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研究報告会レポート

第41回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「価値共創のマネジメント:価値共創マーケティングの実践について」

第41回価値共創型マーケティング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:価値共創のマネジメント:価値共創マーケティングの実践について
日 程:2023年6月18日(日)13:00-15:45
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
研究報告「価値共創のマネジメントと新たなビジネス創造の仕組みに向けて」

藤岡 芳郎 氏(大阪産業大学 経営学部 教授)

 藤岡先生は、サービスの受け手の顧客(本研究会においてはクライアント企業の場合を含む)にとっての価値の共創がマネジリアルな議論への接近に乏しいと考えられがちですが、価値共創マーケティングの視点をいかに新たなビジネス創造に結びつけることができるのかについて、研究の成果を披露いただきました。とりわけ、顧客の生活世界を舞台としたビジネスの進め方とはどのようなものなのかについて、理論的な背景および考え方を整理していただきました。
 今回の研究会では、地域の課題解決を担うコミュニティ・ビジネスを事例としていて、その考え方は先行して本学会のワーキングペーパーにも示されています(cf: 藤岡(2021)「価値共創マーケティングの概念化に向けた一考察~コミュニティ・ビジネスの共創プロセス」)。今回ご報告になった内容の要点は、サービスの受け手たる顧客の文脈を高めるためのマネジメントへの接近にあります。顧客に生じている問題の背景や問題解決のプロセスに、どれくらい企業や組織が関与でき、さまざまな取り組みを想定できるか否かが大切です。この取り組みは、事前に取引を規定する従来の企業活動観や市場観では説明できないということでした。顧客の生活時空間を舞台としたインフォーマルな場でのプロセスが重要であり、それは雑談や対話から生まれることもあります。サービスの与え手は受け手の話を傾聴し理解することで、問題認識を共有できます。このときサービスの与え手にとって大切なのは、両者(コミュニティ・ビジネスの場合は複数のプレーヤー)の主体的な関与にあり、望ましい活動を促進し、駆動させる影響力を持つことです。気を付けなければならないのは、こうした実践のプロセスの中で価値がサービスの与え手にも認識され、できることが決まっていきますので、マネジメントサイクル(いわゆるPDCA)が使えないことです。事前に何を実行するか計画したうえで行動する考え方は、価値を事前に規定することと同義になりやすく、サービス社会における価値共創に馴染みにくいというのです。この問題をどう克服することができるのかが課題であるというのが、藤岡先生のお考えでした。つまり、顧客の生活世界で認識し得るサービス提供に基づく文脈価値とこれを舞台に成立する企業活動は、従来型の企業活動がまったく馴染まないものなのかについて、さらに検討する必要があるというのが、藤岡先生のお考えでした。この具体的な部分は、続く山之内氏のご講演に示されることになります。
 

 
講演「価値共創によるコミュニティビジネスの創造と成果」

山之内 敦 氏(BCCA代表理事 / 摂津ビジネスサポートセンター長)

 山之内氏はITのシステムづくりからキャリアをスタートさせましたが、その後、建築や健康産業でのご勤務を通じて、中小企業の支援やまちづくりへとお仕事の幅を広げて今日を迎えていらっしゃいます。クラウドファンディングをはじめセミナーを行っていらっしゃるほか、関心を持っていただいた企業から相談を受けて、商品開発なども進めていらっしゃいます。
 山之内氏は、地域の課題解決としてコミュニティ・ビジネスを創出したいと思って、大東市や摂津市の取り組みに着手されました。ちょうどコロナの感染拡大の時期と重なり、着手した当初、大東市はカゴメとコラボしていましたが、市民の方との連携が難しい局面において、クラウドファンディングの仕組みも活かして、その活動を活発化させていきます。具体的には、カゴメは野菜の接種量をチェックする機器を用いて、トマトを含めた野菜の利活用を増やそうとしていましたが、肝心の目的抜きに企業側の期待は成就しません。そこで食育プロジェクトを推進し、その中にカゴメの期待を位置づけることで、子育て中の親子が数多く参加するプロジェクトが軌道に乗り、機器の利活用も増やすことができました。山之内氏によってその後、食育プロジェクトは「子育てコミュニティ『ハニカム』を構築」する中に位置づけていくようになります。地域コミュニティに必要な取り組みは継続していくことになっていきます。
 大東市ではほかにも、図書館の絵本読み聞かせの取り組みがあったのですが、ここでも『ハニカム』の取り組みが効いてきます。このときにもクラウドファンディングを用いてイベントの周知を図りつつ、ベースとなる取り組みは『ハニカム』のコミュニティが主体となることで、次第に“母親のやりたいことを実現するコミュニティ”が具現化していきます。活動を継続し企画に応じてプレーヤーが増えていくことで、コミュニティ・ビジネスも機能するようになります。このほか大東市では、「morinekiのまち」にみられる街づくりにも特徴があるのですが、ここでも独創的な都市景観が生まれるだけでなく、民間主導の公民連携で住宅に加え商業を巧みに併設し、豊かな生活と活動の場を実現していきます。
 山之内氏は摂津市でも特徴的な取り組みを推進していらっしゃいます。こちらではビジネスサポートを主とし、さまざまな相談の窓口としてご活躍になります。具体的には、クラウドファンディングの活用やウェブによる顧客とのタッチポイントの交流など、顧客との接点や関係の構築を中心にアドバイスする活動を進めてきました。
 一般的なビジネスサポートセンターは、地方自治体がセンターを運営するのに対し、摂津市は摂津市商工会がセンターを運用することから、商工会が実践する経営指導との連動が可能になります。具体的には、商工会会員企業への接続がスムーズになることから、一時的、局所的なサポートやアドバイスに留まるのではなく、伴走サポートが可能になるばかりか、交流会の開催による多様な事業者コミュニティの構築が実現します。こうして2021年には「ものづくり企業課題解決研究会」を実施することになりました。各社の問題解決を洗い出すうちに、複数の企業に共通の問題を束にして解決することが模索されるようになり情報交換ができていき、幾つかの解決策が見通せるようになりました。
 このようになっていくと、事業者主体の課題解決ができないかと考えることができるようになります。これが、「中小企業ものづくり共創協会」設立につながります。異業種企業の交流を通じて、ものづくり技術の継承が実現したり、ワークショップによる新しい価値の創出が見通せるようになります。
 「中小企業ものづくり共創協会」が設置された今では、関西職業能力開発促進センター、北大阪高等職業技術専門校、大阪機械卸業団地協同組合などさまざまな組織との連携が可能になり、あらゆる問題解決が可能になる状況が生まれています。サポートや支援はボランティアで行う一方で、連携による問題解決は収益事業にすることで、活動の継続が可能になっています。この継続的な活動のコアについて、具体的には4つの事業者が協会運営に携わっているのですが、4つは異業種であるがゆえに、さまざまな組織との関係を活かすことができます。製品開発、DXなどテーマは明確でも開発から営業へ、あるいはシステムの導入と運用という部分に課題を抱えるケースが多いため、垣根となっている事柄を発見して克服の方法を見つけていくことで、実績が生まれていくほか、収益も獲得できるので活動が継続できます。
 これらをまとめると、相談抜きに問題解決は始まらないほか、相談への支援が互助的な関係の起点となります。さらに、マッチングだけでは不完全な関係であり、問題解決の全体像には到達しません。継続した関係とそのために必要なコスト、時間を使いながら目標の達成に近づいていく必要があり、ここまでを想定しなければコミュニティが活かせる状況にはなりません。山之内氏にとって、大東市が支援から始まるケースだったことに対し、摂津市はビジネスのマッチングに関心が向けられていたケースだったことが、両者のどちらかに留まらない良いところをミックスする実践に結びついていきます。これが山之内氏の考える価値共創を前提としたコミュニティ・ビジネスのかたちであり、それは緻密な取り組みに根差した実績に基づくものでした。
 

 
ディスカッション

山之内 敦 氏(同上)
藤岡 芳郎 氏(同上)
今村 一真 氏(茨城大学 人文社会科学部 教授)

 今回の参加者には、行政の立場の方もいらっしゃいました。地方自治体は地域社会の問題を解決する主体でもあり、行政だからできることもあれば、できないこともあります。この問題にどう向き合うべきかについてのご質問がありました。
 このことに対し山之内氏は、行政が困っていることを聞くようにしている。行政は政策や指針がないことはできないと思っているので、困っていることに耳を傾けるのが自分の仕事だと思っているとの回答がありました。互いの弱点を埋めながらできることを増やしていこうとするのも、一緒に問題解決できる仲間としての前提ではないかというのが、山之内氏の考えでした。
 また別の参加者として、顧客との共創を通じた商品やサービスの開発を実践する実務家がいらっしゃいました。こちらは、PDCAを重んじる大企業ほど価値共創を想定した主体間の関係が馴染まず、案外外資や中小企業の方が、プロセスを重んじる行動が可能になるとの指摘がありました。藤岡先生による「インフォーマルな部分抜きに問題解決に必要な前提を共有することはできず、それはすなわちマネジメントサイクルに馴染まないことにつながる」との指摘は、とても腑に落ちるとの感想をお持ちでした。
 さらにほかの参加者からは、製薬企業のオープンイノベーションだけでは不完全な患者との共創をどう捉えるべきかという質問も投げかけられました。これについて山之内氏は、コミュニティ・ビジネスと前提は異なるものの、多様な主体が関与する必要性は同じであり、難しい問題だがとても大切な視点であるとの指摘がありました。これは、参画する主体の利害が調整されながらも、最終的には顧客(ここでは患者)にとっての価値が尊重される取り組みにする必要があり、その仕組みや構造こそが価値共創のマネジメントだからです。当然、製薬企業単独のオープンイノベーションだけで患者の価値が向上するというほど単純ではないのですから、価値共創のマネジメントは、さまざまな舞台を想定した検討が可能だといえます。
 
 今回もユニークな議論が幅広く展開できました。今回の研究会の大きな特徴は、いうまでもなく価値共創のマネジメントへの言及です。本日の藤岡先生を中心とした議論は、伝統的な価値共創の見方である企業と顧客というダイアディックな捉え方に留まらない、多数の主体を踏まえた取り組み事例をどのように説明できるかにありました。最終的にはサービスの受け手としての顧客の価値を意識した取り組みであったとしても、その取り組みに参画する主体が多数である場合にマネジメントの視点が求められ、それが顧客の生活世界を舞台としたとき、どのような合意形成に基づく関係性が機能していくのかが問われます。これを価値共創のマネジメントとして論じることで、顧客の生活世界を舞台としたコミュニティ・ビジネスが説明できるというものでした。理論的な含意を応用した特徴的な研究成果であるとともに、優れた実務家たちの言葉の全てに含蓄があり、充実した研究会になりました。
 
(文責:今村 一真)

 
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