともなる社会とも言えます。
 その際には移動動機がポイントとなります。移動に求めるものとして、メリットを求めるか、それともユートピア的な楽しみを求めるか、地域で生産をするか消費をするかという2軸で移動者を4つに分類することができます(図1)。地域で生み出された価値を消費するメリット志向は観光客に代表される商品やサービスの消費や非日常体験を求める移動者で、地域で生み出された価値を消費するユートピア志向は、アメニティや地域とのつながりを求める移動者です。また、地域で価値を生み出し提供する移動者の中でメリット志向は、地域に移住して起業するような自分に有利な条件・環境を求める移動者で、地域で価値を生み出し提供する移動者の中でユートピア志向は、地域おこし協力隊員のような地域課題の解決や理想的な地域の実現を目指す移動者です。
 
移動同期による移動者の分類
図1 移動同期による移動者の分類
 
 移動前提社会においては「よそ者」という概念も重要になります。移動先では全員がよそ者になるからです。よそ者というのは、実に多くの言葉に言い換えられていますが、重要な点は出ていく可能性がある人だということです。
 これは地域だけではなく、組織について考える時にも非常に重要になります。よそ者は、出ていく可能性、すなわち逃げ出せる可能性を持っているので「しがらみ」がないからこそ、思い切った行動ができ、組織にとって期待される人となれるからです。
 次にこのよそ者性を、地域資源を所有しているか否かの軸と、商品やサービスに関する消費と生産の関係で分類します(図2)。この分類によると、よそ者は①地域資源を所有せず、もっぱら地域で商品やサービスを消費する第1種よそ者、②地域資源を所有し、商品やサービスを消費する第2種よそ者、③製品・サービスを生産する第3種よそ者に分けることができます。地域の中にいて、この3者の活動の世話をしている人が、私たちが「地域の人々」と認識している人たちになります。オーバーツーリズムは、この3者のよそ者が膨らみ、地域の人々がかすんでしまった状態と言えるでしょう。外から入ってくる人に対する期待はありながら、その期待が過度になっているのが現在であり、実際は、よそ者がいたからうまくいったのではなく、まさに相互関係の中で役に立つか立たないかというのが決まってくるのです。
 
よそ者と内部者の分類
図2 よそ者と内部者の分類
 
 関係人口の重要性も2016年頃から強調されるようになりましたが、関係人口の持つ問題点は、地域に役立つ人たちだけを選んで地域に呼んできてしまうということです。関係人口の人たちは、必ずしも地域の役に立ちたいと思っていないかもしれないし、ユートピア志向や何らかのメリット志向で来る人もいます。関係人口は約束された助っ人ではないということに私たちは気づかなければいけないでしょう。
 出版した書籍『移動縁で変える地域社会』では、たまたま来た人が役立つ方が本当ではないかということで、移動縁を提案しています。たまたま移動してきたために生ずる縁が展開していくという方が、身近でよく感じている現象であり、ダイナミックな関係ではないでしょうか。
 場所(プレイス)との関係で、プレイスをブランド化するというのは地域単位の好ましいブランド・イメージの構築だと考えます。しかし将来どのような地域にしたいかを考えるのは定住者を前提としているのではないでしょうか。移動者がほとんどを占める社会になると、移動する人たちも含めてブランディングしていく必要が出てくるでしょう。移動前提社会におけるプレイスは、場所ではなく、ある種のプラットフォーム化していくのではないでしょうか。人が常に往来する中で、プラットフォームで価値を創っていける。偶然の出会いをプラットフォームによって価値に変えていく、新しいブランディングの考え方が議論で来るのではないかと思います。移動者と地域に少し長く滞在する人たちが「ブレンド」されて関係を作っていく、地域の中で新たな関係ができるという関係人口をこれから重視していく必要があるでしょう。価値は偶然から作り出せる時代に入っているのです。
 講演の後は、長尾先生のファシリテートの下、活発な議論が行われました。「移動縁」というキーワードに何かを感じられた方はぜひ『移動縁が変える地域社会:関係人口を超えて』(水曜社)を手に取っていただきたいと思います。新しい地域と人の見方を提供してくれるのではないでしょうか。
 
講演の様子

 
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