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第23回医療マーケティング研究報告会レポート「地域価値共創としての医療サービス再設計:聖マリア病院×頴田病院の挑戦」 |
第23回医療マーケティング研究報告会(複都市カンファレンス:福岡会場)> 研究会の詳細はこちら
テーマ:地域価値共創としての医療サービス再設計:聖マリア病院×頴田病院の挑戦
日 程:2026年2月28日(土)15:30-16:50
場 所:福岡大学およびZoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
1. 病院は地域で何を共創するのか
演者:的場 匡亮(昭和医科大学 保健医療学研究科)
高齢化や人口減少、在宅・介護需要の増大により、より高度に治すだけでは応えきれない課題が増えている。これからの病院には、「治す」に加えて「支える」役割が求められ、診療の場としてだけでなく、地域における中核機関として再設計される必要があることを問題提起した。
2. 医療を核とした地域価値共創構想「聖マリア病院前駅」への駅名改称を起点として
演者:井手 大志(社会医療法人雪の聖母会 聖マリア病院 副理事長)
井手氏はまず、2070年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率も大幅に上昇する見通しであることを示し、こうした状況では、現在の都市構造や医療提供体制をそのまま維持することは困難であり、病院だけで完結する医療モデルには限界があると指摘した。急性期治療(Cure)を中心とする病院完結型から、生活の場での慢性期・在宅ケア(Care)を重視する地域完結型への転換が不可欠であり、医療は病院という「箱」から地域へ還流しなければならないと述べた。そのうえで、「病院が都市の重心を支える存在になりうるか」という問いを提示した。
さらに、これからの病院は単なる医療施設ではなく、地域経済、雇用、投資を支える「アンカー・インスティテュート」として機能すべきだとした。米国のMayo Clinicを例に挙げ、医療・商業・住居を空間的・経済的・社会的に統合することで、都市そのものの価値を高めてきた点を紹介し、日本でも病院を地域の基盤として位置づけ直す必要があると論じた。

具体例として示されたのが、2024年3月の西鉄天神大牟田線「聖マリア病院前駅」への駅名改称であり、これは単なる駅名変更ではなく、「都市の重心を医療へシフトさせる宣言」であり、「都市OSの書き換え」と位置づけた。高齢社会において、自家用車依存から脱却し、通院を公共交通という生活動線のなかに組み込むことは重要な意味を持つ。駅と病院を中心として、半径1km圏内に買い物、住居、ケアといった生活機能を集積させることが、持続可能な地域社会を構想するうえで鍵になるとした。聖マリア病院の実践は、医療を地域価値創出の中心に据え、都市そのものを再設計しようとする試みとして提示された。
3. 地域に開かれた病院づくり〜総合診療医とコミュニティホスピタルの挑戦〜
演者:吉田 伸(頴田病院 総合診療科長・院長補佐)
吉田氏は、福岡県飯塚市に位置する96床の頴田病院を事例に、総合診療医とコミュニティホスピタルによる小病院再生の実践を報告した。頴田病院は、かつて旧市立病院として厳しい経営状況にあったが、2012年の新病院開院を経て、地域急性期を担う飯塚病院と機能分担を行いながら、プライマリ・ケア、包括的入院医療、在宅医療といった、地域に必要でありながら担い手が不足しやすい領域を引き受けていることが示された。
講演の中心となったのは、「コミュニティホスピタル」という考え方である。吉田氏は、これを概ね200床以下で地域包括ケア病棟を有し、在宅看取りを担い、プライマリ・ケア外来(かかりつけ医機能)を持ち、総合診療医が外来・入院・在宅をシームレスに提供する組織として説明した。高度専門分化した大病院とは異なり、幅広い診療能力を持つ総合診療医が、患者を疾患単位ではなく、一人の人間として捉え、生活や家族背景も含めて支える点に特徴があるとした。
頴田病院のバリューチェーンは、総合診療外来、ケアミックス病棟、在宅医療の三位一体で構成されている。0歳から100歳まで家族全体を診ることができ、複数疾患を抱える高齢者に対しても、一か所で継続的に診療を受けられる利便性を提供していることが強調された。また、この体制を支えるために、飯塚・頴田の研修プログラムでは総合診療専門医の育成を進めており、地域の公衆衛生活動や災害支援にもつながる人材基盤を形成している点が示された。

吉田氏は、日本では200床以下の小病院が多数を占め、その多くが医療者不足や赤字経営、都市部での医療の分断、へき地離島での資源集約化といった課題に直面していると指摘した。そのなかで、総合診療医とコミュニティホスピタルという二つのキーワードは、小病院を地域に開かれた病院へと再設計するうえで、現実的かつ展望のあるモデルとして提示された。
4. ディスカッション
ディスカッションでは、規模や立場は異なるものの、病院を「病院の中」で完結させるのではなく、地域の生活、移動、在宅、教育、就労といった文脈へ接続し直そうとしている点が共通していることが確認された。総合診療医が増えていくための課題、大病院からリソースの限られた在宅医療などへ踏み出す際のリアリティショック、何をもって成果(KPI)とするのかといった論点が共有され、他地域への転用可能性も含めて、活発な意見交換が行われた。
(文責:医療マーケティング研究プロジェクト リーダー 的場 匡亮)

