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第16回ユーザー・イノベーション研究報告会レポート「『ぺんてる』は、なぜユーザーイノベーション推進課を新設したのか?」 |
第16回ユーザー・イノベーション研究報告会(三都市カンファレンス:東京会場) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「ぺんてる」は、なぜユーザーイノベーション推進課を新設したのか?
- 「戦略」としてのユーザー・イノベーション
西川 英彦(法政大学 経営学部 教授) - 「ぺんてる」のユーザー・イノベーション戦略
田島 宏(ぺんてる株式会社 執行役員 サステナビリティ推進部長) - 対談・質疑
西川 英彦(同上)・田島 宏(同上)
日 程:2025年3月8日(土)12:10-13:20
場 所:法政大学 市ケ谷キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
はじめに、法政大学の西川より、解題として「『戦略』としてのユーザー・イノベーション」の報告が行われた。アンゾフの成長マトリクスをもとに、無印良品やワークマン、LEGOを題材に、各社がユーザー・イノベーションの活用を梃子に、市場や製品の事業領域を拡大し、当初想定していた以上に多角化している事例が解説された。その先進事例として、2023年4月に、おそらく史上初となる「ユーザーイノベーション推進課」を新設した大手文具メーカーの「ぺんてる」の戦略を理解する意義が示された。
それを受けて、その中心人物である同社の田島氏より、「『ぺんてる』のユーザー・イノベーション戦略」の報告が行われた。同社には、文具事務用品市場よりアート市場を成長しているという外部環境や、創業のきっかけでもあるユーザーの深い理解が現在は疎かになっているという内部環境の課題があった。その機会や課題解決に向けた戦略の1つとして、アート市場に向け、ユーザー・イノベーションを活用するという方針が策定された。
しかし、従来のターゲットや製品開発手法と大きく異なるために、小さな成功事例を達成し、徐々に組織風土を改革していく必要があると考えられた。その小さな成功事例として、ユーザー・イノベーションをもとに同社初のクラウドファンディングを実施することや、それを運営するための専任部署として、「ユーザーイノベーション推進課」が新設された。
その候補となるユーザー・イノベーションを知ったきっかけは、2021年12月にYouTubeで話題になっていた水彩画家の柴崎春通氏による「ぺんてるクレヨンをプロの画家が使い倒すとどうなるか?!」という動画であった。同社の「ファンを取材するマガジン」の取材のために、2022年3月に田島氏がアトリエを訪問した際に、柴崎氏から「なぜ、ぺんてるは、子どものためだけにクレヨンをつくるのか」という問いをうけ、いままで常識に囚われたことに気づき、大人向けのクレヨンの開発に着手する。8月にはプロトタイプが完成し、柴崎氏より高評価を得た。2023年4月に「ユーザーイノベーション推進課」が設置され、商品名は「アートクレヨン」となり、11月からクラウドファンディングが開始された。
その結果、支援購入数4,000セット、支援者の数2,600人、支援金額1,900万円と成功をおさめた。2024年10月には一般販売がはじまり初日で完売し、1ヶ月で年間売上計画を超え増産された。さらに、アートクレヨンを使うアーティストや、アート関連企業とのコラボレーションにまで発展した。今後もアート企業化するために、新たな商材でのユーザー・イノベーション戦略を継続していくという。このように、ぺんてるが、ユーザー・イノベーションを梃子に、市場と製品の事業領域を拡大していることが明らかとなった。
最後に、互いの報告を聞いた、西川と田島氏との対談が行われ、その後、参加者との質疑応答があり、セッションを終えた。本セッションを通して、ユーザー・イノベーションの戦略的活用が、多くの企業に広がっていくことを期待する。
(文責:西川 英彦)

