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研究報告会レポート

第24回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「地域活性化、そして企業のサスティナブル・マネジメントを考える」

第24回プレイス・ブランディング研究報告会(春の三都市リサプロ祭り:大阪会場) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:地域活性化、そして企業のサスティナブル・マネジメントを考える
基調講演:上田 隆穂 氏(学習院大学 教授)
ファシリテーター:徳山 美津恵 氏(関西大学 教授)
日 程:2024年3月9日(土)14:30-15:50
場 所:武庫川女子大学 中央キャンパスおよびZoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 今回の研究会の講師は、プレイス・ブランディング研究会設立当初より主力メンバーとして研究会に貢献してきた上田隆穂氏です。上田氏は価格戦略の専門家ながら、アマゾンやチベットといった日本人にはあまり馴染みのない国々に飛び込み、視察調査や様々な教育体験を重ね、その視点を持って日本国内の様々な地域でアクション・リサーチに取り組んできました。そこで、今回は上田氏ならではの地域活性化の事例をもとに、地域活性化と企業のサスティナブル・マネジメントについて考えていく会となりました。
 

 
 まず最初に地域活性化マーケティングの基本的な考え方が紹介されました。地域が魅力的になる、地域産物が外部で売れ出す、新規産業が興る、就業するチャンスが豊富になるといった形で、地域が良くなっていくにつれ、新規住民や観光客が増え、新しいビジネスや投資がやってくると、地域は有名になり、さらに人口が増えたり、観光その他の施設が充実して地域が豊かになったり、といったループが必要になると上田氏は指摘しました。
 地域活性化、特に過疎地では地域住民が豊かに楽しく暮らせることが目的であり、その際、経済的豊かさが注目されがちだが、精神的豊かさも重視する必要があるとのことでした。また、地域活性化はマーケティングだけではない包括的な概念であるため、ブランディングの考え方を活用しながら、様々な要素を組み合わせ、包括的なプロジェクトを作っていくことが重要だと言えます。枝廣純子氏の「漏れバケツ理論」では、地域内マネーの循環と拡大が必要だと指摘されています。そこでは、地産地消ではなく地消地産が重要であり、この考え方をもとに沖縄や能登でおせち料理の製造・販売プロジェクトに取り組んできたそうです。なぜお節料理かというと、おせち製造には多種多様な業者が関わるためで、ビジネスの成長によって、地域内の雇用も拡大し、定住促進にも繋がっていく循環が描けるからとのことでした。沖縄ではこのプロジェクトは、担当組織作りができず、うまくいかなかったようですが、石川県能登町では、組織ができつつあり、継続しているそうです。能登にはおせちという文化があまりないためユニークな発想が出てくることやSDGsにも対応したプロジェクトであることが紹介されました。
 上田氏は能登町に2009年から関わっています。当初は薬草を用いた薬膳料理のプロジェクトをスタートさせたそうですが、そのアイディアの原点は、スリランカのハーブ工場の視察やペルーでの調査の際に薬草の可能性を知ったからだといいます。しかし、このプロジェクトは盛り上がらず、おせちプロジェクトに移行しました。現状に満足した人が多い(主として高齢者)と、プロジェクトは進まない(が、若い人の流出は確実に進む)とのことでした。地域活性化プロジェクトを行う際、その担い手や内発性、すなわち地域内で核となり推進する人や組織が重要であることが指摘されました。
 次に、地域ブランディングにおいて、テリトーリオ・アプローチの重要性が指摘されました。統一イメージとしてのテリトーリオは、観光も一体化された広義の景観であり、差別化できる原風景であるといいます。ヴェネチアのペスカツーリズモを視察した際、地元の漁協が行うソフトシェルクラブの育成、捕獲といった一連の作業を見学した後のレストランでの食事が印象的な体験価値となったそうです。もう一つの上田氏にとっての強烈な体験価値は4,000メートルの山の上から自転車で3日間かけて下る体験だったそうです。ターゲットとなる顧客に対しての、こうした体験価値の累積が重要であり、そのために地域のブランド・アイデンティティとなるテリトーリオに基づいて、ストーリー(物語)を編集し、再編する必要があるとのことでした。
 その際、ナンバーワン、オンリーワンの重要性も指摘されました。ナンバーワン、オンリーワンで地域のブランドを強化し、差別化することが必要として、世界一番高い駅であるが、ほとんど知られていないチベットへの青蔵鉄道の駅やチベットの絶景が紹介されました。透明度の高い海の他に見附島(能登半島地震で被害を受けてしまったそうです)や千枚田、真脇遺跡といった様々な資産を持つ能登町ですが、中でも全国2位のイカの水揚げ量を誇り、話題になったイカキングのモニュメントが有名です。ただし、ナンバーワンではないため、オンリーワンになれるものを見つけていくことが重要であると指摘されました。前半の最後に、こうした理論と実践から導き出された地域活性化マーケティングのポイントが紹介されました。
 

 
 続いて、後半ではサスティナブル・マネジメントの概念を整理し、定義を明確にした後、サスティナブル・マネジメントの事例として、アルギン酸を生産するキミカの事例が紹介されました。キミカは日本の中小企業ながらアルギン酸トップシェアのグローバル企業でもあります。サスティナブルな視点としては、チリの浜辺に打ち上げられている海藻を地元の漁師たちに集めてもらい、アタカマ砂漠で乾燥させ、そこからアルギン酸を抽出するだけでなく、海藻から出た残渣を肥料として地元に還元することを行っています。様々な分析の結果、サステナブルを追求することが、その会社にどのような利益をもたらしているかということが非常に重要なポイントになってくるとのことでした。サスティナブル・マネジメントに関しては、来年度に書籍での刊行を予定しているそうです。
 

 

 
 参加者からは「もっと旅をしたくなった」という感想の声が漏れる中、その後の質疑応答も盛り上がり、地域内循環のデザインについての質問の他、プロジェクトの持続におけるブランド化の重要性、地域内での連携のポイントや行政の縦割りの弊害、地域の人との関係づくりなど、参加者の実践における悩みから多くの質問が出され、上田氏からは自身の経験をもとに実践のアドバイスとなるような回答がなされました。
 上田氏の地域活性化の取り組みと理論化は、地域ブランディングの魅力を伝えるとともに、アマゾン、ペルー、スリランカ、チベットといった世界の国々での学びを、自らのアクションリサーチに活かすという、理論と実践のバランスが絶妙なマーケティング研究者の新しい形を示すものとなりました。

 
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