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研究報告会レポート

第11回オムニチャネル研究報告会レポート「マーケティングDXの現在地と論点」

第11回オムニチャネル研究報告会(複都市カンファレンス:東京会場)> 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:マーケティングDXの現在地と論点
日 程:2026年2月28日(土)14:00-15:20
場 所:法政大学 市ケ谷キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
講演の様子 オムニチャネル研究会報告は、「マーケティングDXの現在地と論点」をテーマに実施された。本研究会では、マーケティングDXを単なる業務のデジタル化としてではなく、顧客価値および競争優位の再構築という観点から捉え直すことを目的とし、解題報告および3本の研究報告が行われた。研究報告後には、報告者と参加者によるディスカッションを通じて、マーケティングDXの本質的課題と今後の方向性について検討が行われた。
 
1. 解題「マーケティングDXとは何か」

近藤 公彦(北海道武蔵女子大学)

 本研究会全体の導入として、近藤 公彦(北海道武蔵女子大学)によりマーケティングDXの概念整理と問題提起が行われた。多くの企業においてDXが推進されている一方、その実態は既存業務のデジタル置換(デジタイゼーション)や、MA・CRM等ツール導入による部分最適にとどまり、「偽のDX」に陥っているケースが少なくないことが指摘された。その上で、マーケティングDXの本質は、デジタル技術を通じた顧客価値の再定義と競争優位の再構築にあると述べられた。具体的には、①データ活用による意思決定の高度化、②顧客体験(CX)を軸とした価値創造、③部門最適を超えた組織・文化の変革、という3つの核心的論点が提示された。
 
2. 第1報告「ラストマイルDX」

丁 明(敬愛大学)

 丁 明(敬愛大学)の報告では、EC市場の拡大と物流制約の深刻化を背景に、ラストマイルが企業競争力の重要な源泉へと変化している点について説明がされた。日本のBtoC物販EC市場は15兆円規模に達し、ECは「第二の小売業態」として位置づけられる一方、2024年問題に象徴される輸送能力不足が顕在化している。そのような環境下において、企業はラストマイルDXを「物流の効率化」にとどめず、顧客とのデジタル対話を通じた「静かな接客」として捉える視点が提示された。また、配送状況の可視化、日時・場所指定、通知、返品対応などの一連のプロセスは、顧客に安心感とコントロール感を提供する重要な顧客体験であり、物流の終点であると同時に顧客体験の始点であると位置づけられた。一方で、顧客の期待する「今すぐ・ここで・無料」をすべて満たし続けることは持続不可能であり、配送オプションの選択制や外部プラットフォームの活用といった戦略的設計が不可欠であることが指摘された。そして最後にラストマイルDXにおいては、どの体験を自社の競争軸とするかが経営課題となる点が強調された。
 
3. 第2報告「店舗DXと顧客体験」

関 隆教(小樽商科大学)

 関 隆教(小樽商科大学)の報告では、店舗DXを「デジタル技術を活用して、店舗における業務プロセスの効率化と顧客体験の向上を実現し、競争優位を構築するビジネスモデルへと変革すること」と定義し、コロナ禍以降に加速した店舗DXの課題を検討した。課題を浮き彫りにするために、ITを駆使して低コストでグルメバーガーを提供する業態「ブルースターバーガー」の事例が取り上げられた。同社は、注文・決済の完全デジタル化によるオペレーション効率化を通じて低価格を実現したが、店員との対話などをサービス提供プロセスから切り離した結果、顧客体験が希薄化し、2年足らずで撤退に至った。この事例は、業務効率化志向の店舗DXが必ずしも顧客価値向上につながらないことを示しており、店舗DXでは業務効率と顧客体験のバランス設計が極めて重要であることが示唆された。また、デジタル技術と従業員の役割分担とシナジーをいかに設計するかが、今後の店舗DXの鍵であると結論づけられた。
 
4. 第3報告「マーケティングDXを阻む『見えない壁』」

杉田 慎一郎(国際ファッション専門職大学)

 マーケティングDXが停滞する理由は、単なる技術不足や予算の問題ではなく、企業が成長のために備えた組織のメカニズムそのものにある。それは、現状維持を求める「組織の慣性」、過去の成功体験が学習を阻害する「コンピテンシートラップ」、かつての競争優位が硬直化する「コアリジディティ」の「3つの壁」である。
 これらの壁を突破し変革を進めるには、3つの処方箋が有効だ。第一に、既存事業とDX推進組織を分け、異なる評価軸で運営する「出島」戦略による「両利きの経営」の実践。第二に、ビジネスと技術をつなぐ「翻訳者」を育成し、「小さな成功」を積み重ねて組織のアレルギーを解消すること。そして第三に、リーダーが変革の「なぜ(Why)」を繰り返し語り、過去の成功体験を否定する痛みを引き受ける覚悟を示すことである。
 壁の正体を直視し、組織の構造的な難しさを前提に対策を打つことこそが、マーケティングDXを成功へ導く鍵となる。
 
5. 総合ディスカッション
 近藤(小樽商科大学)、丁(敬愛大学)、関(小樽商科大学)、杉田(国際ファッション専門職大学)を交えて、オムニチャネルの取り組み、マーケティングDXの本質的課題と今後の方向性についてパネルディスカッションが行われた。会場からは「アマゾン・ゴーのリアル店舗事業からの撤退をどう考えるか」など質問があり、活発な質疑応答が行われた。
 
(文責:関 隆教・近藤 公彦)

 
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